2話 森 友樹ちゃん
『友ちゃん...本当なの?』
「本当だって!マジなんだって!頼むから家に来てくれ!助けてくれ!」
俺は、体の異変に気が付いてからすぐに親に連絡し、今は好に電話している。好はまだ寝ていたらしく、眠そうな声をしていた。ちなみに、母さんも父さんも自営業だから、事情を説明すると
『今日は早く帰るから家から出ないで待ってなさい!信じがたいけど、もし本当だったら大変だろうし...あ、好ちゃんに電話して助けに来てもらいなさい!少なくとも母さんたちが帰るまではね!』
という感じになった。早くとは言っていたが多分夕方だろうな...。っと今は好との電話の話だったな。
『わかった、わかったから。準備したら行くから。ふあぁ...』
「頼む!こんな朝早くに悪いけど!」
『はいはい、じゃああとでね』
俺は電話を切った。好は準備してからと言っていた。早くて20分、遅くて40分かかるだろう。
「その間、どうすりゃいいんだよ...」
俺の体はどう見ても女だった。本来男ならなくてはならない物がないのだから。というか、今の自分の裸を見てるのって、女の裸を見てるのと同議だよな?犯罪臭がするんだが...まぁ、仮にも自分の体だ。それはいったん置いておこう。
とりあえず俺は、好に朝飯を用意して待ってると連絡だけ入れておき、料理を始めた。何かしていないと、今の現実に押し倒されそうだったから。ちょうど作り終わった頃に、家のチャイムが鳴った。
「好か?今開ける」
俺はマイク越しにそう言い、玄関の鍵を開けに行く。ちなみに玄関は開き戸だ。
「好!来てくれてサンキュ!とりあえず早く上がってくれ!」
「ちょっと友ちゃん!?引っ張らなくてもちゃんと入るから!」
俺は焦っていたから好のそんな声も聞こえていなかった。いや、聞こえてはいたが無視していたのかもしれない。
とりあえず好をリビングへ連れて行き、朝飯を出した。
「美味しそう!朝ごはん作ってくれるっていうから何も食べないできたんだから!」
「だから早かったのか。俺としては助かるけど」
「あ、そうそう。あれって本当なの?女の子になったって」
「あぁ、その証拠を飯の後で見せるから。だからいろいろ助けてくれ!」
「まぁ、いいけど。それじゃ、いただきます!」
好はやはりまだ信じられないのか、半信半疑のまま返事をして飯を食べ始めた。今日の朝は、ウィンナーとオムレツ、トーストにサラダ(千切りのレタスとカットトマト)、それに外はまだ寒いからコーンポタージュも出しておいた。好は小食なほうだから、すこし少なめに作っておいた。
好は食べ終わると俺に微笑みながらごちそう様と言ってくれる。俺が料理を振る舞うといつもこうだ。
「それで友ちゃん。証拠って?」
「あぁ。こっち来てくれ」
俺は好の手を引いてとあるところへ向かった。
「ここって...お風呂だよね?」
「ここのほうがいいかと思ってな」
俺はそういってから脱衣所に好と入った。それから俺は服を脱ぐ。
「ちょ、友ちゃん!?なんで脱ぐの!?」
「なんでって...これが一番手っ取り早いだろ?てかなに恥ずかしがってんだ。昔はよく一緒に風呂も入ったろ」
「それはそれだよ!」
好は手で顔を隠し、俺のほうを見ようとしなかった。
「これ以外の証拠が無いんだからしかたないだろ?っと、脱ぎ終わったぞ」
「もう、友ちゃんはデリカシーが足りないよ...」
そういいながらも俺のほうをやっと見てくれた。俺の裸を見た好は驚きの顔をしていた。
「え......え?ゆ、友...ちゃん?」
相当動揺している。そんな印象を受けた。それもそうだろうな。好は俺が女になったと言ったとき信じていなかった。疑いしかかけてこなかった。だから、俺の体を見て、本当に女になっていると知って驚いているのだ。
