5日後の鼓動
今までは、全て友達からだった。
でも恐らく、こういうのを運命、というのだろう。
――冬のはじめ、職業柄本屋に立ち寄ることの多い俺は、新刊コーナーをいつものようにうろついていた。
いたって、普通の夜のことだった。
いつもどおり、とにかく当てもなく本を探してみる。良い本と毎回めぐり合えるかと聞かれれば、当然、否。
しかし今日は、少し気になる本を見つけた。
『ストロベリー・ホイップ 澪 ゆい』一見ケータイ小説のようにも見えたが、それは名のある会社から出ている単行本だった。
そして、どうやらデビュー作。帯には「期待の新星登場☆大人になっても、甘酸っぱい恋がしたくなる!」と書かれている。
店員もいないし…少し立ち読みしてみる。
『今までその背中をみているだけで満足だった。恋は私にとって、将来の夢や、憧れみたいに、現実味を帯びないものだった。
そしてこの恋だって、始めはちょっとした憧れにすぎなかった。正直、仕事とかの方が、楽しみを感じていた。でも、
「ありがとうございます。」
そう言って微笑む彼を見て、私は目眩がした。
やばい。
少し見下ろす感じになる、彼(彼が小さいのではない。私がでかいだけである。)。まさかの、高校生の彼に、恋してしまった。』
冒頭部分だけ呼んで、買うことを決めた。会社員女と高校生男子の年の差恋、というなかなか珍しい設定も気になったし、
多分傾向としてはライトのベルに近いのだろう。さらりと本を今は読み終えたい、そんな俺にはぴったりだと思った。
そして文章の初々しさに、心が甘酸っぱくなれそうとか柄にもないこと思ってしまった俺がいるからだろうか。
そんなところで、突然声をかけられた。
「あ、あの…」
同年代くらいの、女性だった。小さくてふわりとしたイメージ。見たことある気もする。が、思い出せない。
「あ、なんですか?」
分からないので、とりあえず聞いてみる。
「その本、買ってくれるんですか?」
は?というアホ面をさらしそうになりかけ、ぐっと堪える。
「はい、今から行こうと思って…。」
答えては見るものの、いまいち事情がつかめない。
そんな戸惑っている俺には気付いていないのだろうか。などと思っていると、手に急に暖かい感覚。
前をみるとその女性は、嬉しそうに握った俺の手を、ぶんぶん振っている。
「ありがとうございます!よかったーホント」
あの…、と俺は恐る恐る切り出す。そして、手、とだけ紅潮した頬で呟く。
女性のほうも無意識だったようで、あ…と呟き、顔を紅潮させ、その場でフリーズしてしまった。
「ご、ごめんなさい!つい、ちょっと、その、えと、ありがとうございますっ!」
慌ててそういい残し、店を走り去っていった。
その場に残されあ然としつつもきっちりレジで買い物は済ます。
でもなんだか、中身を可愛らしそうな人だな、と少し思ったが、その感情は隠す。
その後家でこの本を一気読みした。正直見くびりすぎていた。胸の中に、甘さ、酸っぱさ、悲しさ、爽やかさ、色々な感情が交差していって、最終的に幸せな感じ、で落ち着いた。
5日後。
「なぁ、これってお前の読んでた本の作者のだよな?」と、なかなか気の利く同僚が、とある文芸雑誌を持ってきた。
軽くお礼を良い、すぐにそのページを開き読み始める。対談で、右が記者。左は澪 ゆい。
俺はその澪ゆいを見て、驚愕した。
次のページの終わりには、著者近影。本には付いていなかったが。
それは確かにあの女性だった。
手近な椅子に倒れるように座り、紅くなってきた感のある頬を、冷たい手で押さえ込む。
あの、可愛い人が、澪ゆい。
本の中で、甘酸っぱく、キレイな言葉を紡ぎだしているのに、実際は人と話すのが苦手。
あとがきでやインタビューでは、冷静な人柄を装っているのに、実際はそうでもない。
ギャップって惚れるよね。前に誰かが言ってた気もする。
これは恋心なのか、と迂闊に思いそうになった自分に蓋をする。
それを何より自分自身に証明するために、澪ゆいを、作家として好んでいると周囲に話しまわった。
そうだ。恋じゃない。作家として、だ。
それが後々厄介になることは、お互い知らず。
再び出会うのは、もう少し後で。
ありがち超短編ですいません。
続編を匂わせつつもこれ以上深入りしたくない事情もあり。
だれかとにかくご意見いただけるとありがたいです。
でも初投稿なんで死ぬほどお手柔らかにおねがいします。