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朝起き性転  作者: ピチュを
第1章 男から女、女から男へ
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6話 そんなの心配するだろ

翌日。面接の日。俺はいつも通り朝早くに置きご飯の準備をしていた。そしていつもならそろそろ好が起きてきて手伝うと言ってくる頃。だけど、今日はそんなそぶりはなかった。面接当日で緊張してるのかもしれない。そう思ったので、俺一人で準備をしておいた。そして、いつものご飯を食べる時間になってやっと起きてきた好。


「おはよう友ちゃん...」

「おはよう好。ご飯出来てるから食べてていいよ。着替えてくるから」

「う、うん...」


ご飯を食べてから支度を済ませ、面接会場へ進む。面接は個人面接で、ナンバー順に呼ばれる形式になっている。俺の番号は4、好は5だった。


「入試の会場は別だったのに、面接は連番なんだよね」

「そう、だね...」

「ま、とりあえずお互い頑張ろうね」

「うん...」


この時の俺はきっと緊張していた。だから気が付かなかったんだ。好の様子に。


面接は意外と速く終わった。正直、元々男だってことを隠して話すのは心苦しかったが、これが現実。いやなことでもやらなければならない。俺はスムーズに終わったのだが、好が思ったより時間がかかった。もちろん面接が終われば今日は終わりなので、各自で帰っていいことになっている。俺は好を待っていた。


時間はどんどん過ぎて、俺が面接終了から1時間がたとうとしていた。流石におかしいと思った俺は、学校に入り、職員の人に聞いた。


「あのー、すみません。まだ面接をやっている子っていますか?」

「ん?面接ならついさっき最後の人が終わったよ」

「確認なんですけど、その子の名前って、花崎好ですか?」

「いや、違うね。花崎さんのお友達?」

「はい。僕の次だったんですけどなかなか出てこなかったので心配で...」

「だったら保健室に行ってあげて、この廊下の突き当りを左ですぐにあるから」

「え、あの、保健室って...」

「ごめんね、私これから会議だから。東条とうじょう先生に言われたから来たって言えば通してくれるから」


そう言って職員の先生は足早に行ってしまった。保健室、嫌な予感しかしない場所に招待された。俺は言われた通り、廊下の突き当りを左に曲がる。すぐ目の前に保健室が見えた。軽くノックしてからドアを開けた。


「失礼しまーす...」

「ん?誰だいあんた」

「あ、えっと。と、東条先生に言われてきました。花崎好の友人の森友樹です!」

「東条にね、わかった。右奥から2番目のカーテンの中だよ」

「え、あ、はい。ありがとうございます」


パッと見で十数はあるカーテン。病院の一角くらいのベッドが置いてあった。俺は言われた通り、右奥から2番目のカーテンを開け中に入る。そこには、顔を真っ赤にし、息を荒げている好が寝ていた。俺はその光景を目にした瞬間、思考が止まった。そのままゆっくり好の寝ているベッドの横に座る。すると、保険の先生が入ってきた。


「朝からこんな感じだったかい?」

「いえ、僕が見た限りではいつも通りだった気がします...」

「そうかい...」

「あの、好は...」

「40.2度の高熱だね」

「よ、40度!?だ、大丈夫なんですか!?」

「最善は尽くしておいたよ。後はこの子次第だ。面接に関しては安心しな。倒れたのは面接が終わってからだよ」

「そうですか...」


それから、保険の先生との会話は帰り際までなかった。好の熱が少し下がった頃に、保険の先生に言われ、好をおぶって帰ることになった。正直そんなに重くないのが救いだった。いくら元男とはいえ今の体は女。筋力が落ちてるから家まで運ぶのは意外とつらい。


