8話 いよいよ入学!
「......え?」
玄関を開けて立っていたのは、長身でスーツを着た、サングラスの男だった。
「あの...どちら様で...」
俺の声は震えていた。正直、何とは言わんが出そうだった。でも、その男が声を発した瞬間に、その震え等は止まった。
「ここが森さんの家っすね?」
「え?あ、はい」
「たっちゃん!ここっすよー!」
スーツの男は後ろの向いてそう言った。後ろには何やら高級そうな車が止まっていた。
「もう...せめて外でその呼び方はやめてください...」
「あ、滝村」
「やあ森さん」
「もしかしてだけど...その人って...」
「あぁ。僕がファセットにいたころからずっと個人的なプロデューサーなんだ」
「咎 公平っす!よろしくっす!」
「あ、どうも」
俺は挨拶してしまった。最初は震えていた声も体も今じゃ完全に停止している。
「じゃあ森さん、上がるね。公平さんも、今日はもういいよ。明日また連絡する」
「了解っす。では楽しんで」
咎さんはそういうと高級そうな車に乗り、車を走らせた。
「驚かせちゃったかな?悪いね」
「いや、初めて会った時からやばい人かなとは思ってたけど、ここまでとは思ってなかっただけ...」
「そっか。まぁ、とりあえずお邪魔します」
「あ、荷物は空き部屋に...って言っても分からないか。廊下をまっすぐ行った突き当りを左の部屋ね」
「はーい」
滝村は言われた通りの部屋に入って行った。俺はリビングに戻る。
「あ、友ちゃんお帰り。滝村君きたの?」
「うん。今荷物を置いてもらってる」
「滝村のやつもう来たのか?早いな」
「僕もびっくりした。色んな意味で...」
それから滝村がリビングまで来たので、軽くご飯を作ってあげて、それから4人でいろいろ遊んでいた。久しぶりに心から楽しいと思えた気がする。
それから夜になって、ご飯を食べて各自部屋に行ったころ、俺の部屋に一人の訪問者が
「友樹、少しいいか?」
「ん?満?いいよ」
「入るぞ」
訪問者は満だ。しっかりノックと確認をしてから入るあたりしっかりしてくれてると思う。普通親密な友達だとそれをしないのが多いからな。
「満どうしたの?こんな時間に」
「いや、いろいろ確認したくてよ」
「???」
「お前、海星に行くんだよな?家から通うのか?」
「まぁ、そうなるけど」
「遠くね?」
そう。海星女学園は俺の家からだとそこそこな距離がある。それこそ、学校側から寮に来ることを進められているくらいに。具体的に言えば自転車でも頑張って1時間半といったところだろう。幸い、家から駅も近いし、女学園も到着駅からさほど遠くない。俺も好も電車通学をする予定だ。実を言えば寮生活より安いからこっちにしたんだけどな。
「電車で行くから大丈夫だよ?」
「にしてもだろ...まぁいいや。お前が寮生活にならないならいいんだ」
「?どういうこと?」
「きもいとか言うなよ?」
「そういわれても内容がわからないと約束できないんだけど...」
「俺が自覚してんだ。きもいって思われても仕方ねえことなんだよ」
「そういわれてもねえ...」
満は何を言いたいのか、この時の俺にはわからなかった。でも、今ならわかる気がする。なぜなら、こう軽い言い合いをしている間すら、満は少しばかり顔を赤くしているのだから。
「俺よ、お前のことが好きだわ」
「うん。.........え?いやいや!ちょっと待って!」
「なんだよ」
「好きって...恋愛感情の?それとも友達として?」
「言わなくてもわかんだろ。恋愛感情だ。俺自身おかしいとは思ってるが仕方ねえだろ好きになっちまったもんは」
「え、えぇー!」
満は俺のことが好きだと言った。それも友達としてではなく異性として。俺は、きもいというよりも先に、何かやばいものでもやってるのかと疑ったが、それならこんな真正面から告白はしないだろうと即座に判断した。そして、俺は聞いた。
「参考までに、なんでそうなったのか聞いても?」
「好きになった理由か?俺にもわかんねぇけど、女の子になろうとしてるお前を見ててときめいたのかもな」
「元々男だっていうのは忘れて...」
「るわけねぇだろ。忘れてたらおかしいなんて思わねえし、もっと早く告白してる」
「それはそれで嫌なんだけど...」
満が嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。友達としてはな。だからこそ、俺は無理だと思った。それに、今女の俺が言うのはおかしいかもしれないが、元男の俺を好きになるって同性愛者と言っても過言ではないだろう。
「それで、どうだ?俺と付き合ってくれるか?」
「ごめん、無理」
「即答かよ...参考までに理由は?」
