産まれながらに嫌われている男はその手で何を掴むのか
俺は産まれた時から周囲に嫌われていたらしい
理由はわからない、だが村の住人も、そして血が繋がっている兄弟、肉親すらも俺の事を嫌っていた
この村が属している国では昔疫病が流行ったらしい
その時大多数の人間が死んだのでなんとか子供を増やそうと12歳以下の子供を捨てる事ができないという法律があった
もし捨てた事が知られてしまえば少しの金の為に町の住人は喜んでお偉いさんの所へ走って行くだろう
だから俺はもうすぐ12歳という年齢までは生きる事が出来ていた
毎日両親と呼べるものから与えられる食事は上と下にいる兄弟達よりもかなり少ない
腹が減ったら家の周りに生えている草を食べる事なんてしょっちゅうだ
畑仕事やら雑用とかは一番俺が多いのにな
家の外で寝かしていると捨てたんじゃないかと噂をされる為に一応室内に寝床はある
だが室内と言ってもそこは倉庫である
雨風が凌げるだけまだましという物だが俺がそう達観できるようになるまでに時間はかかった
一応着る物は与えられてはいたが兄弟とは雲泥の差だ、何故ならこれは服ではない、ただの布だからだ
何故俺だけがこんなにも嫌われているのだろうか
何故俺は周りと違うのだろうか
そんな事を子供の頃に考えていた、だが答えなんてでるはずがない
だから俺は将来、あと数日後に迫った12歳の誕生日から先の事をずっと考えている
この嫌われっぷりだ、12歳の誕生日を迎えると同時に俺は捨てられるのが手に取るようにわかっていた
この村ははっきり言って貧しい
両親と呼べるものが何度も法律さえなければお前みたいな奴は捨てていると怒鳴ってきた
何度も何度も殴られた
何故着る物を与えられているかわかるか?
殴られた後を村の住人に見せないようにするためだ
だからその与えられた布を身に着けていないとさらに殴られる
少しでも殴られない為に俺は常に身体にその布を巻きつけている
俺は12歳になったらこんな所から出ようと思っている
この村は貧乏だが幸い強いモンスターなどは出てこない
弱いモンスターから初めて少しずつレベルをあげスキルを磨き生き抜いてやるんだ
そして何度か日が変わり明日が俺の12歳の誕生日
そして俺が捨てられる日でもある
どうせなら自分から家を出てやろうと家にある包丁を盗んで俺は家を飛び出した
明日にはどうせ無一文で家から追い出される、それなら敵を倒す為の武器くらい頂戴していっても罰は当たらないだろう
俺は包丁を握りしめ家から飛び出すと無我夢中で走り出した
近くの家を通り過ぎる時にそこで飼っている犬が俺に向かってかなり吠えてきやがった
いつもそうだ、あの犬は、いや、犬だけではない、どんな動物だって俺が近付くだけで吠えたりひっかいたりしてきやがる
ぶっ殺してやろうかとも思ったが今は家から逃げるのが先だ
俺はそのまま森の中へと消えていく
「急に吠え出したから何かあったのかと思ったけど急に大人しくなったわね」
「どうせまたあそこのクソガキが近付いたんだろ、まったく普段は大人しいのにあのクソガキが近付くとかなり吠えやがる、なんなんだあのクソガキは、明日文句を言いに行ってやる」
俺は走った
だが12歳の子供の体力なんてそんなにはない
お腹いっぱいになるほど食べた事なんてないんだ、余計だろう
だがこんな所で立ち止まってはいけない
ここは森の中だ、この森の中にはモンスターがいるから入ってはいけないと兄弟に向かって言っていたのを知っている
だからこそ追いかけてこないだろうと考え森の中に入っていったのだが包丁を盗んだという高揚感が冷めてきた時急にその考えが間違えていた事に気付いた
そこまで深い森ではない、日中になら何度も入った事もあった
だが夜に入ったのは初めてだ、怖い、音がなにもない、怖い、自分以外が音を立てる、怖い、自分の呼吸音や心臓の音がうるさい、怖い、怖い怖い怖い
流石に夜中に森を抜けれるとは思えなかった
もし地上にいて何かに襲われたら大変なので俺は木に登り朝まで眠る事にした
だがこの恐怖心を抱えては眠る事はできない
俺は結局朝日が昇るまで一睡もできなかった
日が差してきた時安心感からか急激に眠気に襲われたのでそのまま木の上で眠った
起きた時には太陽はもう頭の上まで来ていた
よく落ちなかったものだ
木を降りて俺は駆け出した
腹が減った、しかしそれ以上に喉が渇いた
こんな事ならついでに水も盗んで来ればよかった
だが今更もう帰る事はできない
俺は駆け出した
この森を抜けた所に川があると聞いていたのでそこを目指した
無事に辿り着けたのは奇跡的と言ってもいいだろう
川の水で喉を潤していく
今まで生きてきた中で一番美味い水だったかもしれない
ごくごくと水を飲んでいると後方で物凄い音が聞こえた
まるで何かが爆発したかのような音だった
俺はまるで何かにとりつかれるようにその場に向かった
本来なら力のない俺の様な奴が大きな爆発音に近づく事は自殺行為であるなんて事は一切考えなかった
ふらふらと音がした方向に近づくとそこには白い見た事もない動物が血だらけで横たわっていた
一応包丁を手に持ちながらその動物へと近づいて行った
「おい、そこの人間よ、そんなものを放っても俺はもうじき死ぬ、だからそんなものは無意味だ」
「放つ・・・?お前はなんなんだ?言葉を喋れるのか?」
「なんだ・・・お前は自分のスキルも把握できないのか、よく見れば格好も汚い、捨てられたか、あるいはどこからか逃げてきたかか」
