4話 マジで何事だよ
「私、友ちゃんの家に住むことになったから」
好はそう言いだした。俺は理解が追いついていなかった。だけど、今気が付いた。そういえばリビングに置手紙があったな...。俺はその置手紙を確認しに行く。中身は...
『ゆーちゃん。おはよう。今日の夕方ごろに引っ越し業者が来るの。空き部屋に入れるように言ってあるけどわからない様だったら教えてあげて。あと、引っ越してくるのは好ちゃんだからね。しばらく一緒に住むからご飯とかの面倒は見てあげてね。普段の生活で分からないところは好ちゃんに教えてもらいなさいね』
「まじか母さん...」
俺は膝から崩れた。単純にびっくりしたから。そこに好が入ってくる。
「友ちゃん。これからもよろしくね!」
好はニコッと笑ってそう言った。正直可愛いとは思うが今はそれどころじゃない。身体は女でも心はまだ男だ。やましい心がないわけじゃない。そんな中一つ屋根の下で同級生とだぞ?母さんは何考えてんだか...。あ、もちろん好にそんな感情を抱いたことはない。
「どうしたの友ちゃん?」
「...いや、なんでもねぇ...」
「そう?じゃあごはんの準備頼んでもいい?私、業者さんに荷物の場所とか言ってこなきゃ!」
「おう...分かった...」
そう言って好はリビングを出て行った。俺は言われた通り飯の準備をする。集中なんてできたもんじゃないから上手くできたか、いまいちわからなかった。好はいつも通り「美味しい!」と言いながら食べてくれたが、俺にはそう感じなかった。それからというもの、風呂を入ろうとすると好まで入ってきたり、寝る寸前まで俺の部屋にいたりと、言葉通り付きっきりだった。
翌日。朝起きたとき好はまだ寝ていた。それもそうだろう。まだ5時半だしな。俺は自分と好の朝食を作り、今日の弁当の準備をする。準備がほとんど終わりかけたとき、好が制服を着てリビングに来た。
「あ、友ちゃんおはよう!」
「おう、おはよう。飯もうできるから座って待っとけ」
「うんわかった!...でも友ちゃん?」
「ん?どうした?」
「『飯』じゃなくて、『ご飯』でしょ?」
「...そこまでしなきゃだめなのか?」
「そのほうがいいと思うけどなー」
「...まぁ、善処するよ」
俺はそう返事をして料理を続けた。朝ご飯食べて、洗物を済ませてから俺は制服に着替える。が、まだ慣れてないので時間がかかる。
「友ちゃん?まだ?」
「ちょっと待ってて、もう少し」
「もう、入るよ」
「え?ちょ、まっ──」
言い終わる前に部屋のドアが開かれた。マジで容赦ないな...。
「どこで戸惑ってるの?...そのリボンはこうだよ。後、スカートはこう」
「お、おう。サンキふごっ!」
俺は礼を言おうとしたらいきなり口を塞がれた。
「『サンキュー』じゃなくて、『ありがとう』だよ?」
「あ、あぁ。ありがとう...」
好の手伝いのおかげで昨日よりは早く準備ができた。それから家を出て学校へ行く。学校では今日も特に何もなかった。ただ、俺はひとつ気になる点があったので昼休み、満を呼んで確認した。秘密の話なので人があまり来ない、屋上で。
「友樹、話ってなんだ?まさか付き合ってくれなんて言わねぇよな?」
「言うわけねぇだろ!アホかお前は!...そうじゃなくて、好のことだ。お前、始業式の日に告白するって言ってたろ?結局してないんじゃないかと思ってな」
「あぁ。してないぜ?てか出来るわけねぇだろ」
「はぁ?なんでだよ」
「それはお前が一番わかるだろうに...」
俺は本当にわからなかったからそう聞いた。だが満は俺が一番わかると言っている。どういうことだ?
