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風の名前を探して  作者: 律稀
初めましての君と、
4/11

 大勢の人が動く、空気が揺れる。話し声もちらほら聞こえてくる。新入生の方から聞こえてくる、よそよそしさのある声やはしゃいだ声は聞いていてとても微笑ましい。普通、そんなものが聞こえていたら心も穏やかになるはずなのに、私の心は絶望感やら怒りやらが渦巻いていた。

  本っ当にあり得ない何なの白空って。何のために私が真面目に、ミスしないように頑張って仕事したのか分かってるの!? ああー、もう新学期早々この一年どうなるか不安だよ……。目の前の司会席で偉そうにしてる白空の頭を平手打ちしてやりたい気持ちを抑えた私偉い。

  だから嫌だった、白空が最高幹部になるの。茜と白空が対照的なら、私と白空も対照的だ。名前でもそう。黒の私と白の白空。固くていつも腰が引けてしまう私と、柔軟でどこまでも行ってしまいそうな白空とは。だって、違い過ぎるんだもの。

  そもそも私と白空仲良くないし、私はむしろ白空のことが嫌いだ。でも白空の方が立場上だから、従わなきゃいけない時だって絶対ある。その時はきっと、私の気持ちを押し殺す時。嫌だな、私また戻るんだ。今の私も好きって言える訳じゃないけど、前の私はもっと嫌い。だから戻りたくなんてない。でも、もう避けられないのかもしれない。白空と同じ学校っていう時点で覚悟しておくんだった。小学校の頃から、何も成長出来てないな、私。

  すぐ近くにあるはずの騒ぎ声もどうでもよくなる。私の心の欠片は追憶の形を作り、心の平穏を奪っていく。漠然とした不安、焦り、不信感……目の前でちらつくそれらは鬱陶しいけど、私には払えない。全てから目をそらすように、そっと目を閉じた。


  入学式の後の軽いガイダンス。その時に新入生の教室をまわって挨拶。それが終わったら、直属の後輩のところに行って今後の動向について説明する。今日の仕事はそれで終わり。帰ったら何しようかな。

  一組、三組、五組、七組、九組。奇数担当は私で偶数は白空。ちょうど良かった。佳月君は九組だから、その分話し掛けやすくなる。次こそ上手くやらなきゃね。これ以上警戒されたらかなりきつい……メンタル的に。

  私が行くまでに、九組では白空の直属の後輩の夏弥ちゃんが居るはず。信頼してる後輩だけど、彼女も初めて先輩になるんだから、のんびりなんてしていられない。でも、やるべき仕事はきっちりとしなきゃね。後輩の前でぬるい仕事なんて出来ない。落ち着こう。一つ息をついて、足早に廊下を歩いていく。


  やって来てしまった。次はもう九組。上手くいきますように。

  一度深呼吸してから軽く三回ドアを叩く。大きすぎる音をたてないようにそっとドアを開ける。一年九組。二年前の私のクラス。慣れ親しんだ教室に居る、新入生達。教室の中は、新しい匂いで満ちていた。

「あ、黒華先輩。もう終わったんですか、お疲れ様です。今、自己紹介をさせて軽くガイダンスしてたところです。もう少しで終わりますよ」

  私もよく知る後輩、青木夏弥ちゃん。中学生の女子としてはかなり高い身長の、クールな印象のある彼女。しっかり者で人望も厚い。来年の最高幹部候補者だ。だから白空の直属の後輩であるっていうのも否定出来ないかも。どうして夏弥ちゃんをお抱えの後輩にしたのか、私は知らないから何とも言えない。

「そう、ありがとう夏弥ちゃん。流石に仕事が早いね。じゃあ、夏弥ちゃんの説明が終わったら私が話すから、終わらせてもらってもいい?」

「了解です。じゃあさっきの続きね。入学式の新入生呼名で、変だなって思った人が居るんでしょ? あれは男子の一番、女子の一番、それを交互にっていう風に呼んでいたから。普通の五十音順ではなかったってこと。でも、今の席順は男女ごちゃ混ぜの五十音順。テストとかはこの席順で受けるから、覚えておいて。……他に質問は?」

  冷静で淡々としている夏弥ちゃん。取っ付きにくさを感じる人も居るけど、仕事は出来るし頭も切れる。便りになる後輩だ。たまに頭が上がらなくなるもんね。

「……無いってことで締め切っていい? 黒華先輩、どうぞ」

「ありがとう、お疲れ様。えっと、新入生の皆さん、初めまして。コマンダー最高幹部補佐の梶野黒華です。入学、おめでとうございます」

「ありがとう黒姉! 茜九組になったよ」

  窓側から二列目、一番前の席で元気に手を振る茜。ちょっとストップ。

「え、ちょっと茜、学校でそんな風にしちゃ駄目でしょ。従兄弟同士だけど、先輩と後輩でもあるの。少し、接し方を変えてみるとかしてくれると有難いんだけど……」

  あ、しまった。従兄弟だって明言しちゃった。やらかした、うわあ消えたい。いや、違うんですよ、贔屓とかそんなのしないですって。身内の欲目とか絶対、入れないようにするつもりでしたし、はい。

「従兄弟ってマジかよ」

「あいつすげぇな、入学前から先輩にコネあった訳だ」

「ってか、あの子最高幹部の冬木先輩の妹なんでしょ? ヤバくない?」

「それだと、従兄弟で最高幹部と最高幹部補佐やってるってなるよね? いいの?」

「え、身内評価ってこと?」

「どうだかな。でも、コマンダーで了承されてる訳だろ? 大丈夫なんじゃね?」

  うわあぁぁぁぁ最悪だ、これ。従兄弟とかしばらくばれないようにしたかったのに……!

「く、黒華先輩、大丈夫ですか? あのね、黒華先輩そんな身内だからって贔屓するような人じゃないの。じゃなきゃ最高幹部補佐なんてならないから。憎らしいけど、白空先輩もそう。でたらめなんて止めてよ?」

  …………なんだろう、夏弥ちゃんの方が最高幹部補佐で良かった気がする。

「夏弥ちゃん、ありがとう……改めまして、梶野黒華です。明後日からの授業の説明、しますね」

  で、でも私がやらなきゃ、なんだよね…………?


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