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最適解

 「マスター? これなんてどうでしょう?」


 白いワンピースに薄手のピンク色のニットカーディガンを羽織り、手を後ろに組んだリアが、はにかみながらそう俺に声をかけ、そのままくるりと半回転し、姿見越しにまた俺を見てきた。なぜかドヤ顔である。

 いや、なぜかではない。ドヤ顔をするだけの事は十分にある。

 グッジョブ!グッジョブだリアよ!!ていうか、何でも似合うんじゃないか、リアには。見ているだけでドキドキしてくるレベルだ。


 しかし・・・。


 「ほんとにいいのか? 少し汚れてて訳有り品って書いてあるぞ? このワンピース。ニットもセール品だし。」


 「だから良いんじゃないですか。こんなのはお洗濯で、どうとでもなります。そのお蔭でなんと80%OFFですよ。贅沢は国民の敵なのですっ。」


 戦時中の日本かっ!

 思わず心の中で突っ込みを入れてしまった。服の予算はある程度とっていたのだが、セール品ばかりを手に取ってくるリア。その何れも似合っていたが、特にこの2着は良く似合っていた。

 最初は、俺のリクエスト優先でメイド服を探していたのだが、中々見つからなかった。コスプレショップにも行って見たが、質感がコレジャ無い感満点の物ばかりで、諦めたのだ。

 結局、メイド服はリアが自分で作ると言い出し、手芸用品店で生地と裁縫セットを買った上で、この店に来たのだ。それでも服の予算はまだ余っている。


 「わかったよ。なら、これの他に欲しい物は?」


 「あの、はいマスター。これも欲しいです。」


 そう言って、遠慮がちにレジ横に展示してある指輪を指さすリア。指輪といってもショーケースに入っているような高級なものではなかったので、それも購入した。


 さっそく指輪を()()()()()に着け微笑むリア。

 えっと、リアさん? それって、もしかしてもしかすると、ロボットなのに恋愛感情が芽生えちゃったとか! そんな感じですか!! 待ってくれ、まだ心の準備が・・・。


 「ぶっぶーーー! 残念でしたーー。これは、男性が興味本位で私に近づいて来ない様にする為の、虫よけみたいなモノです。 決して、私がマスターに恋をしたとか、恋人になりたいとか、そんな感情からではありませんーー。」


 酷いじゃないか、リアさん。俺の純情な心を弄ぶなんて・・・。しかも、まだ俺、何も言ってないし、察しすぎだよ・・・。とは言え、確かに街中では普段感じない視線を山ほど感じた。正確にはその視線は隣を歩いていたリアへ向けられていたものなのだが。

 何にせよ、指輪とは考えたものである。


 「所で、どうやってそんな事学習したんだ?」


 「インターネットです。マスター。家ではWiFiに、外ではマスターのスマートホンに接続して、そこからテザリングしています。情強なら常識ですよ?」


 しれっとそんな事を言ってきた。

 そうなのか? というか、歩く人工知能に情強自慢されるとは思ってもみなかった。


 そうこうしているうちに、キッチン用品店に着いた。現在、リアは調理器具を物色中である。


 「何か欲しい物は見つかったか?」


 我が家の調理器具と言えば、ヤカンと片手鍋位しか存在しない。炊飯器もフライパンも存在しない。男の一人暮らしなんぞ、そんなものだと思っている。

 まぁ、意識高い系とかいう人達であれば、それこそインスタ映えする食事を毎日自炊するのだろうが、生憎、俺の意識は全方位型ではなく、興味がある事にしか注がれないのだ。


 「マスター。これに決めました。」(むふーーっ


 またしてもドヤ顔のリアが手に取って来たのは、なんと土鍋だった。しかも処分品70%OFFの札付きである。


 「えっと、いいの? 土鍋で? もっとこう、フライパンとかさ? そもそも土鍋の用途わかってる?」


 「む~~っ」

 「これでいいんですー。むしろ、コレがいいんですから!」

 「買って頂けるんですか? どうなんですか?」


 にじり寄るリア。だってねぇ、土鍋だよ? 冬じゃないんだよ? アレかな。データベースの中の料理レシピが、鍋に偏ってるのかな?


