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当初の目的

 パーソナルスペースという言葉がある。


 当然、人によって広さはかなり異ると思うが、無論ボッチの俺は無限大に広い。そもそも、そんな訳の解らないスペースなど、在りはしないのだから。かといって、視界に入る人間全てに距離を置くかと言えば、そうでもない。別に、人混みだって嫌いなわけじゃない。

 例えば、仕事場ではゼロ距離でゲンコツをもらう瞬間もあるし、オヤッさんの奥さんである、まさ子さんに肩を叩かれ励まされる事だってある。満員電車に乗ればそれこそ四方全てがゼロ距離だ。しかし、そこでパーソナルスペースが侵害されたとか、全力でその場から逃げ出したい等とも思わない。

 なぜなら、自分自身に用事がある人間など、居ないのだから。


 特に悲観的に考えてる訳ではないのだ。ようは、モブキャラの一人であるという事だ。この考えに至ってからは、周りの視線等が苦になる事がなくなった。

 自ら他人へコンタクトを取るとなれば、途端にハードルが上がるわけだが、そんな有事は滅多に無いのだ。


 「・・・逝っちゃってるのかなぁ?」

 「マスター・・・、マスターっ・・・、マスターってば、聞こえてますかー?」


 せっかく人がスキル『ぼっち』を自己分析しているというのに、目の前のロボットは、そんな事お構いなしに俺の両肩をガクガクと揺さぶってくる。しかも、今すごく失礼な事を言われた気がしたぞ?

 どうでもいい事だが、パッシブスキル『コミュ症』をベースとして、いつの間にか習得していたエクストラスキルが『ぼっち』だ。

 因みに、リアがリアとして起動してから現在に至るまで、俺の性欲は鳴りを潜めている為、賢者モードは発動していない。妄想の中では野獣と化している俺だが、実際、自己形成している美少女を目の前に、スキル『ぼっち』の能力のである「対人ビビリー」と「ムッツリ」が発動しているようだ。


 「リア。ボッチな俺のパーソナルスペースは無限大だ。この意味が分かるか?」

 

 「はぁ、基本的には理解不能ですが、少なくともこの部屋よりは狭そうですね?」


 参考までに、四畳半の広さとは約273cm×273cmである。半径1.5mも無いのだ。

 おかしいな。先ほどまで部屋の掃除をしていた筈なんだが・・・? 俺は、リアが部屋の掃除をしている間に、何故かリアとは普通に会話している自分に気付き、その理由を自己分析していたのだ。


 「リアさんや、ちょっとそこに座りなさい。」


 「何ですか? マスター?」


 目の前に、ちょこんと座ろうとして・・・、俺の膝の上に座るリア。上目遣いで見上げてくるその表情は実にあざとい! っていうか距離が近い! 正しくゼロ距離である。

 因みに俺は正座だ。

 

 「・・・近っ!」


 ものすごいスピードで壁まで後ずさる俺。心臓がバクバク煩いやら、全身から変な汗が噴き出るやら。

 この子は、コミュ障ボッチで今まで生きてきた俺に何て事をするんだ。まったく。


 「はぁっ・・・、はぁっ・・・。近い、近すぎるっ。そこ、今の位置に正座! オーケー?」


 「はぁ。分かりました。マスター。」


 「なんで、急にあんなことしたの?」


 「はい。マスターが、他者とコミュニケーションを取るのが不得意である事は、以前より認識しておりましたし、その為にパソコンを使用して、コミュニケーション能力の向上を図ろうと、努力されていた事も把握していました。ですので、いっその事、荒療治的にゼロ距離で会話をしてみれば、一気に改善出来るのではないか? と思考しました。」


