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スプーン持った勇者が行くよ!  作者: 名種みどり
第一章 勇者誕生!
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第五話 湖の町アンドル

 スピードは、アンドルの空き地に降り立った。


 アンドルはとても賑やかな町だ。かつて星が降って出来た湖、と言われているアンドル湖の周りに、白い壁の二階建ての家が所狭しと並んでいる。表通りは露店を出すためにかなり広い。路地裏には怪しい商売が蔓延っているそうだ。

 

 オーブ達は人通りの多い道を進んで行った。

 巨大な鳥のスピードの姿を見た町の人々は、すぐに前を歩いている白髭の老人が大賢者だと気が付いた。メントルが巨大な鳥を引き連れていることは有名なのだ。


「すごい! こんなに人がたくさん居るところなんて見たことないよ」

 オーブがはしゃぎ回るため、翼が通行人にぶつかった。通行人は翼の生えた少年に目を丸くする。ごめんなさい、と一言言い顔を上げると、仰天した。噂に聞いていた巨大な鳥だ。つまりこの子供は大賢者の連れ人。

「たたた、大変申し訳ありませんわ。どうか命だけは」

 顔を青くした女性は、甲高いよく響く声で懇願する。

「これはこいつが悪い、お前は行っていいぞ」

 メントルはオーブを指さして言った。

「ありがとうございます」

 女性は足早に立ち去った。


「こら、お前は大人しくできないのか」

「ごめんなさい。つい楽しくって」

 その様子を見ていた精霊ヒスイは、思わず吹き出した。

「あいつ見たか? この世の終わりみたいな顔してたな」

 オーブは返事をしようと思ったが、メントルとの約束を思い出して口を閉じた。

「オーブは真面目だねぇ」

 ヒスイはつまらなそうに呟いた。


 メントルは黙って道を歩く。退屈になってきたオーブは質問した。

「おじさん、どこ行くの? かき氷?」

「かき氷ではない、町長のイーサンに会いに行くのだ」

「イーサン?」

「ああ、陽気な爺さんだ。前に会った時、勇者オーブに会いたいと言っていたから、お前の姿を見たら喜ぶんじゃないかと思ってな」

「僕は勇者じゃないよ?」

「その翼を見るだけでも喜ぶだろ、それにお前はもしかしたら勇者かもしれないしな」

「僕が勇者? そんな訳ないよ。勇者は力持ちで強くてカッコイイんだよ!」

 オーブは笑う。

「将来は勇者になって世界を救っているかもしれないぞ」

 メントルは真面目そうに言う。

「本当になれたら良いな」

 オーブは恥ずかしそうに呟いた。


 坂道を登った先に、町長イーサンの家はあった。アンドル湖を一望できて、いつも心地よい風が吹いている場所だ。

「おーい。メントルだ。覚えているか? 勇者オーブを連れてきたぞ」

 メントルはイーサンの家の前で大声で叫ぶ。すると、白いやぎ髭の老人が、ドアを勢いよく開けて飛び出してきた。

「勇者オーブじゃって!? 本当か!」

 視線を下にやったイーサンは、高い天井に、頭をぶつけそうな程飛び上がった。

「背中の翼、金の髪、緑の瞳。本当に勇者オーブじゃないか。大賢者様の人脈には関心じゃ」

 興奮するイーサンに対してオーブは言った。

「違うよ。ただ名前が同じで、姿が似てるってだけで、力も弱いし、剣も使えない。スプーンだって上手く持てないもん」

「そ、そうか。すまない、つい興奮してしまった。それにしても、長年生きてきて翼の生えた人間なんて初めて見たのう。もっと見たいから上がっておくれ」

「ああ、失礼する」

「おじゃましまーす!」


 オーブとメントルが家に入ると、オーブと同じくらいの歳に見える少年が駆け寄ってきた。

「誰か来たの? って勇者オーブ!? 本物!?」

 オーブの姿を見ると、少年はイーサンと同じような反応をした。

「僕はオーブって名前だけど、勇者じゃないよ。でも、いつか本物の勇者になるんだ」

「すごい! 良いな。僕も冒険したい」

「そうだ! 僕が勇者になったら一緒に冒険しようよ。それなら君の名前を聞かないと」

「やったー! 僕の名前はクルト。町長さんに勇者の話をしてもらってたんだ。冒険楽しみ! 約束だよ」