帰り道の途中、背中で寝ていた好が目を覚ました。


「んん...あれ?友...ちゃん?」

「ん?あぁ起きた?」

「あれ、確か面接受けてて...」

「面接終わってから倒れたんだって。それで保健室にいた」

「そうなんだ...」

「好、朝から調子悪かったの?」

「うん...でも、さすがに休めないから...」

「そりゃそうだけど、調子悪いならちゃんと言って?ご飯もそうだけど、今日みたいなことあったら心配するし」

「うん、ごめんね」

「とりあえず今日はいいから、しっかり休んで」

「うん...」


そのまま好は、また俺の背中に体を預けた、そして好はぼそっと呟いた。


「友ちゃんの背中。あったかい...」

「ん?何か言った?」

「ううん、なんでもない」

「そうか。もうすぐ家に着くから頑張って」

「うん...友ちゃん」

「どうした?」

「ありがとう...」

「...なにさ、改まって」

「なんとなく、ありがとう」

「まぁ、いいけど」


俺はそのまま、好をおぶって家まで帰った。帰った頃にはもう夜で、それからおかゆを作って食べさせ、寝るまで側にいた。






と、思っていたが、寝るまでじゃなく、起きるまでいたようだった。


「ん?朝か...」

「友ちゃん、おはよう」

「うん、おはよ...う?」


俺は起きると好のベッドの横にいた。椅子に座ったまま、好のベッドに突っ伏していたみたいだ。


「今の時間は...」

「7時だよ」

「あぁ、7時か...え!?7時!?」

「うん。7時だよ」

「遅刻じゃん!早く準備しないと!」


7時はいつもならご飯を食べる頃、今から弁当と朝ごはんを作ったんじゃとてもじゃないが間に合わない。かといって市販を買うほど余裕があるわけじゃない。


「友ちゃん?」

「なに?!急がないと遅刻──」

「今日祝日だよ?」

「...え?」


俺はカレンダーを見る。2月6日水曜日。カレンダーはその日付を赤く記していた。


「...あ、本当だ」

「だから友ちゃんはゆっくり寝てていいよ?」

「いや、そういうわけには行かないよ。朝ご飯作ってくるけど、好は食べられそう?」

「うん!さっき熱も測ったけど平熱になってたし、食欲もあるよ!」

「じゃあご飯作ってくるから、病み上がりなんだしベッドでおとなしくしてて」

「はーい」


そうして俺は好の部屋を出て行った。






「はぁ~びっくりした!」


友ちゃんが私の部屋を出てから、私はそう言った。だってビックリしたんだもん!起きたら友ちゃんが私の身体に頭を乗せて寝てるんだから!


「もう...ダメだってわかってるのに意識しちゃう...」


友ちゃんは女の子なのに、意識しちゃう。私...友ちゃんのこと好きになっちゃった...。


「絶対あの時だよね...友ちゃんの背中、暖かかったし...」


友ちゃんはきっと気づいてないけど、昨日、友ちゃんが私をおぶってくれてた時の優しさは前の友ちゃんと変わってなかった。なのに、何か変な感じがしたの。胸がキュっと閉まるような感じ。これって恋以外のなんでもないよね?


「好ー!お米は何とセットがいい?」

「え、あ、えっと...鮭でいい?」

「わかったー!」


いきなり友ちゃんがリビングからそう聞いてきた。いきなりだったから焦って返事が遅れちゃった。流石にばれてないよね?


「それに、友ちゃんが寝てる間に...」


思い出すだけで顔が熱くなる。私、友ちゃんのほっぺたにキスしちゃった...。


「もうすぐ持っていくからー!」

「あ、はーい!」


私は返事をして、今まで考えてたことを忘れることにした。






合格発表の日。俺と好は海星女学園まで来ていた。今年は倍率が高かったらしく、試験を受けた半分が落ちると言われてる。


「緊張してきたね、友ちゃん」

「うん、好は特にだよね」

「うん...面接、ちゃんと受けられたと思うけど、半分くらい覚えてないし...」

「きっと大丈夫だって、さすがに落ちてないさ」

「だといいんだけど...」


好は完全に弱気だった。テストも難しいと言ってたし、面接もしっかりできたかわからない。不安がるのも仕方ない。一方の俺は、緊張はしているが不安はなかった。テストも自己採点で8割は取れていた。面接も上々。正直、怖がることは何もなかった。そして、そのまま待つこと数分。合格者が貼られた。


「私の番号...」

「えーっと...」


俺も好も必死に探した。もちろん好は自分の番号を探していただろう。だが、俺は違った。俺は自分の番号ではなく、好の番号を探していた。そのさなか、俺の番号は見つかった。


「あった!好!僕のはあったぞ!」

「友ちゃんのあったの!?おめでとう!私のはー...」


まだ見つけられていない。慎重に、見落としの無いよう探していく。周りでは続々と、あったあったと声が上がっている。中にはよほどうれしいのか、親に泣きながら抱き着いている人もいた。


「あ」

「好、あったか?」

「あった...あったよ友ちゃん!」

「本当?!」

「ほら!あそこ!」


好は指をさした。俺はその先を見る。好の試験番号105。その番号が、右の一番上に見えた。


「本当だ!」

「やったよ友ちゃん!」


好は俺に抱き着いてきた。涙を流しながら。実を言うと俺も泣いていた。きっとうれしかったんだろう。そのまましばらく感動を分かち合っていた。落ち着くまでそんなに時間はかからなかったが、その頃には周りの人は半分以上帰っていた。


「私たちも帰ろうか」

「そうだね」


俺たちは帰路を辿った。無事二人で合格できた。これ以上にうれしいことはないと、この時は思っていた。でも、人生はそんなもんだ。その時最高と思っても、それはただの通過点だってことは。


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