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朝起き性転  作者: ピチュを
第1章 男から女、女から男へ
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5話 俺はもう女の子か

「婚約者の名前を忘れるわけないだろう?」

「...は?」


教室が一瞬静まり返った。そして、俺を含めた男女全員が声をそろえて驚いた。


「いやいや、婚約者って!何言ってんだ君!」

「ふふ、ただの冗談だよ。そこまで動揺しなくてもいいだろ?」

「じゃあなんで俺の名前知ってんだよ!」

「机の前。そこにネームが貼ってあるだろう?」


言われて気が付いた。この学校では、生徒数が多いため、先生が生徒の名前を覚えられないということが多い。そのため机の前にネームが貼ってあるのだ。あたり前のことで気が付かなかった。


「でもなんで俺なんだよ!」

「このクラスで一番可愛いと思ったから?」

「は!?冗談もほどほどにしてくれ!」


クラスの連中に言われるならまだいい。いや、本当はよくないがまだましだ。でも、外から来た初対面の人にそこまで言われると俺が俺でなくなる気がしてならない。


「滝村君の席はそこね。1年っていう短い時間しか一緒に居られないけど仲良くしてあげてね」


先生はそう言ってホームルームを終わらせた。先生が教室を出ると、女子たち(俺を除く)が一斉に滝村のところへ集まった。


「はぁ...俺あいつと仲良くできると思えねぇ...」

「滝村君のコンヤクシャ?」

「ん?おーい好?」


好が何やら天井を見ながらそう呟いてたので声をかけてみた。なんか変なことを考えてるんじゃないかと不安になったがそうじゃなかった。


「え?あ、ごめんね、ちょっと考え事をしてたの」

「滝村のことか?」

「う、うん。そうだけど...なんでわかったの?」

「思いっきり声に出てたぞ」

「え、ほ、本当?」

「あぁ」


好は顔を赤くしながら手で隠した。詳しく何を考えてたかまでは知らないが大方予想通りだろう。


「おまえ...絶対俺と滝村のペアを想像してただろ」

「そ、そんなことないよ!」

「ほんとかなー」

「本当だよ!」

「じゃあ何考えてたんだ?」

「それは...あ、滝村君が結婚するならどんな人かなって!」

「...自分だったらいいなーとか?」

「そ、そう!」


俺は、好が嘘をついていると確信した。いつもならここまで動揺することはない。でも、そのままにしておいた。別に何かを想像してたとして、俺に関係のあることではないだろうしな。




そのあとすぐの授業で、進路志望を出せと言われた。唐突すぎてどうしようか迷っていた。そんな時に、好に言われた。


「友ちゃん、決めた?」

「いやー。どうしようかなーって」

「そっか。だったらさ...」

「ん?なんだよ好、言ってみろよ」

「あの...一緒に、海星みほし女学園に行かない?」

「...は?」


俺は一瞬理解が追いつかなかった。何度も言うが心は男のままだ。女学園に誘われるとは思ってもなかった。


「おま!何言って!だって俺は──」

「今は女の子だよ?中は男の子でも外身は女の子だもん、女学園だって行けるよ?」

「だからってな...」


そう。俺は断ろうとしていた。いくらなんでも俺の体が持たない、そう考えたからだ。だが、突然の問いかけに答えちまった。


「どうしたの森さん。進路決まったの?」

「え、あ、はい。...あ」

「どこにしたの?」

「あ、いえ、そのー...」

「海星女学園です!」

「あっちょ!好!?」

「...海星...女学園...森さんが?」

「はい!私が誘ったんですけど今さっき友ちゃんは返事したので!」

「いや、あれは違くて!」

「だって先生に聞かれた時に『はい』って言ってたよ?その前進路決まってないって言ってたし、海星女学園に決めたってことだよね?」

「唐突に聞かれたから返事しちゃっただけだ!」

「でも、嘘は良くないよ?森さん」

「そ、それは...」

「まぁ、でも、そういうことならいいんじゃない?あの件もあるんだし、花崎さんと同じ進路にするのは賛成だわ。場所はどこであれね」

「マリー先生まで!はぁ...だったらいいよ。海星女学園にしてみるか...」

「本当!?やったー!」


ここは教室、その会話は筒抜けだ。周りの男子どもからの視線がものすごく痛い...どうしたもんかなー。


それからまぁ、色々あったが大雑把にいうと、クラスの男連中に袋叩きと言う名の質問攻め的なものにあってきた。元男とはいえ、今は女の俺に男十数人で囲うって絵図らがやばいと思うんだが...まぁ、おいておこう。そんなこんなで、その日はそれくらいかな。