 オーブとクルトの様子にメントルとイーサンは微笑んだ。

 イーサンは言った。

「子供ってのは、本当にすぐ仲良くなるもんじゃな」


 客室に入ると、お菓子とお茶が用意されていた。町長は奥の部屋に入ると、足りない分のお菓子とお茶を持ってきた。

 クルトが言う。

「ティーカップが一つ足りないよ」

「そんなはず無いのじゃが。ここに居るのは、ワシと大賢者様とオーブ君とクルト坊やだけじゃ。カップはちゃんと四つある」

「そこにいる青い人の分は?」

 それを聞いたヒスイは目を丸くした。

 オーブは驚いて言った。

「クルトはヒスイが見えるの?」

 イーサンも驚愕している。

「ヒスイとは誰じゃ。もしかして幽霊」

 震え出したイーサンに対し、オーブは言った。

「ヒスイは幽霊みたいだけど、幽霊じゃないよ。精霊って言って、見える人と見えない人がいるんだ」

 イーサンは体の震えを抑えながら言った。

「精霊じゃと。おとぎ話では聞いたことあるが、実在するなんて初めて知ったわい。今すぐティーカップを持ってこよう」


 それから五人で楽しくお茶会をした。ヒスイがお茶を飲むと、見えない二人からは、ひとりでにカップが動いているように見えた。ヒスイの言葉はオーブが訳し、おとぎ話のことや、見えない壁のことを話した。ヒスイは見えない壁の存在を知らなかったようだ。


 一時間ほどお茶会をすると、メントルは立ち上がった。

「楽しかった。ありがとう。もっと話したいところだが、今日はここまでにしておく」

 もうお別れの時間だと気がついたオーブも立ち上がる。

「クルト、今度会った時は一緒に冒険しようね!」

 再び小さくなったヒスイは、オーブのポーチに入る。

「まさか、俺の分のお茶も貰えるとは思わなかったぜ。クルト、爺さんにありがとうと伝えておいてくれ」

 三人は、笑顔でイーサンの家を立ち去った。


 再び、スピードに乗って飛び立つ。時刻は昼過ぎあたりだ。町は暖かかったが、上空は冷たい風が吹いている。

 町を出たので、オーブはヒスイと話し始めた。

「ヒスイってさ、このスプーンともお話できるの?」

「俺は、自我のある奴としか話はできねえ。スプーンには自我が無いから無理だな」

「そうなんだ⋯⋯ちょっと残念」

「オーブはそんなにスプーンと話がしたいんか?」

「いや、おとぎ話で勇者が自分の剣と話をしていたんだ。だから、物と話せたらカッコイイなぁって思って」

「そうか! 実は俺、剣と話したことあるんだぜ」

「本当! どうやったの?」

「きっかけは色々だけど、物にも自我が宿るときがあるんだ。あの剣も自我が宿った物の1つだったのさ。いつかそのスプーンにも自我が宿るかもな」

「スプーンに自我って宿るのかなぁ」

 オーブは笑った。


 そうこうしているうちに、前方に首都が見えてきた。

「見ろ。あれが首都、セントルだ」

 遠くに薄く、建物の影が見える。オーブは目を細めた。

 だんだん輪郭がハッキリ見えてきたその町は、アンドルの何倍も大きい。

 夕陽に照らされた、三階建てや四階建てのレンガ造りの建物の影が長く伸びている。一方、中央に高々とそびえ立つ純白の城は、太陽の光を反射し、眩しく輝いている。


「わぁ! お家おっきいね」

 オーブはスピードから町を見下げて言った。

「俺も前にここに来たことがあるが、本当に発展したな。まるで別の場所みたいだぜ」

 ヒスイは感心した。


 スピードは、城の門前に降り立った。

「メントルだ。今帰ったぞ」

 メントルは門番に伝える。

「お帰りなさいませ、メントル様。城の前で少々お待ちくださいませ。直ぐにアイヴァン陛下をお呼び致します。」

 門番は、襟を正して城の中に消えていった。

 


「壁抜け勇者」から「スプーン持った勇者が行くよ!」にタイトルを変更しました。

紛らわしくてごめんなさい。

投稿ペースは、高校があるので遅いですが、最低1週間に1回は投稿していきたいです。

今後ともよろしくお願いします。

感想を貰えると嬉しいです。必ずお返事します。

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