【ローファンタジー】 橘 塔子さん作 「羊飼いのセレネイド~狼と狩人は闇夜に踊る~第五夜 共鳴する双獣 おかしな二人」より
橘 塔子さん作
「羊飼いのセレネイド~狼と狩人は闇夜に踊る~第五夜 共鳴する双獣 おかしな二人」よりhttps://ncode.syosetu.com/n5634do/47/
・超大雑把な現状解説 ※(?)はまあだいたいそんなとこという感じです。
エリー(エリアス)はリメイク箇所ではミミズクの姿をしているけれど本当は強〜いイケメン吸血鬼です❤️
語り手(蓮村絹)の勤める吸血鬼を駆除する会社で働いて(?)いる人間の味方の吸血鬼。
実は絹の下した命令は絶対という契約関係(?)にあるのです。(負荷もあり滅多に命令しません)
そんなわけで二人の契約を切ろうとする敵の吸血鬼に絹はガチで狙われています。
日下は同僚、環希さんは女社長、九十九里さんはイケメン上司です。
その他の関係性や状況は読んで想像できるようにかけているといいなあ。
・・・・・ここから
給湯室の冷蔵庫からラム肉の入ったタッパーを取り出した。
蓋をうっすら開いて、これ見よがしにエリーの前に突きだしてみせる。
「言っとくけど私、まだあんたを許したわけじゃないからね」
匂いに誘われ、エリーは早く開けろとせがむようにシンクの上を往復した。
カチカチと鳴る爪音がやかましい。
「土曜のことよ。あんた私のく、口に……」
エリーの羽角に顔を近づけ小声で訴える。
そこに耳があるわけじゃないのはわかっているけれど。
オフィスを振り返り近くに誰もいないことを確認すると、空いた手を腰に当て大きく息を吐いた。
「ああもう。いい? この国では気軽に他人の口に触れることは許されない。すっごく失礼なことなの。八年もここで暮らしてるんだから、それくらいわかるよね?」
なんの話だか見当もつかないというようにエリーはくるりと首をかしげた。
しらばっくれて。
そんな可愛らしい仕草したって騙されるものか。
「あんた、人間がまためんどくさいこと求めてきたなんて思ってるんでしょ。俺たちのことは解ろうともしないで無茶やってくるくせに、とか……」
そのとおり。よくお分かりで。
エリーが冷ややかな視線を向ける。
手に取るように気持ちがわかってしまうのが苛立たしい。
エリーはなんでもいいから肉をよこせとばかりに、無理やりタッパーと蓋の間に嘴を押し込んできた。
強引な態度にカチンとくる。
「と・に・か・く、どんな理由があってもやっちゃダメなものはダメなの。今度やったら『わん』なんかよりもっと恥ずかしいことさせるからねっ」
「恥ずかしいことって何?」
背後の声に思わずびくりと跳ね上がった。
振り返って見ると給湯室の入り口に日下くんが立っている。
お預けを食らったままのエリーは、よいタイミングとばかりにギャッと叫んで餌はまだかと抗議した。
「まだこいつに餌やってないのか。何してたんだよ」
「いまあげるとこよ」
急いでタッパーを開けてやると、エリーは鉤爪で肉をしこたま掴んでオフィスの方へ飛び去った。
「あ、こら! もう、勝手なんだから」
「……で、なんかやったの? あいつ」
冷蔵庫からコンビニ袋を取り出しながら、日下くんが尋ねた。
「へっ? 別に。大したことじゃないの」
「ふーん。妙なことされたら我慢せずにちゃんと言えよ。庇われて恩を感じるようなやつじゃねぇぞ」
「あ、うん。そうだね」
いつから聞かれてたんだろう。
私の焦りをよそに、日下くんは袋から出した親子丼をレンジにかけている。
ちらっと腕時計に目をやると、もう三時を回っていた。
日下くん、こんな時間にやっと昼食か。
今日はみんな遅くなりそうだ。
「土曜は、どうだった」
「ど、土曜?」
土曜と聞いて、ぱっと口の中をエリーにべろりとなめられた感触が浮かんだ。
生暖かい血の味。
忘れろ。
あんなの犬に舐められたのと同じだ。
「環希さんと一緒に出かけたんだろ?」
「あ、そっちか……すごいよ。オペラ観て、お鮨をご馳走になった」
答えながら、ラム肉の入ったタッパーにぎゅっと蓋をする。
悪くならないうちに冷蔵庫に入れておかないと。
垂れた肉汁を拭き取りビニールに包んで冷蔵庫に戻す。
「へぇ〜。さすがセレブだな」
「そうだ。あのさ日下くん、環希さんが本来一緒に行くはずだった相手ってさ……」
下世話な詮索だけれど、聞けるものなら聞いておきたい。
オフィスをちらりと振り返り、日下くんの腕を掴んで給湯室の一番奥へ押し込んだ。
「ちょっ……なに?」
困惑する日下くんの耳元に口を寄せ、九十九里さんじゃないの? と囁きかける。
日下くんの肩がわずかに跳ねる。
社歴の長い日下くんだ。
きっと何か知っている。
「ばっ……おま、おまえさ、ほんっとにちょっと、気をつけた方がいいぞ」
日下くんは慌てたように身をずらし、隣の食器棚に思い切り肩をぶつけた。
「えっ? あ、ごめん」
ちょっと強引だったかもしれないけど、あれくらいでバランスを崩すなんて日下くんかなり疲れてるな。
身を離すと日下くんは左手を耳の後ろにぎゅっと押し付けた。