 「急展開過ぎるよ! しかもリアみたいな、その、美少女に・・・。」


 先ほどのゼロ距離を思い出してしまい、思わず赤面する俺。そして本当に心臓がうるさい。止まってくれないかな。これ。

 いや、止まると死んでしまうか。まだ少し混乱しているようだ。

 本当に、リアが起動してからは驚きの連続である。


 「マスター? よく聞いて下さい。そもそもマスターが私を製作した目的は、コミュニケーション能力の向上、マスター風に言い換えれば、コミュ障改善の為だったハズです。」


 リアは俺に向かい、現在の状況を諭すように説明し始めた。


 「しかし、マスターは既に、私という存在とのコミュニケーションであれば、何ら問題なく行えているはずです。さらに言えば、身体的接触に関しても、私の記憶が確かならば、マスターは私を三日三晩弄び、その後も何度か積極的に、身体的接触を行っていたではありませんか。」

 

 真面目に状況説明をしてくれるのは有難いが、致してしまった本人から、改めて聞かされると恥ずかしいというか、例えるなら、親にオナニーしている所を目撃された上に、その内容を解説されている様な心境だ。穴があったら入りたい。


 いや、もう何度か、出たり入ったりしたんだっけ・・・。


 「というか、いくら何でもあんなプレイばかりでは、女の子にドン引きされてしまいますよ? 目とかすごく怖かったし。あっ、因みに私はもう怒ってもいないですし、今更マスターの変態さ加減に悲観する様な事もありませんので、ご安心下さい。」

 「それにマスター、重要な事をお忘れなのかもしれませんが、私はマスターの理想の女性像を体現している存在です。それは、身体的な距離間だけではなく、会話の距離感も含まれているのです。ですから、極めて自然な状態で、マスターともコミュニケーションを取る事が可能なのです。」

 「さらに言えば、私がロボットという存在なので、マスターは潜在的に対人に関する心の壁を取り払った状態でコミュニケーションが出来ているのでは? と推測します。」

 「もう一つ付け加えるならば、私はロボットであり、その本質は人工知能ですが、マスターから見た私が、人間的な振る舞いに極めて近い為に、物理的な距離感、つまり、パーソナルスペースを意識してしまったのでは? と推測します。」


 成程、確かにその説明でしっくりくるな。いや、ホント、俺より俺の事を分かってるね。リアは。

 ともかく、リアとの会話においてコミュ障が出ることはない様だ。つまり、これでより実践的な会話の訓練が出来るようになったという事だな。


 「それよりマスター? そろそろ会社行かなくていいんですか?」


 色々在りすぎて時間の感覚が無くなっていたが、そろそろ出社しないといけない時間になっていた。


 「わかった。リアはどうするんだ?」


 「私は寝ますよ?」


 「そうか、寝るのか。・・・って、寝るんですか!?」


 リアさん。あんたロボットだろ? 寝るんですか? 寝る必要あるんですか!?


 「あ~~、えっとですね。人間と同じ意味での睡眠は必要ありませんが、身体機能のチェックと、先ほどまで蓄積されたデータを人工知能にフィードバックする必要があるのです。それをマスターにもわかりやすい表現にしてみました。」


 「あ、そうなの。」


 もうね。高機能すぎて理解不能ですよ。あと、適応力が半端ない。

 よく、思考停止に陥る=成長が止まるとか、馬鹿になるとか聞いた事はあるが、ここはそういうモノとして受け入れるしかないだろう。


 「とにかく、行ってきます。」


 「はい。行ってらっしゃい。マスター。早く帰って来て下さいねー。」(にこっ


 飛び切りの笑顔で見送られた。手も振っている。それは、本当にロボットなのか? と疑いたくなる程完璧な、お見送りだった。


 結局、徹夜になってしまったが、脱コミュ症、脱ボッチに向けて大きく前進した事は確かだ。明日は丁度会社も休みだし、唯一残った課題である、リアの為の衣服を入手する事にしよう。人間と違い代謝が無い分、内部からの汚れ等の心配が無いと言っても、ずっとジャージというのは宜しくない。折角ならメイド服を入手しよう。


 そんな妄想を繰り広げながら職場に向かったのだった。

次回は2月7日に更新予定です。

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