7話 俺ってかわいいの?
中学校卒業式。うちの中学校は、入学した高校の制服で卒業式を行うことになっている。俺と好は海星女学園の制服を着ている。学校に着くなり教室に行く。もうすでにほぼ全員が集まっていた。
「みんなはやいねー友ちゃん」
「そうだね」
俺たちもさっさと席に着き、先生を待つことにした。その間、満や滝村がいろいろ話しかけてきた。
「友樹、お前その制服...」
「うん、合格したよ。メールで言ったっしょ?」
「いや、そうじゃなくて...」
俺は困惑した。制服を見て合格じゃないとなると何が言いたいのかこの時は何も思いつかなかったからだ。
「そうじゃないならなに?」
「その制服かわいいな!」
そう。女学園だけあって制服がかわいかった。デザインどうこうは俺にはわからんが、襟の部分とスカートはチェック柄になっている。そして、非常に不本意ながら、制服を着た自分を鏡で見て、かわいいと思ってしまった。
「平野はそういうと思ったよ。森さん、海星女学園合格おめでとう」
「ありがとう滝村。その制服ってことは...滝村は」
「あぁ、僕は霧北高校。あの有名な男子校に合格したよ」
「おめでとう!」
「平野君は?その制服ってどこの学校?」
「ん?俺?俺は工業高校建築科だぞ」
「「「あ~」」」
「あ~じゃねぇだろ!もっとあるだろ!」
俺たちは揃って頷いた。満のイメージに合っていると聞いた瞬間に思ってしまったからだ。
「はーい、みんな静かにしてねー」
先生が入ってきたので俺たちはそこで解散し、自席についた。
「皆さん揃ってますね?おはようございます。いよいよ卒業式です。この3年間の締めくくりの場となります。気を引き締めてね。まだ少し時間あるから話してていいよ」
先生のその合図でクラスがまたにぎわいだす。もちろん俺もその一人だ。
「好」
「うん?どうしたの友ちゃん」
「なんか...いろいろありがとう」
「どうしたの急に?熱でもある?」
「ないよ!いやー、なんかさ。いろいろ支えられたなーって」
「そんなことないよ!私だって友ちゃんからいろいろ教えてもらったし!」
「教えたの料理くらいなんだけど...」
「そ、そんなことないよ!」
「じゃあほかって?」
「あ、いや、その...い、言えないけど!教えてもらったの!」
「なにそれ」
好のそんな返しに俺は笑った。教えられたのにその本人にそのことを言えないのってなんか変だと思ったからだ。この時はそのくらいにしか思っていなかった。そのタイミングで、先生から声がかかり、廊下に整列。体育館で行われる卒業式に出ることとなる。
卒業式を終え、最後のホームルームが始まる。ここで、学級委員長である満の提案で、先生に一言ずついうことになっている。本来は一人ずつなのだが、互いが了承すれば、最大3人で言えるようになってる。俺は好と2人で出る予定だ。もちろんトップバッターで。そして、先生からの連絡事項が終わり、先生が号令を掛けようとしたとき、満が立った。
「先生!俺たちに少し時間をください!友樹、花崎。いいぞ」
「「うん」」
俺たちは満の合図で教壇に上る。そこで先生に一言。好から言う。
「先生。私たちを3年間支えてくれて、ありがとうございました。最初、この中学校にくるってなったときすごく怖かったんです。知り合いもほかの学校に行っちゃって、知り合いが少なかったから...。でも、先生が優しく駆け寄ってくれて、元気が出ました。先生がいてくれたから、私はここまで頑張れたと思います。私は海星に行きますが、そこでも頑張っていきます。心配しないでください。ありがとうございました」
好が一礼する。先生は涙を堪えながら好に言った。
「確かに大変だったね?でも、森さんもいてくれて、平野君もいてくれて、みんなが支えてくれたから、あなたはここにいる。そこに私もいるかもしれないけど。やっぱりクラスのみんなが一番だと思うわ。心配してないっていうと嘘にはなるけど、応援はしてるからね」
「はい!」
好は元気よく返事して。それと同時にクラスで拍手が起こる。そしていよいよ俺の番。
「マリー先生。3年間...いや、それ以上ですかね。ありがとうございました。やっぱり一番は性が変わったときですね。フォロー本当にありがとうございました。あのことは感謝してもしきれません。それに、好もそうですが、マリー先生のおかげもあって女の子らしくふるまうことができるようになって、晴れて海星女学園合格して...。もう、いろいろありがとうございました。」
「そうね...性に関しては本当にびっくりしたわ。最初からこの子は女の子じゃないのかなと思ったこともあったけど、ちゃんとした男の子だったものね。それが本当に女の子になっちゃんだから。それからの生活も大変なことばかりで、花崎さんと私で対応してたものね。今となってはほとんど一人でやってるし。何も言うことないわ。あなたはもう女の子。自信をもって、学園生活を楽しみなさいね?」
