3話 いろいろ唐突なんだが...
「残り一年とちょっと、よろしくお願いします」
俺はそうあいさつした。もちろんクラス全員、いや、一人を除いて全員が唖然としていた。
「森さんの席はあそこね。男女ペアではなくなるけど、人数のずれだと思って」
このクラスでは、席替えをしようとも男女で隣同士というのをやっていた。交流を深めるためだとかで。俺の隣は好だった。俺としても事情を知ってる人が隣なのはありがたいが、仕組まれていたのではと思えるほどにタイミングがいい。実は、二学期の終わりに先生はこんなことを言っていた。
『三学期始めは席替えをしておきます。先生が勝手にやっておきますので、始業式の日に席を間違えないようにしてくださいね』
つまりこの席は席替え後。うれしい事ではあるがやはり不自然だと思った。交流を深めるためなら幼馴染を隣におかないだろう?先生だって俺と好が幼馴染なのは知っているのだから。
「よし、みんないろいろ言いたいことはあるだろうけど、とりあえず落ち着いて。さっき本人も言った通り、本人もこの事態について何もわからないの。あまり突っかかりすぎないでね。それと始業式お疲れさま。残り約二ヶ月で今年度も終わりなので、頑張りましょう!連絡はこれだけ。授業の準備をしなさいね」
先生はそう言ってから教室を出て行った。その瞬間、予想はしていたが、クラスのみんなが俺の元にぞろぞろと寄ってきた。正直その様子は少し怖かった。
「おい!森!どういうことだよ!」
「いきなり性転換ってどういうこと!」
「何があったんだよ!」
「本当に性転換したの?」
など、とにかくみんなが質問攻めをしてきた。半分以上聞き取れなかったが、内容も内容だ。答えられるわけがない。
「えっと...」
俺が口詰まっていると、好が助けてくれた。
「みんな落ち着いて!言いたいことはいろいろあると思うけど、いっぺんに聞いても友ちゃんが困るだけだよ!それに友ちゃん自身、わかんないって言ってるんだから!」
好のその言葉で、みんなは静まった。そして、一人が集団の中から俺の目の前に出てきた。
「友樹。お前自身わからねぇって言っても、答えられる質問はいくつかあるだろ?それに答えてくれ」
「満...」
言ってきたのは満だった。実はこいつ、学級委員長だったりする。だからきっと代表的な感じで出てきたんだろう。
「とりあえず。本当に女になったのか?」
「そうだ。口調までは変わらないけどな。見た感じ女の子って感じはしないか?」
「はぁ?元から女の子って感じだろ見た目は」
「んなこたねぇよ!」
「まぁ、それは置いといて。いつ女になった」
「正確にはわからない。昨日起きた時にはもうなってた」
「寝る前までは男だったのか?」
「あぁ、そうだ」
「そうか...じゃあとりあえずこれ以上は聞かない」
「それは助か──」
「ただし!」
満は俺の言葉を切るように、強い口調でそう言ってから、俺に注文を付けた。
「女になったのなら、その口調どうにかして、女っぽくいろよ」
「はぁ!?なんでだよ!」
俺は驚いた。いくら女になったとはいえ、そこまでする必要があるのかわからないからだ。だが、その後の満の言葉に俺は納得するのだ。
「もしこのまま女として過ごすのなら、少しでも女っぽくいた方が、いろいろと便利じゃないか?進学するにもあまり過激な人は好まないだろ?だったら女の子っぽくふるまって、印象良くした方がいいだろ?」
「それは...」
「すぐには無理だろうよ。少しずつでいい。女っぽくいろよ。お前には心強い味方がいるだろ?」
「味方?」
満の『味方』という言葉に、皆は俺に向けていた目線を、隣の人物に向けた。
「...え?私?」
「そう、花崎だ。お前ら幼馴染なんだろ?だったらいろいろ教えてもらうのも抵抗が少ないはずだ。花崎だって、友樹がこのまま男っぽい口調っていうのも嫌だろ?」
「まぁ、それはそうだけど...」
「だったら協力してあげてくれ。友樹の今後のためでもある」
「それはいいけど...友ちゃんはいいの?」
「...満の言ってることも一理ある。俺も、さっきは一人称変えたが、あんな感じに面接とか受けたら流石にまずいと思うしな。好、頼む」
俺は好に頭を軽く下げた。好も頷いてくれた。そのタイミングで教科担任の先生が来たので、みんな自分の席にもどり、授業の体制に入った。
授業が終わると、教室は普段と変わらないように、皆が話していた。俺もいつものメンツと話でもしていようかと思ったのだが、やはり性が変わったからか、体が拒否反応を起こしているかのように、思うように動かせなかった。
「...友ちゃん?」
「へ?あ、ど、どうした好」
「いや、友ちゃんがなんか変だったからどうしたのかなって」
あからさまにおかしかったらしい。いくら相手が好でも事実を言えるはずなどなく、
「いや、あのー。あ、そう!トイレに行こうかなって!」
俺はそうやって濁しながら席を立った。そしてから、俺は思った。
(ん?そういや、女子ってどうやって小便すんだ?)