 「オーケー。 分かった。これを買おう。」


 結局、俺の要望でフライパンも購入したのだが・・・。


 その後、スーパーに寄って食材と調味料を購入し、現在、帰宅途中であるのだが、周囲からの視線が痛い。ボッチの俺にとっては、周囲から視線が集中する事自体、初めての経験なのだが・・・。

 理由はリアにあった。


 「んっしょっ。よいっしょ・・・。」


 リアは俺の隣で、米10キロと食材を一手に持ち、いかにも重そうに運んでいる。ロボットとは言え、そのパワーは人間並み程度しかない。途中、何度か俺に渡すよう言ったのだが・・・。


 「私はロボットですので、一時的な筋肉の疲労等はありません。ですから、合理的に考えても、これは私が持つべき物です。歩き方が不安定なのは、重量物運搬状況下におけるジャイロセンサーと人工筋肉の連携が学習出来ていない為です。」

 「しかも、家に着くまでこの状況を続ける事によって、今後重量物を運搬する際の良いデータを取得できるのですから、私が運搬するという行為は最適解と言えるでしょう。」


 こう言って聞かないのである。仕舞にはヒソヒソ声で「いやねぇ、あんな華奢な子にあんな重い物持たせて。どういう神経してるのかしら?」等と聞えて来る始末である。


 「兎に角っ、これは俺が持つからっ!」


 こんな状況に耐えられなくなった俺は、そう言って強引にリアから荷物を奪った。代わりに土鍋とフライパンをリアに持たせて。

 決して美少女に対して格好をつけたい等と、そんな気持ちからではなく、純粋に居た堪れなくなっただけだ。


 「・・・色々あったけど、まぁ、楽しかったな、今日は。ボッチじゃない買い物なんて久々だった。」


 「マスター、あの・・・。」


 「ん? 男気溢れる俺の行動にキュンと来たか? それともジュンッと来ちゃったか?」


 「はぁ、マスター。残念ながらデレたりしませんので。淡い期待を打ち砕いてしまい申し訳ありません。それに会話の節々に下ネタを挟んでくるのは、如何な物かと思いますよ? 女性的観点からすると、間違いなくドン引きの発言です。」


 この子にはデレとかそういった感情は無いんだろうか・・・。 と言うか、ここまで冷静に突っ込まれるとかなり凹む。


 「とは言え、マスターを差し置いて、自己を優先させた行動を取って居たのは確かでした。マスターに向けられる視線や会話の内容は、私も把握していましたので。」

 「ですから、チョコッとだけ、ごめんなさいです。」


 親指と人差し指をギリギリまで狭めて、ちょこっとっぷりを表現してみせるリア。

 「全然隙間空いてないぞ。チョコッとでも何でもないだろ。それ。」


 「はい。マスター。そもそも謝ろうかどうか迷ったくらいですから。私の予測では、マスターはそう言った周りの風評には左右されない人だと認識しておりました。他人の声や視線等は自分に向けられるハズがない。つまり、自分の事ではない。と潔い程に割り切って行動しているのがマスターだと。」


 「まぁ、確かに普段はそうなんだけど。流石にこれだけの視線を集めれば、意識もするさ。」


 「はい。ですから、私からお米等を強引に引き取った時点で、いつもの妄想爆発中なのか、居た堪れない状況からの打開策だったのか、判断に迷ってしまったのです。」

 「今後に関しては、もう少し総合的に判断をした行動を取るように心がけます、マスター。」


 リアの申し訳なさそうな表情から察すると、ちょこっと所ではなく、それなりに反省しているようだ。

 しかし、リアは優秀だ。こういった些細な事でも自分の過失を認め、それを反省点として改善しようとしている。


 結果的に、リアがとった行動は間違いだったかもしれないが、リアが判断に迷った要因である、俺が妄想中だったというのも、あながち間違ってはいない。

 つくづく、俺の行動原理というか、心理を理解してらっしゃるようだ。しかも、その思考精度は確実に向上している。


 やはり、リアは優秀だ。良く出来たロボットであり人工知能である。

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