「いまだに女の子といわれるのは不本意ではありますが、わかりました。マリー先生もお元気で」
俺はマリー先生に抱き着かれた。俺も先生も泣いている。やっぱり親のつながりもあって親密ではあったから、そんな先生と離れるのがどこかさみしいのだろう。
それからクラス全員が先生に一言を終えた。そのころには先生は目元を真っ赤にしている。
「では皆さん。本当にありがとう。最高の3年間でした。これからみんな違う道に進むけど、いつでもおいで。先生は待っているから。困ったら相談しに来なさい。...それじゃあ、平野君。最後の号令を」
「はい。起立!」
満の号令でクラス全員が立つ。いつもならこの後はさようならで終わりなのだが、これも満の提案で変わっている。先生はこれを知らない。
「礼!」
「「「「「3年間。お疲れ様でした!」」」」」
「ありがとう...みんなもお疲れ様!」
これにて、中学の卒業式が終った。
それから、俺たちは家に帰った。この3年間を振り返りながら。
春休み中。満が家に泊まりに来ることになった。来週には高校の入学式を控えているのに...。そう考えていると、早速インターホンが鳴った。
「好ー、出てー。きっと満だからー」
「はーい!」
好は玄関を開けた。
「よぉ!花崎さん!今日はよろしく!」
「どうも平野君!どうぞ!」
好の案内で満がリビングまで来た。俺はちょうどお昼ご飯を作っているところだった。
「やあ満。もう少しでできるから待ってて」
「おう!スンスン...この匂いは...蕎麦か!」
「よくわかったね。そうだよ。麺は自家製」
「友ちゃんの家の自家製麺は美味しいよ!」
「そうなのか!そりゃ楽しみだ!」
「あんまりハードル上げないで...。暖かくするか冷たいままにするかどうする?」
「俺は暖かいほうで」
「私もー!」
「じゃあ全部暖めるね」
俺は茹であがった麺を水で絞め、それから温めてあった麺つゆに軽くくぐらせ、器に盛り、麺つゆを掛けた。
「はい、お待ちどうさま。自家製蕎麦で作ったタヌキ蕎麦です!」
「おぉ!うまそう!サンキュ友樹!いただきます!」
「おいしそう!いただきます!」
「どうぞー。いただきます」
俺たちは全員で手を合わせ、いただきますと声をかけてから食べた。ちなみに言うが、俺たちの中に猫舌はいないので熱々の状態だ。それでもみんなそのまま食べている。
食べ終わると、いつも通り好が食器を洗ってくれている。そんな中、俺と満は駄弁っていた。もちろんリビングで。
「なあ友樹。海星女学園ってお嬢様学校って言っても過言じゃないよな?」
「うーん...まぁ、言い過ぎってわけではないかな。でも普通の学校だったよ?」
「いや、でもよ。いくら元とはいえ男がお嬢様学校でどうなんだ?」
「そこは気にしたらダメなとこ!もう女の子なんだからばれないし大丈夫」
「だといいんだが...正直俺は心配なんだぜ?」
「それなら僕より好を心配しなよ」
「なんでだよ」
「それは、好きだがらでしょ?」
「ばっ!?お前それをここでいうんじゃねぇよ!花崎に聞こえたら...」
俺と満は好の方を見たが、好にはその会話は聞こえていなかったようで、鼻歌を歌いながらッ食器を洗っていた。
「ふぅ...マジで焦らせんなって...」
「ごめんごめん...本当にまだ思いを寄せてると思っていなくて」
「まぁ、聞かれなかったからいいけどよ...」
「結果良ければすべてよしって言うしね!っと、ちょっとごめんね」
ブーっと、俺の携帯が鳴りだした。電話のようだ。母さんからだった。俺は一旦リビングを出て、電話に出る。
「もしもしお母さん。どうしたの?仕事中じゃ?」
『もしもしゆうちゃん?仕事はしながらだから少しうるさいけど気にしないでね。それでなんだけど、さっき滝村さんから連絡があってね?』
「滝村から?なに?」
『泊まっていいかって聞かれたからOKを出しておいたわ。おもてなしよろしくね。空き部屋が一部屋あるでしょ?平野君と滝村君の二人はそこを使わせてね』
「分かったけど、いつ頃来るか分かってる?」
『すぐに行くって言ってたわ。いつ着くかはわからないけど...』
「うん、わかった。とりあえず滝村も来るのね。ご飯の準備もしておくよ」
『うん。お願い。それじゃあまたね』
「はーい」
そこで電話は切れた。俺はリビングに戻り電話相手と内容を簡単に話した。その頃には好も食器洗いを終えていた。
「滝村君も来るの!?」
「あいつも来んの!?」
「らしいよ?何時かまでは言ってなかったけど」
「滝村君って家に来るの初めてじゃない?私の部屋見せたくないな...」
「昔集めたグッズが山ほどあるからね」
「言わないで!」
「で?滝村の部屋はどうすんだ?空き部屋って一つしかないんだろ?」
「満と滝村の二人で使って」
「マジか!?いやいいけど!」
そんなこんなで話しているとインターホンが鳴った。俺はきっと滝村だろうと思い、何も確認せず玄関を開けた。すると、長身で黒いスーツ。サングラスをかけた男がそこに立っていた。
「......え?」