「これ、何かのいたずら...じゃないよね?」
「さすがの俺でもそんなことはしねぇよ。まず、女が男にって言ういたずらならできなくもないかもしれんが、逆は厳しいだろ?」
「それはそうかもしれないけど...」
やっぱり信じられないみたいだ。まぁ、そうだろうな。友人からある日突然性転換したなんて言われても信じるほうがおかしい。もしその事実を目の当たりにしても信じたくはないだろう。
「ほ、本当に女の子になっちゃったんだ...」
「だから言ったろ?そうやって。だからさ、助けてほしんだよ」
「助けてって言うと?」
「いや、体の洗い方もそうだがトイレも分からんし、生理?だっけ?っていうのもよくわかんないしでさ。それに明日から学校だろ?さすがに女ってばれたくないし」
「でも、隠すのは無理だと思うよ?少なくともクラスみんなには」
「なんでだよ」
「だって、性別が変わっちゃったなら学校には言わないと、体育の着替えとかどうするの?更衣室で着替えなきゃいけないから他の男子に見られたらその時点でばれちゃうよ?来年の身体測定の時もそうだし」
「そ、それは......で、でもよ!好みたいに信じてくれないと思うぜ!性転換なんて普通ないし!」
「それは大丈夫だよ!」
「なぜ!?」
「だって、今の格好を見せたら信じざる負えないから」
好にそういわれて俺は自分の今の格好を見る。...そういえば俺、まだ裸だった。そうか、確かに裸を見れば性別なんて一瞬でわかる。だけど...
「何言ってんだよ!さすがに恥ずかしいわ!」
「じゃあなんで私には見せられたの?」
「お前にだって恥ずかしくないわけじゃないぞ?!さっきのは嫌でも見てほしくて強がってただけだ!家族以外にも数人に知ってほしかったし、母さんが好に助けてもらえって言うからこうなったんだ!」
「でも...」
好が何か言いかけた時、物音がした。家には俺と好しかいないはずだし、玄関にも鍵はかけたはずだ。だとすれば...
「友樹ー!帰ったぞ!どこにいるんだ!」
「ゆーちゃん!帰ったよ!」
「母さんと父さんだ!」
「あ、友ちゃん!?」
俺は脱衣所を出て行った。裸で...
「父さん母さん!」
「友樹!良かった、ちゃんと...」
「ゆーちゃん!...その格好...」
俺の体を見て、硬直する。そりゃそうだよな...昨日の夜まで息子だったのに、突然娘に変わったんだ。驚かないほうが変だ。
「「本当に性転換したのか(ね)...」」
「お母さん、お父さん!」
「あ、好ちゃん、来てくれてたのね」
母さんは好を呼べと言っていたのにそんなことも忘れているのか、来てくれていたのねと言った。ちなみに、好は俺の両親のことを『お母さん』『お父さん』と呼んでいる。
「はい、友ちゃんに呼ばれて...」
「母さん、どうしよう」
「...とりあえず事実なのはわかったわ。服を着て来なさい」
俺は脱衣所に戻り服を着て戻る。みんなでリビングに移動して、今後のことを話した。もちろん俺を含む女三人で。父さんは買い出し+昼飯の調理をしている。
「まず...ゆーちゃんはどうしたい?」
「俺は...できる事なら隠したい。こんなことばれたらいじめとかされるかもだし、さすがに嫌だ」
「私は絶対言うべきだと思うよ。さっきも言ったけど、隠してても絶対いつかばれる。だったら最初から言ったほうがいじめにもならないで済むと思う」
「お母さんも好ちゃんに賛成なんだけど...ゆーちゃんはそれを聞いてもその意見なのね?」
「出来るならそうしたい。無理なら言うしかねぇけどさ」
正直、俺は迷ってた。言うべきか否か。何故って?それは会話の通りだ。正直に言えば、高確率でいじめられる。でも、好の言うとおり、隠しててもいつかばれるだろう。
