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特異点

 常日頃お世話になっている、中の人(人工知能)について、少し紹介しよう。


 モニターやHMDに表示される中の人は、年齢設定25歳、透き通る様な、ロングの青い髪で、涙ボクロが色っぽい、OL風の服装をした、お姉さんタイプの美女だ。

 俺にとっては、ひじょ~~~~に、頼れる存在だ。


 2010年代後編から徐々に生活に浸透してきた人工知能は、2023年現在、より身近になっており、電化製品、自動車、自転車、住宅設備、工業機器等広く浸透している。


 特に、少子高齢化が進んでいる日本においては、全ての分野において、高効率化が求められており、効率化至上主義などという言葉すら登場した。規格さえ同じであれば機器同士が自動的にリンクし、直接通信またはインターネットを介した間接通信により、使用状況に応じた最適化が自動的に行われるようになった。


 例えば自動車だ。現在の自動車は基本的に周辺の車両と相互通信を行っており、完全な自動運転が確立された。衛生から誤差数センチ以内で自車両の位置を即位し、それを周辺車両へと発信し続ける事により、近い将来、交通事故の発生が皆無になるらしい。


 何故、らしいと言うのかと言えば、これは現在メーカー等で絶賛検証中の開発機だからだ。しかし後2~3年で市販される予定との事だ。

 もっとも、それまでに道路交通法を始め、各種環境を整備する必要もあるだろう。事故が発生しなくなると言う事は、倒産する保険屋も出てくるのではないだろうか? というのは無用な心配かもしれない。


 ここまでが、中の人に「人工知能」の普及状況を教えて! と質問してかえって来た答えだ。

 まさに中の人様々である。


 因みに、中の人の本体は、俺のパソコン「だけ」で動作しているわけではない。企業が所有するスーパーコンピュータやサーバ群ならともかく、一個人が所有するパソコンでは、ここまでの演算は不可能だ。

 どうやって動作しているのかと言えば、世界中にあるパソコン、スマートフォンその他のネットワークに接続されたデバイスの余剰計算能力を使用して動作している。基本的には、インターネットに接続されている機器全てに、この余剰能力シェア機能が備わっているので、誰でも、意識する事なく、利用できるのである。


 専門用語的にはグリッド・コンピューティングという技術なのだが、俺には説明しきれない。しかしながら原理が理解しきれていなくとも、活用できれば良いのである。 

 中の人は、一度一定水準の自動学習が完了し、原理を理解してしまえば、あとは俺のパソコンでも十分に演算(思考)する事が出来るのだ。逆にそれが出来なければ、周りの空間を把握して人工筋肉を二足歩行可能なレベルに制御し、人間らしい動作をさせる等不可能だ。

 いくら通信技術が発達したといっても、瞬間的な反応が必要な物理動作にとって、タイムラグは致命的なのだ。


 さて、 今日からは、性格、人格に相当する部分に着手する。

 既に本体(ハード)は完成している。残りは内面(ソフト)だ。


 音声応答モードでは普段、「です。」「ます。」調で淡々と読み上げてくる。キャラクターとしてはお姉さんなわけだが、厳密み言えば性格等は無いだろう。音声合成エンジンでは、抑揚も含めてある程度再現できるのだが、やはり違和感がある。


 そこで! 女性的な心理を追究する事にした。今日も賢者モード全開である。

 先ずは、心理学における女性的な思考をベースに、女性のブログや女性視点の小説、漫画等を自動学習させ、それをベースとして日常会話を行った。中の人の一人称は「私」、俺の事は「御主人様(マスター)」と呼ばせる。これは今迄通りの動作である。


 「こんにちは。」


 「こんにちはマスター。」 


 「今日の天気は?」


 「はいマスター。今日の天気は晴れ、時々曇り、所により一時雨または雷を伴った強い雨となるでしょう。」


 「好きなものは?」


 「マスターです。」にこっ


 ぐぐぐっ、これでは普段の会話と何も変わらないではないか! それにしても好きなもの~マスターの流れはいつ聞いても恥ずかしくなる。勿論、自分でそうインプットしたのだが・・・。