「もし今花崎に告白したとして、OKをもらえると思うか?」
「今じゃなくても無理だな」
「ひっでぇな!...とにかく、そういうことだ」
「...良くわかんないんだが」
「察しが悪いな...お前の世話で忙しいだろ?恋だのなんだの現抜かしてる場合じゃないって言ってんだ」
「...つまり、俺が性転換して、好が恋とかそれどころじゃないと思ったから告白しないと?」
「そういうことだ。性別が変わっても、察しが悪いのは変わんねえんだな」
「大きなお世話だ!...とりあえずわかった。話はそれだけ、教室戻ろうぜ」
俺は満と一緒に教室に戻った。教室に戻ると好が待ちくたびれたような様子だった。どうしたのかと心配したが、すぐに答えが返ってきた。
「二人ともどこ行ってたの!もうおなかペコペコだよ...」
「「...あ、すまん」」
そういえば弁当を食べる前に屋上に行ったんだった。好は俺たちを待っていたらしい。先に食べててもよかったのに...。それから残り短い昼休みで弁当を食べた。急いで食べたせいか、満腹感がすごくて午後の授業は眠気との戦いと化していた。それでも寝ることはなかったけど。
その日の、家に帰ってからもいろいろあった。すべてを話すと長くなるので一つだけ話すが、好がいきなり料理を教えてと言ってきたのだ。別に断る理由もないので引き受けたが、なぜいきなりそんなことを言い出したのか気になったので聞いてみた。そしたら、
『女の子になった友ちゃんが料理してるの見てたら、私もできないとまずいかなって思ってきたの!』
と言ってきた。別にいいと思うんだがな。好だって料理ができないわけじゃない。正直言ってセンスはあるから後は知識だと思っていたくらいだ。料理を教えるついでに今がどんなものか知りたかったので、今日のご飯は好に作ってもらった。俺にとっちゃ量が少なくはあったが、味も見た目もそれほどひどくはなかった。ちなみにメニューは生姜焼きと千切りのキャベツ、豆腐と大根の味噌汁、白米だ。
ご飯を食べ終わってから俺は食器を洗い、風呂を済ませ部屋に戻った。好がしばらく俺の部屋にいたが、寝ると言うとおとなしく出て行ったのでいつも通りに寝る事が出来た。
と、ここまでいろいろ話してきたが、あらすじで言っている通り俺は2回性転換を果たした。この調子だとそこまで行くのにどれだけ時間をかけて話さなきゃいけないかわかったもんじゃない。だからここからは、語るべき出来事を時系列順で語る。もし詳しい話が聞きたかったら作者にでも投げかけな。
中学2年のとある土曜日。満が家に遊びに来た。まぁ、個人的にはご飯をたかりに来たと言いたいがな。
「ごちそう様!いやー、やっぱ友樹の飯はうまいな!」
「そういってくれるのはありがたいけど、ほどほどにしてな。食費だってただじゃねぇんだ」
「わかってるって。ていうより友樹...」
「ん?どうした」
「なんで花崎がいるんだ?」
「...やっぱそれ聞く?」
「花崎も遊びに...って感じじゃねぇよな」
疑問を持つのは当然だ。好は今食器を洗っていた。そんな姿を見れば遊びに来てるとは思えないだろう。
「おーい、好ー」
「なにー、友ちゃん」
「言ってもいいか?お前のこと」
「?...あ、あのこと?いいよー。平野君なら」
「好から許しが出たから言うが、三学期の始業式の日から好は俺の家に住んでいる。理由は言う気はないから。あと、このことは他言無用で頼む」
「いろいろ突っ込みたいがとりあえずわかった。で、なんでそうなった?」
「理由は言わねぇって言ったろ!話を聞けよ!」
「友ちゃん!言葉使い」
「...友樹、なんかわりぃ。察したわ」
「そうか、それはなにより──」
「お前ら、そういう関係だったのか」
「なんでそうなるかな...」
俺は心の中で泣いていた。心は男でも体は女だ。いくらなんでも同性愛になんてならない。それに相手は好だぞ?さすがにないだろ。
「友ちゃん!お皿洗い終わったよ!」
「わかったーテレビ見るなら使っていいぞ」
「ありがとう!」
最近、好はとあるアイドルにはまっている、俺は詳しくは知らないが4人組の男性アイドルらしい。
「...外行かね?」
「なんで?」
「俺が遊びに来たって忘れてないよね?!」
「...忘れてないぞ」
「何今の間は!」
そんなこんなでご飯を食べた後に俺たちは外に遊びに行った。前にも言ったがこの町は結構栄えている。少し歩けば大概のものは揃うくらいには活気づいている。ショッピングモールで買い物したりゲームセンターで遊んだりしていた。この日はそれくらいだ。
いきなり時間は飛ぶが、中学三年の一学期始業式の日。まぁ、当たり前ながら席が変わるかけなんだが...。
「なんでまた好の隣なんですかマリー先生!」
「そのほうが都合がいいでしょ?」
「確かにそうかもしれないですけど...」
「自分でもわかってるなら文句は言わない。後、ついでに言うとこれから一年間、花崎さんの隣だからね。不満があるわけじゃないなら良いでしょ?」
「...はい」
俺はおとなしくなった。先生に言われた通り、不満があるわけじゃない。ただ、やっぱり家でも一緒だからか、いつもと変わら無い感じがして集中できない。
「あ、それから、転入生がいます。入っておいでー」
先生のその合図で、教室のドアが開かれ、一人の男が入ってきた。どこかで見たことあるような気がするんだよな...。一部女子がざわつく中、先生が「じゃあ自己紹介をどうぞ」と転入生に言う。
「はい。元アイドルグループ『ファセット』の滝村 煉です。訳あってアイドルをやめてこちらの学校に転入しました。1年しか一緒にいられませんが、よろしくお願いします」
「アイドル『ファセット』?...あ」
思い出した。好がはまってるアイドルグループの一人だ。この前引退がどうのこうの言ってたな。まさかこういう出会い方をするとは。
「とある人を探してたりするんだけど...あ、いたいた、君!」
「...ん?お...じゃなくて、僕?」
「そうそう、君だよ。森 友樹」
「そうだけど...なんで知ってんだ?」
「全く、とぼけないでくれよ」
そういって滝村は俺のほうに寄ってきた。一部の女子がうるさいがまぁおいておこう。
「僕は君と初めてのはずなんだが...」
「何を言ってるんだい?」
ふざけるなといいかけたが、滝村はふざけている様子はなかった。真面目に俺のことを知っているような目をしていた。そして次に発せられた言葉に、クラスが騒然とするのだった。
「婚約者の名前を忘れるわけないだろう?」
「...は?」