「ゆーちゃんがどうしても嫌ってわけじゃないならとりあえず学校には連絡しましょう。どういう対応になるかはわからないけど、それが最善だと思うわ」
「嫌ってわけじゃないからそれでいい」
「それじゃ、先生に連絡取りましょ」
母さんはそういってリビングから出て行った。俺らの担任の先生は、母さんの高校時代の同級生で、今でも仲がいいらしく、普通に連絡を取り合っている。その関係で、俺も担任とはよく話したりしていた。
「友ちゃん、大丈夫?顔色が悪いよ?」
「いや、なんか疲れがな...」
唐突に、俺の体にけだるさが出てきた。
「寝ちゃってもいいよ?もしかしたらいきなり女の子になったから体力も落ちてるのかも。筋肉も男の子より少ないと思うから」
「そうか...じゃあ少し寝るわ」
俺はソファで横になり寝た。
起きた時にはみんな昼飯を済ませていた。俺が飯を食い終わったころ、家のインターホンが鳴る。訪問してきたのは俺のクラスの担任の大潟 麻里乃先生だ。クラスの大半がマリー先生と呼んでいる。もちろん俺もそう呼んでいる。事情を説明してから、先生は俺の体を調べた。俺が女になったことを理解したらしい。そして俺は...
翌日。月曜日。今日は3学期の始業式だ。俺は制服で身を包み、鞄を持っていつもの交差点へ行く。そこにはもうすでに好が待っていた。
「あ、友ちゃん!おはよ!」
「おはよう好」
いつもの挨拶を交わす。
「そういえば好の制服見るのも久しぶりだな。冬休みだったし」
「私は友ちゃんの制服初めて見るなー」
「そりゃそうだろうな」
だって今の俺は...
学校まではそこまで距離があるわけじゃない。でも今日は早くいく必要があった。俺は職員室で待機しなければならないのだ。始業式が終わるまで。
学校についてから、俺は好と別れて職員室まで行った。そこではマリー先生がすでに待っていてくれて、俺のことを来る先生一人一人に説明していった。先生方も半信半疑の中、そういうことにしてくれた。一応証拠も持っては来たんだが...やっぱりみんな見たことがないから信じられないらしい。ちなみに証拠と言うのは、病院に行ったときにもらった性別診断?の書類だ。
そのまま俺は職員室待機になった。マリー先生も始業式に出なければならないということで、教頭先生が俺の面倒を見てくれた。始業式が終わると、各学級でホームルームが始まる。そのホームルームをするためマリー先生が教室へ向かう。そこに俺もついていく。そして、先生が教室に入り、言った。
「はい、静かにして―。ものすごく重要なことを話すから」
みんなは静かになった。うちのクラスはやるときはやるのでこういう時に手間がかからない。
「今日でお別れを告げなければならない子が一人。そして、新しく歓迎してあげる子が一人居ます」
マリー先生のその言葉にみんながざわつく。それもそうだろう。別れを告げなければならない。つまり、今はもういない人物。教室にいない生徒は俺だけだ。俺がもう亡くなったと勘違いしてるのだろう。でも違う。
「別れを告げるのは森 友樹君です。そして、新しく、歓迎する生徒です。入っておいで!」
マリー先生のその合図で俺は教室の引き戸を開けた。みんなの目線が俺に向く。そして、みんな声が出ないでいる。当然だろう。なぜって?さっき別れを告げた人物が女の子になって、女制服を着ているのだから。
「新しく歓迎するのは、森 友樹ちゃんです」
「みんな、ぼ、僕のことは知ってるよね?訳あってこうなっちゃったの。あ、深くは聞かないでね、ぼ、僕自身わかってないから。それじゃ、残り一年とちょっと、よろしくお願いします」