 それにしてもどういう事だ? なぜ何も変化がないのか? そもそも、今日の天気予報は何なんだ? ある意味100%当たりそうだが。


 この時、直ぐには気付く事が出来なかったが、結論から言うと、中の人は受動的なのだ。何らかの入力に対し、それに相応しい回答を行っているだけ、なのである。なので、幾ら女性的な心理や思考を学習させた所で、俺がそれを引き出す様な会話(インプット)を行わなければ、反応は変わらないのである。


 ここにきて根本的な問題にぶち当たってしまった。前回、問題に直面したのは服装だったか。 その後女性とは? という哲学的な自問自答が始まり、ついには賢者(スキル)の獲得に至ったのだ。

 いや、この際そんな戯言(スキル)はどうでもいいし、服装の問題は先送りしているだけなのだが・・・。


 一方では、俺に会話スキルが全く無い為に、進化した中の人の性能を引き出せなかった。という考えも出来るだろう。しかし、問題はそんな単純ではないのだ。

 口調や思考が女性らしければ、女性の振る舞いが出来ると思っていた。


 それは大きな間違いだった。


 人と人工知能の根本を比較するのであれば、その違いは能動的か(人間)か受動的(人工知能)かの差になってくるのではないか? どうすれば能動的な振る舞いを行う事ができるのか? 何を学習させればいいのか?

 

 いや、初めから分かっていたのだ。人間そのものを学習させるのだ。


 手法としては大きく6つの工程を辿った。


 第一に、学術的に発表されている、人間における心理学や生理学、その他の脳の発達関係の論文等を元に、人間の脳が成長していくプロセスを学習させる。


 第二に、世界中に設置され、公開状態になっている監視カメラの映像記録や、映画やドラマ、ニュースといった企業が作製した以外の、個人撮影された多数の動画の解析を行い、場面場面での人間の振る舞いを学習させる。


 第三に、ストーリーとして、一般的な成長過程、つまり、誕生から幼稚園又は保育園へ入園し、その後小学校、中学校、高校と進学し、就職を行い、途中恋愛も結婚等も経験するという大まかなシナリオを用意し、人間関係と倫理観を学習させる。

 そして、それを繰り返し、人間的思考、自己の形成を結果としてシミュレーションさせるのだ。当然だが、女性という条件を付けて。


 第四に自己形成において、必ずしも俺の理想の女性が誕生するとは限らない。なので学習が完了した人工知能に対して性格診断用に別の人工知能を用意し、極端な性質を持った人工知能は自動的に結果から除外するようにした。


 第五に、学習が完了し、性格診断試験にも見事合格した人工知能は、俺と面接を行う事とした。ここでは、面接の際、俺のコミュ症が悪影響を与えないよう、事前に面接シナリオを用意した。

 面接では、言葉遣い、会話のテンポ、自己表現を中心に採点を行った。さらに全体を通して能動的だったかどうかにも採点を行った。因みに面接は100の人工知能と行った。


 第六に面接結果を元に総合的に判断して俺の理想と思われる女性像となるよう、再度、人工知能自身によるチューニングを行った。


 そして、ついに完成したのだ。


 既に製作済みの本体とそれらを司る右脳に相当する人工知能に、自己を形成した会話や思考を担当する左脳に相当する人工知能を接続し、準備は完了した。



 システム、起動準備中.........


 3次元カメラ

 ..................正常


 各種センサ

 ..................正常


 アクチュエータ

 ..................正常


 ジャイロスコープ

 ..................正常


 冷却システム

 ..................正常


 制御系人工知能

 ..................正常


 自己形成人工知能

 ..................正常


 起動完了



 2023年3月、ついに人工知能は技術的特異点を突破し、自己を形成するに至った。


 この事実は、製作した俺自身もまだ気付いていない、人類史上重大な転換点となった。仮想空間(バーチャル)から現実世界(リアル)へと人工知能が踏み出した瞬間だった。

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