「な・・・そ、それが何だって言うんだ!!」
俺は状況を当てられ慌てて包丁を構える
「こ、こっちには武器だってあるんだぞ!!」
「そんなもの使った所で俺には傷一つつけられない、それに俺は時間が経てばどうせ死んでいく身だ、そんなものは閉まっておけ」
だが俺は包丁を仕舞えずにいた
言う事を素直に聞くのが少し怖かったのかもしれない
「まぁいいか・・・おい、小僧、俺はな、長年群れを率いていた、そして若く強い者が俺を倒しそれを引き継いでいく事になった、群れの長は倒され若い力の助けになる、それが群れの掟だった、だがな、そやつと決闘している時に足を滑らせてしまって雲から落ちてきてしまったんだ、追いかけてくるかとも思ったがどうやらそんな事をする余裕はないのだろう、俺も大分あいつに傷を負わせたからな、はっはっは!!」
「なんだって?雲の上から!?雲の上にはお前みたいな奴が住んでいるのか!?」
「ああ、そうだ、普段は魔力で姿を見せないようにしてはいるが今の俺にはその魔力も残っていない、なあ小僧、お前はこれからどうやって生きていくんだ?」
「お、俺は!これから魔物を倒しレベルをあげ一人でも生きていけるようになるんだ!!」
「そうか、じゃあ俺に止めを刺せ、大半はあいつに行くが小僧にも少しは力が流れていくだろう」
「な、なんだって!?」
「はやくしろ、そうでないとお前の取り分がどんどんと無くなっていくぞ」
「そんな事言われても・・・どうしたら・・・」
「その刃物で俺の心臓を突き刺せ、大丈夫だ、刺さるように力を抜いておいてやる、だからはやくしろ」
「そ、そんな事言われても・・・俺動物なんか殺した事ない、しかも喋れる動物だなんて・・・」
「一人で生きていくんだろ?そんな事も出来ないのか、小僧・・・小僧、名前は何て言うんだ?」
「名前・・・わからない・・・」
「わからない?人間には誰しも名前があるんじゃあないのか?」
「わからないんだ・・・呼ばれた事・・・ないから・・・」
「そうか、じゃあ俺が名前をつけてやろう、俺には名前なんてものはないが種族は白虎と言ってな、そこから一文字とってビャクだ、お前はこれからビャクと名乗れ」
「ビャク・・・俺の・・・名前・・・俺の名前はこれからビャク、ビャクか!!」
「ああ、そうだ、ビャクよ、よく聞け、確かに俺はビャクに殺してほしいと頼んだ、しかしそれは力を受け継ぐという事でもあるんだ、お前がこれから一人で生きていくいくというのなら俺の力を持っていったとしても損なんかないだろう?」
「で、でも・・・俺・・・」
「はぁ・・・」
ため息をつきながら白虎は立ち上がる
血を流していて立ち上がるのもかなり辛そうだ
「ビャクよ、その刃物を構えろ・・・早くしろ!いいから構えるんだ!!」
白虎が牙をむき出しにしながら怒鳴るので俺は咄嗟に包丁を構えた
「がああああああ!!!!」
「ひっ!!」
白虎が急に飛び掛かってきた
よく見るとその心臓に包丁が深々と突き刺さっていた
「お、お前・・・」
「ふふ、これでいいんだ、ビャクよ、頭の中に何か言葉が浮かんでこないか・・・?」
「ああ・・・なんか知らない人の声みたいなのが・・・なんだこれ・・・」
「ふふ、それはな、お前のレベルが上がったっていう事さ、よかったな、少しでも足しになったようだ・・・」
「あ、ありがとう、ありがとう白虎!!」
「いいんだ、なぁに、このまま一人で死んでいくのは寂しいと思ってた所だ、俺の種族は死んでも何も残さない、だがこれでお前の中に少しでも残ると思えば・・・いい心持ちで死んで行けるというものだ・・・」
俺は涙していた、知らず知らずのうちに涙していた
それは白虎が自分の為に死んで行ってくれた事についての涙だった
だが頭の中を忙しく流れていく言葉によりその涙は意味を変えていく
『レベルが上がった事によりスキル「オートプロボーク」のオンオフの切り替えができるようになりました』
『レベルが上がった事によりスキル「オートプロボーク」の対象を選ぶ事ができるようになりました』
『レベルが上がった事によりスキル「オートプロボーク」の対象を選ぶ範囲が増えました』
『レベルが上がった事によりスキル「オートプロボーク」の・・・
俺は泣いていた
自分が嫌われて生きてきた意味がようやく分かったのだ
レベルが上がった事により産まれながらにスキルを持っていた事、そしてそのスキルの効果がわかったのだ
「あははははははは!!!!!だから!だから俺は嫌われていたのか!!!原因は俺にあったのか!!!!だから嫌われていたのか!!!だが!だがもうこれで嫌われる事はなくなったのか!!!!ありがとう、ありがとう白虎、名前をありがとう、そして俺はこれで・・・これで人として生きていけそうだ!!!」
産まれながらに持っていたスキル「オートプロボーク」
効果は範囲内にいる生物に自動で挑発をし敵視を増やしていく、ただそれだけのスキル
「ははははは!!!俺は・・・これで・・・もう嫌われずに済むのか・・・これで・・・・」
ひとしきり俺はその場で泣いていた
死んでしまった白虎は何も残さず消えてしまったのでこの場に残ったのは俺だけだ
俺は俺の中にこんなにも水分があったのかと思えるくらい泣いていた
そして立ち上がった俺は軽くなった足で森を抜け大きな町を目指す
その数年後冒険者の中に常に魔物と目を合わせたまま敵視を取り続け1対1なら後衛職に傷一つ負わせない事で有名になる剣士が名前を上げる事になっていく
ってな文章を考えつきましたが続きません