息が当たったのがよっぽどくすぐったかったんだろうか。
子供じゃあるまいし。
「で? 九十九里さんがなんだよ」
レンジの温めが終わって、そっけないお知らせ音がなる。
日下くんは一つ咳払いをしてレンジの扉を開いた。
ふわっとお肉のいい匂いがする。
「うーん、まぁいいや。いいな親子丼。お腹すいてきちゃった」
「おまえ食べたんじゃないの」
「だってもう三時だよ?」
この様子じゃ日下くんは何も知らないんだろうと判断し、話題を変えた。
そういうの鈍そうだもんな、日下くん。
温めすぎて熱かったのか、日下くんはレンジから出した親子丼を調理台に置き、手をひらひらさせている。
「まぁなんか口に入れといたほうがいいかもな。今日は残業確定だろうし。……帰り送るわ」
「え、いいよ、エリアスがいるから。エコバッグに詰め込んで、上からタオルか何か被せちゃえば電車だって……」
「俺が蓮村を送りたいんだ」
日下くんの尖った口調にはっとして、顔を見上げた。
「……あ、いや。エリアスを信用してないわけじゃねえけど、向こうがどんな手ぇ使ってくるかわかんねえだろ。手下を連れてくるかもしれないし。人数が多いにこしたことはない」
日下くんは当惑した私の顔を見て、気まずそうに頭をかいた。
「そっか……そうだね。相討ちになったらどうしようもなくなっちゃうもんね」
「だろ? あいつ、人工の武器毛嫌いして使わねえし。俺がいればそいつで援護できる。いざって時は応援だって頼める」
日下くんの指が落ち着きなく調理台をコツコツ叩く。
たくさんの理由を積み重ね説得力を上乗せし、私の答えを待ってる。
「あ〜……」
「わかった。じゃ、お願いする」
これ以上日下くんに気を使わせたくなくて、言葉を遮る。
心配してくれているんだ。
危険にさらされている同僚をほっとけない。
素直にそう言ってくれればいいのに、日下くんの厚意は不器用でぎこちなくて、まどろっこしい。
「おう」
指の音が止まり、日下くんの手が調理台に置かれた親子丼に伸びる。
その頬がわずかに緩むのが見えて、気づく。
自分を頼ろうとしない私に、日下くんは傷ついていたのかもしれない。
友達だと思っている相手に当てにされない自分を、惨めに思っていたのかもしれない。
「ありがとう、日下くん」
誰かを頼るのはちょっと怖くて、でもなんだか心地よかった。
・・・・・ここまで
☆やってみてどうだったか学んだことレポート☆
いただいた一話で一番私の苦手な箇所はおそらく今回カットした前半部分。
情報として必要な展開だけれども長々と描く必要のない箇所。
こういうのを分かりよく、そして個性がちゃんと出るように描くのは至難の技だ……と読みながら、ご指定いただいた「絹と日下の日常パート」の部分を描きましたw
自分ではこういうシーンが好き、得意という感覚はなかったのですが、ここまでリメイクしてきて一番自分で小説を書くときの感触と合致したのが今回のリメイクでした。
相手の気持ちを探るようなやりとりを描くのが好きなんでしょうね。
しかしどうしても文字数が多くなり展開がスローになるのは確か。
想定していた文字数では描きたかった日下パートの終いまでいきませんでしたからね。
こちらの部分が詳細すぎるからサクサク書かないといけない箇所と馴染まず全体がスローになる気もしました。
これはリメイクして初めて見えた私の課題ですね。
橘さんは伝えるべき情報の無駄ない選択、構成の上手な作家さん。
なので展開はそのまま生かすしかないし、文章もクールで思わずそのまま生かそう!なんて気持ちになるのですが、それでは意味がない。
せっかくのリメイクなので表現はなるべく全部変える!という勢いで上書きしました。
そうすると橘表現ではシャープだった絹も日下もなぜかふんわりとしたナイーブそうな感じになってしまう不思議。
鈍感な絹、不器用な日下というキャラは変わっていないのになぜだ!
これが文章のカラーというかいかんともしがたい個性の違いなのかもしれない。
そしてその文章の個性が内容が同じでも読者の嗅覚というか、好みを分ける部分になるだろうなと思ったりしました。
今回悩んだのは動線。
原作では部屋として独立したキッチンはなく、キャビネット等でちょっと仕切ってあるだけのスペース。
でも今回秘密のやりとりをするのにうまく配置が表現できなかったので、勝手に給湯室を作ってしまいました。
それでもレンジ、冷蔵庫、食器棚、シンクに調理スペースの位置、動線がいまひとつ浮かぶようにかけていない気がします。
そんなの多分描く上でそこまで大事じゃないw
なのにこういう細かいところに囚われて悩んでしまうのはもう私の性格の滲み出るところというか、個性なんでしょうね。
文章というのは内容が同じでも注目する動き、言葉選びの一つ一つに物の見方や捉え方なんかが如実に現れる恐ろしいものだよ……。
これが伝えたい!というコアをバシッと伝えられるシンプルな表現に強く憧れるのは、自分にないものだからかもしれない。
今回は純粋に文章表現の個性について感じるリメイクとなりました。
橘さんありがとうございました!!