「僕も満が嫌いなわけじゃない。でも、それは恋的に好きっていうのとイコールじゃない。僕が好きなのは友達としての満だから。付き合うとそれが崩れそうって言うのと、単純に気持ち悪い」
「それは言わねぇ約束だろ!?」
「約束はしてないよ?それに自覚してるんでしょ?ならいいじゃん」
「そうだけどよ...はぁ、振られたか...」
「その割には元気だね」
「元気が取り柄の俺から元気を取ったら何が残るよ」
「空っぽの頭?」
「ひっでぇな!はぁ...とりあえず、そういうことだ。悪かったなこんな時間に」
「いや、大丈夫だよ。多分、入学したらあまり会えなくなるからね」
「まぁな、それじゃおやすみ」
「うん、おやすみ」
満は俺の部屋から出ていく。そして俺は何も考えないようにしてそのままベッドに身を預けた。
ここまで飛ばし飛ばしで話してきた俺の話だが、ここからは割と細かく話すつもりだ。理由?簡単だよ。高校生活の話だからさ。みんなは知っているだろうから言うけど、2回目の性転換は高校生活中だ。それからの話が一番気になるんじゃないかと思ってな。だから、高校の入学からは少し細かく話していこうと思う。もっと細かく聞きたいなら作者に言いな。
4月8日月曜。海星女学園入学式。俺と好はクラス分けの掲示板を見ていた。この星海女学園は毎年定員人数が入学する。それもそうだろう。毎年倍率が1.5倍近くになるのだから。1学年入学者数。600人。1クラス60人のA~Jの計10クラスが今年の1年だ。そう、つまり俺と好が同じクラスになる確率は結構低い。それに連番だったことを考えると尚のこと低いと思われる。
「好、どのクラスだった?」
「友ちゃんは?あ、じゃあせーので一緒に言おう?」
「いいよ、せーの!」
「「Dクラス!」」
俺も好もDクラスと言った。つまりは同じクラスだったということだ。掲示板で見てたのに気づかなかったということは、お互いに相当緊張していたのだろう。
「同じクラス?」
「っぽいね」
「やった!友ちゃん!同じクラスだ!」
「やったね!これからもよろしく、好!」
「うん!じゃあクラスに行こうか!」
俺と好は少し古ぼけた校舎に入り自分のクラス、Dクラスの教室に向かった。
「えっと...ここであってるよね?」
「うん、あってると思うんだけど...」
教室の前に立っている俺と好。入り口には『D CLASS』と書いてある。だが、
「誰もいないんだけど...」
そう、俺たち以外に人がいなかった。ほかのクラスは少なくと半分はもうすでに来ていた。時間も、指定された時間の20分前だった。
「と、とりあえず教室で待っててみようか!もしかしたらこれからぞろぞろ来るかもしれないし!」
「そ、そうだね友ちゃん!椅子に座って待っててみようか!」
教室に入り、自分の席を探す。橫6列、縦10席の教室で、好は左から2列目、前から9席。俺は左から1列目、前から9席だった。まさかの席までとなりとは...。パット見て回ったが。どうやら右の前から後ろ、それから左に向かって出席順になっているみたいだ。奇跡的に隣になったっぽい。そして、指定時間の5分前になったが、結局誰も来ない。
「おかしいな...教室は間違えてないんだけど...」
「なんで誰も来ないんだろうね」
俺と好は自席に座りながら話していた。するとガラッと音を立てて教室のドアが開いた。
「えっと...君たちは?」
「あ、えっと...」
「ん?待てよ、そっちの君、見覚えが...」
「え?僕ですか...あ!東条先生ですか!?」
「あー、君は花崎さんの友達の...ってことはそちらが花崎さんね」
「はい。花崎好です」
「どうしてここに?」
「どうしても何も、ここDクラスだって...」
「あー、あなたたちも間違えたのね...」
「「間違えた?」」
入ってきた東条先生にそう言われてから気が付いた。この校舎が、前に来た時よりもかなりボロイことに。
「ここは旧校舎。もしかしてと思って毎年こっちも見に来てるの。ちなみに新校舎の場所はわかるわよね?面接受けてるものね」
「「あー!」」
俺と好がそれって気づく。だが、それと同時に疑問が浮かぶ。
「でも、それならなんで僕たちの名前の付いた机が?」
「多分、過去に同じ名前の生徒がいたんじゃないかしら?古すぎる机は使わないけど、リサイクル用にとっておいてあるからそれかも」
「ややこしいですね!しかも奇しくもクラスDって!」
「いいから早く新校舎に行きなさい。時間がやばいわよ」
「「あ...」」
時計を見ると残り3分を切ろうとしていた。
「先生!ありがとうございます!急ぎます!」
俺と好は全速力で新校舎に向かった。間に合う気はしていないんだがな...。