中学3年の夏。なんで今まで気づかなかったのかわからなかったが、大変なことが起きていた。


「やだ!マジでそれだけは勘弁して!」

「だめだよ友ちゃん!授業はちゃんと受けなきゃ!」

「他のことなら大抵なんでもするからそれだけは!」


とある体育の授業だ。夏の体育。大体の人は察しがつくだろう。そう、水泳の授業だ。みんなは水泳の授業、楽しかっただろう?俺も中学2年までは楽しかった。3年はって?今の現状をよく考えてくれ。この学校の水泳は、男女ともに学校指定の水着を着なければならない。男は普通に海水パンツなのだが、女はスク水だ。いくら女になったとはいえさすがにスク水は御免こうむりたい。と言うわけで、今絶賛ダダをこねている状態だ。


「森さん、我慢して?あなただけ特別と言うわけにもいかないの」

「マリー先生!先生なら何とかしてくださいよ!僕性転換してるんですよ!?それだけで十分特別じゃないですか!何とかしてください!」

「そうは言われてもねぇ...」

「もう!友ちゃん!我慢して!授業が受けられないから!」

「いいよ!受けられなくていいから!これだけは許してくれーーー!」


俺は必死に抗議したが、最終的には着せられた。男子からの視線がものすごく気になるわ違和感しかないわで散々だった。できる事なら二度と着たくないと思ったが、よくよく考えてみればこれは今年最初の水泳の授業。つまり、例年通りなら、最低でもあと三回はある。そのたびにあれを着るとなると本気で休みたくなってくる。まぁ、結局好に引っ張られていく羽目になったけどな。そして少し気が付いていると思うが、このころにはもう一人称は俺から僕に変わっている。口調はまだ変わりきってはいない。でも、強気な女の子くらいにはなっただろう。






中学3年の冬。高校入試の日だ。試験会場である海星女学園の前に来ていた。好と一緒にだ。


「友ちゃんの試験会場ってどこ?」

「グループCだから、3階だね」

「私はグループBだから2階だ。離れ離れだね」

「まぁ、仕方ないよ。じゃあ終わったらここで待ち合わせよう」

「うん!それじゃあお互い頑張ろうね!」


好はそう言って会場へ向かった。俺もそのあとで会場に行く。当たり前ながら女子しかいない。いくら女子になってからほぼ1年とはいえ、なんだか違和感と罪悪感がある。指定された席に座る。周りは知り合いが多いのか、軽くおしゃべりをしていたり勉強していたり寝ていたり様々だった。俺も鞄から勉強道具を取り出す。勉強してきたことを思い出しながら、参考書に手を付ける。時間ぎりぎりまでそうして勉強してから試験を受けた。正直な感想を言うと余裕だった。試験は1教科50分の休憩10分の5教科。昼は持参、飲食スペースは校内ならどこでも大丈夫とのことだった。前半3教科が終わり40分の昼の時間になり、俺は弁当を持って会場を出ていく。目的はもちろん


「あ、友ちゃん!」

「お待たせ、はい弁当」

「ありがとう!テストどうだった?」

「ん?簡単だったよ。好のほうは?」

「私のほうは少し難しかったなー。私がばかなだけかな?」

「どうだろうか」


この女学園は会場ごとに問題が異なる。もちろん形式や難しさは統一されている。だから、会場が違う人と中身の話まではできない。


「まぁ、この調子なら二人とも合格できるだろう」

「そうだといいけど...こっち周りはみんな簡単って言ってたから...」

「こっちはみんな難しいって言ってたよ。たぶん大丈夫だと思う」

「だといいなー...あ、この卵焼き美味しい」


好と弁当を食べ、軽く勉強してから各自の会場に戻った。それから後半戦のスタートだ。正直後半も簡単だった。一応自分の出した答えは控えてあるから、後日出される回答で自己採点ででもしようと思う。


後半も終わり、女学園前で待機していた。朝言った通り、ここで待ち合わせをしているからだ。


「友ちゃんお待たせ!」

「うん。帰ろうか」

「うん!後半、どうだった?」

「簡単だったね」

「後半は私もできたよ!たぶん、平均で7割ちょっとじゃないかなー」

「それくらい取れたら大丈夫だね。後は明日の面接かー」

「そうだねー。緊張してる?」

「そりゃ...ばれないようにしなきゃだしね」

「大丈夫だよ!今のままならばれないよ!」

「それはそれでつらいんだよなー」

「いいじゃん。もう女の子だよ友ちゃんは!」


俺はこの1年で一人称、口調、ましてや私服まで変えた。女の子になった。そのせいで俺の日常は壊れたが、1年かけて、治りかけまで持ってきた。正直今でもたまーに口調が戻る。だが、普段は女の子のような喋り方でいられる。俺の成長を感じる。他のことも、好の手を借りることはほぼなくなった。今でも好はお風呂を一緒に入ろうとするが、もう困ったことはないので丁重に断る。好の料理もかなり腕が上がった。俺とさほど変わらないのではと思うほど上手くなってる。


「まぁ、とりあえず明日も頑張ろうか」

「うん!」


俺らは明日の面接に向けて、足早に帰った。

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