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犯人達の工作  作者: 髙橋朔也
モルグ街の殺人
11/17

操人る~あやつる~ その参

「大体わかった。この現状では犯人が誰かはわからないな」

「そうですか...」

「まあ、僕は腕が立つわけではないから、ゆっくり行こう」

「わかりました」

 小室もこの頃はあまり博識とは言えず、安楽椅子探偵としてはまだまだだった。

「では、私はこれで。仕事がありますから」

「ああ、わかった」

 私は五号室を出た。


 一方、三笠家ではまだ食事中だった。

「これから、地代を上げる」

 宗司の一言で、一同は凍りついた。

「兄さん、それはさすがに...」

「司は黙ってろ! 地代を上げると俺が言ったら、上げるんだ。小作人など所詮(しょせん)使い捨ての駒に過ぎない」

「これ、宗司! バカなことを言うでない!」

「親父は黙れ! 地代は必ず上げる! そのことは宗弥も認めている。大志も圭吾(けいご)もだ」

 圭吾とは、三方大志の兄だ。現在、三方家の実権を握っている人物である。

「圭吾! 大志! 宗弥! 貴様らわしに黙って、勝手に...!」

「親父、うるさい! 親父は占いでもしてろ」

 宗二は老人の趣味で占いやお悩み相談、はたまた怪談なども行っている。

「わしの趣味は関係ないじゃろ!」

「うっせえな。地代は上げるぞ」

「チッ!」

 宗二は地団駄を踏みながら、奥に消えていった。


 同日午後八時。私は温泉の支度が出来たことを小室に伝えに行った。

「失礼します」

「どうぞ」

 小室は床に寝そべりながら本を読んでいた。作者はエトガー・アラン・ポーでタイトルは『モルグ街の殺人・黄金虫』(新潮文庫)だ。エトガー・アラン・ポーなんて聞いたことないな。

「その本はどんなもの何ですか?」

「ああ、これか?」

「ええ」

「これはエトガー・アラン・ポーの作品で、世界で初めて執筆された推理小説『モルグ(がい)殺人(さつじん)』や世界で初めて執筆された暗号解読小説『黄金虫(おうごんちゅう)』などが収録されている。他には『(ぬす)まれた手紙(てがみ)』『群衆(ぐんしゅう)(ひと)』『おまえが犯人(はんにん)だ』『ホップフロッグ』なども入っている。これは全部がミステリーだが、推理小説としては『群衆の人』と『ホップフロッグ』は除外される。が、『群衆の人』は短いが面白い。語り手が挙動不審の老人を追いかけて正体を探るが、結局答えは出ないまま終わる。これは好きだ。『ホップフロッグ』は僕は嫌いだ。ホップフロッグという道化師が大臣を殺して逃げるが、殺し方が巧妙なだけなんだ。

 『モルグ街の殺人』と『盗まれた手紙』はオーギュスト・デュパンという安楽椅子探偵が解決する。『モルグ街の殺人』は密室殺人で犯人はオランウータン。窓に釘が打ちつけられていたが中で折れているから密室ではなかったというのが真実。だが、食い違う証言は少し面白い。犯人が何人(なにじん)かで論争が起きる。

 オーギュスト・デュパンが登場する作品は全三作品だが、二作品目の『マリー・ロジェの謎』は実際の事件を題材にしているがポーはことごとく推理を失敗している。だから、この短編集には掲載されていない。三作品目の『盗まれた手紙』は名作と言われている。これは完璧に安楽椅子探偵作品だ。面白いぞ。

 『おまえが犯人だ』は最終的に犯人自身に自白させて解決するんだが、その方法がまた巧妙、というか面白い。

 『黄金虫』は文字数とかで解読するんだが、説明が難しい。まあ、百聞は一見にしかずだ。読め」

 小室から本を渡された。青空文庫では『モルグ街の殺人』『マリー・ロジェの謎』(青空文庫では『マリー・ロジェエの怪事件』というタイトル)『盗まれた手紙』『群衆の人』『黄金虫』が無料公開されているから無料で読める。残念ながら『おまえが犯人だ』と『ホップフロッグ』は読めなさそうだ。ちなみに『まだらの紐』も読める。

 まあ、『モルグ街の殺人』は出来れば読んで欲しい。なぜなら、これから起こる密室殺人は『モルグ街の殺人』の状況と似ているからだ。と言っても、釘が打ちつけられていたが中で折れていた、なんていうトリックではないが...。

「それより、小室さん。温泉、入れますよ」

「ああ、わかった。では、入ろうか」

「では、その間に食事の準備をしておきます」

「頼むよ」

 小室は着替え一式を持って、五号室を出た。


 次の日の朝。康成は宗弥と一緒に宗弥の部屋で寝ていたが、事件が起こった。部屋で変な音が聞こえた、と警備員が急いで知らせに来たのだ。宗二は急いで宗弥の部屋に向かった。宗司も気になって着いてきた。

「宗弥、康成! わしじゃ!」

 宗二は扉を叩いた。宗弥の部屋は頑丈な造りで、扉には鍵が二つ付いている。合い鍵はなく、宗弥自身が厳重に管理していた。宗二もやむなく扉を破壊して、中に侵入した。そこで、宗二と宗司が目にしたのは、無残な姿で宗弥と康成が刺されている光景だった。夜は扉の二つの鍵を掛けていて、かつ警備員が二人も近くで警戒していた。窓には釘が打ちつけられていて、完全な密室だった。そして、警備員が聞いた変な音とは、つまり声だ。一人がアジアの国の言語のようだと一人の警備員が証言した。もう一人の警備員は正確に『中国語』だったと証言。他にも声が聞こえたが、それは宗弥の叫ぶ声だったらしい。警備員二人の証言をまとめるとこうだ。中国人が密室に侵入して宗弥と康成を殺した、ということだ。いっておくが宗弥と康成は中国語などできない。また、音声を発する電子機器は密室内にはなかった。これが『モルグ街の殺人』と状況と類似した密室殺人ということだ。

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