思った矢先。
「じゃあ私も行こうかな。一緒にいこ?」
「へ?」
俺は間抜けな声を出していたと思う。まさかそう言われるとは思っていなかったから。
「だって友ちゃん、どうせ女の子のトイレわかんないでしょ?使い方だって男の子と少し違うと思うし」
「た、確かにそうだが...でも、別に好まで来なくても──」
「それに、私もしておきたいし。ね?いこ」
「...はぁ。仕方ねぇか...」
俺は、仕方ないと言いながら好とトイレに行った。実際、いたほうが助かりはするのだが、やっぱり男の心が抜けていないので恥ずかしい物がある。今さらだけどな。
俺と好はトイレに入った。幸い、他に人はいなかったので騒ぎになることはなかった。まず、性転換したんだから、元男とはいえ犯罪にはならないと思うがな。そして、トイレ自体はほぼ男子トイレの個室と変わらないが、1点変わった点があった。もちろん、普通に使う分には問題なかったのでそのまま使い、終わってから好に聞いた。
「なぁ、好」
「うん?なにかわからないところでもあった?」
「まぁ...あのトイレにあるごみ箱って何に使うんだ?さすがに使った紙は流していいんだろ?」
「あれは生理用品のごみ箱だから漁っちゃだめだよ?」
「ゴミ箱漁る趣味はねぇよ!...とりあえずはわかった」
「他にはない?」
「そうだな...他は特にはないかな」
「そっかそっか。よかったー」
好は安心したように胸をなでおろす。俺たちはすぐに教室に戻り席に着いた。授業の準備をすると先生が入ってきて、授業開始となった。
昼休み。俺の通う中学は給食が無い。大体弁当か市販品を食べている。前日に許可を取ったクラスは、昼に調理室を使いご飯を作るところもあるらしい。俺は毎日弁当を作って食べている。...まぁ、3つ弁当箱を持ってきてるんだがな。なぜって?それは...
「おいしー!」
「やっぱ友樹の作る飯はうまいな!」
「そういてくれるのはありがたいが、これだけ作ってくる人の身にもなれよ?」
そう、好と俺と満。それと、運悪く弁当を忘れてしまった人のために作ってきているのだ。ま、忘れてくる人なんて一年に二人か三人だけどな。食費?親が母さんに払ってるらしい。
「ごめんね?でも友ちゃんも料理好きだしいいでしょ?」
「それは否定しないが、早起きして作るの大変なんだからな?」
「それはそうと友樹」
「なんだ?」
「...口調、思いっきり男なんだが」
「...意識してないとこうなるの。最初のうちは許してね」
女っぽく言ってみる。言ってて自分で吐き気がしそうになる。だが、周りにいる男共は何やらこっちを見てくる。何やら寒気が...。
「...ごめん、そのうち慣れるからしばらくはいつものままでいさせてくれ...俺の心が持たん...」
「お、おう。まぁ、時間かかると思うからいいけどよ」
「私は女の子口調の友ちゃんをもっと聞きたいけどなー」
「好...俺が辛いから...」
そう会話しながら弁当を食べた。午後の授業もしっかり受け、放課後になり、部活も入っていないので帰路を辿っていた。もちろん、好と二人で。満は生徒会もやっているのでそっちに行っている。
「ねえ友ちゃん、お風呂の入り方とかわかる?」
「ん?男の時とそう変わらないんじゃね?」
「変わんないっていえば変わらないけど、たぶん肌も敏感になってるから優しくしなきゃいけないんだよね」
「そうなのか。まぁ、心がけるわ」
学校からの距離が近いからか、軽く会話をしていると家についてしまう。
「それじゃあまた明日な」
「う、うん。またね!」
俺は好にそう言って別れた。家に入っても誰もいない。とりあえず風呂洗って、湯を張ってる間に晩飯を作ろうと思い、行動した。そして、晩飯を作ろうとしてる時に、インターホンが鳴った。玄関を開けてみると何やら業者が荷物を運び入れてきた。
「え、は?え?」
俺は困惑した。だって、なにも知らないまま何も説明がないまま家の空き部屋に荷物が運ばれていくんだ。そこに見知った人が来た。
「友ちゃん!」
「こ、好?なんでここに...ってかこれ何事!」
「それはね...」
好がにこっと笑いながら軽く首を傾けた。そしてはっきりと言った。
「私、友ちゃんの家に住むことになったから」