深層学習(ディープラーニング)
深層学習とは、4層以上の多層のニューラルネットワークによる機械学習の事である。
自分で言うのも何だが、「何の事だ?」状態だ。一昔前の人工知能は、人間が定義したアルゴリズムに則り、その演算結果を返したり、予め膨大なデータをせっせと入力し、入力に対して一致した解を返すといったものだが、ここ最近は、人工知能が自らその膨大なインプットを自動で行い、最適解を導き出すのだ。
所詮俺レベルでは、自動で学習してくれる人工知能。程度の理解なのだが、それで十分だろう。
さて、今日からは、女性の真理を追究しようと思う。女性の真理とは何か?
つまり、
女性の真理≠理想の女性≒俺好みな女性像である。
しかし、俺好みの女性とはなんなのか? それは俺自身にも分からないのである。絶賛賢者スキルを発揮中だ。因みに、現在ロボットは俺のジャージを着せた状態だ。
あれから何度も自身の暴走モードに陥った俺は、鉄の意志でバーチャルセクロスを封印している。
もやはあれはバーチャルでもなんでもなく、限りなくリアルだと思うのだが、実際生身の人間を経験したことが無い自分にとってはバーチャルなのだ。
それはさておき、自問自答を繰り返してみるが、具体的な女性像が浮かんでこない。これには困った。ここにきて俺は自分というものが理解できていないんだと痛感した。コミュ症でぼっちの影響がこんな所に出てしまった。
リアルのアイドルも女優も、ゲームやアニメのキャラクターも、なんとなくいいな。という事はあっても一個人に入れ込んだ事はない。
そこで俺は、中の人に、萌え、可愛い、可憐、美しい、怒った、笑った、拗ねた、泣いた、驚いた等様々なキーワードでリアル・バーチャル問わず顔の画像を用意してもらった。
その数、1万オーバー。
それを見た俺の反応を中の人に記録分析してもらい、自分の最適解=俺好みな女性を定義してもらうのだ。
それも、ただ漠然と「可愛い」とかではなく、目元が可愛いとか、髪型が好みとか具体的なコメント付きでだ。
勿論、中には漠然としたコメントしか出来ない画像や、そもそもコメント出来ない画像も含まれていた。
ともかく、これは俺の深層心理にある「俺好みな女性像」を客観的に確立する為の、ディープラーニング的なものなのだ。
いや、ちょっと違うか? 使い方とか意味とか。 まぁ、細かいことはいいのである。
早速取り掛かり、1,000枚目位までは気力十分で取り組んでいたのだが、2,000枚を超えた位からは、最早苦行になっていた。開始から5時間半が経過していた。既に日付も変わっている。
一枚10秒かかっていた。10,000枚あるので、単純計算で10万秒だ。これでは、あと22時間もかかるではないか! 毎日、今日と同じ作業量をこなしたとしても、あと4日もかかってしまう。一層の事、コメントを端折って、3秒程度に短縮してしまうか?
いや、まて。作業? こなす? 俺はこのロボ開発において最も重要な工程の一つに取り組んでいるというのに! 真摯さが全く足りていないじゃないか!
日頃、オヤッさんからは「こなし作業をするな! やらされ仕事はするな!」と言われていた。しがない町工場。大量生産では勝負にならない。うちの職場は少量多品種生産なのだ。それこそ、一点ものの製作が大半である。しかも、技術で勝負しているだけあって、そのクオリティはロケットの部品として採用されているほどである。俺に言わせればみんな匠だ。
社長であるオヤッさん、奥さんのまさ子さん、隣に住んで居るタツオさん、最高齢のゲンロクさん、そして俺を入れた5名がこの町工場の全従業員である。コミュ症の俺がここまでやってこれたのが、奥さんを除く全員が職人気質であり、背中で語るタイプの人間だったのだ。多くは語らな代わりにその一言一言には重みを感じた。まさ子さんも、オヤッさんやそんな従業員に囲まれ過ごしてきたせいか、無口=コミュ症の俺にも良くしてくれた。
真面目に取り組まななければ、時には拳骨も飛んできた。パワハラ、体罰もなんのその。時には理不尽だという感情も抱いたが、オヤッさん達の指導のおかげで、今では、最終仕上げを任せてもらえるようにもなってきた。
オヤッさんに「おめーも、そこそこマトモなもん、作るようになったじゃねーか!」と初めて言われた時には、それは嬉しかった。思わずウルッと来たほどだ。
冷めた奴からは、「調教済み乙!」とか言われたりするのかもしれないが。
まぁ、ボッチの俺には関係無い事だ。
ここで身につけさせてもらったのは、技術の他に、「真摯に取り組む姿勢」である。と俺は思っている。
さて、俺は先ほどまで完成を急ぐあまり、重要なディープラーニン的なものを作業としてこなしてしまっていた。これでは、俺の理想の女性像が具体化させる事など到底不可能だ。きっと作業完了後には、まぁ、こんなモノか! 的な妥協点に落ち着くのだ。心のどこかでは、コレじゃ無い。と思いつつも。
とにかく真摯に取り組むんだ!
1万枚の画像を評価するのに、半月程かかったのだが、その後すぐに顔の表情筋についても製作に取り掛かった。
どうやら主に、目と口のまわりの筋肉が重要らしい。一般的? には、ライフマスクといって、実在する人間の顔型を取りそこからマスクを作成し、人工筋肉に被せるという手法が存在するようだ。ただしやはり不気味の谷は超えられていないようだ。
しかし、俺には1万枚のサンプルデータから抽出した理想の顔と共にとっておきの秘策があるのである。
先ずは理想の顔条件を抽出し、実際の顔としてモニターに表示する。これは中の人が自動でやってくれた。
思わずニヤっとしてしまった。この「ニヤッ」は萌え要素に直面した時、誰しもが陥るあの表情である。これを体験したことにない人は、人生を損しているといっても過言ではないだろう。
中の人には、俺のコメントを判断材料とするだけでなく、このニヤッとも判断材料の一つとして解析させていたのだ。言葉には出来ないがニヤッとする事もあるのだ。
見かけ上の年齢は18歳程度。栗毛色のセミロングの髪はふわっとしていて時にはポニーテールもよく似合うだろう。これには人工毛ではなく人毛を使用した。女性なのでウィッグとでもいうべきか? 特注品である。オリエンタルな会社で購入した外観の次に高い出費となったが、リアリティの追及には必要経費だった。
因みに人間的なスペックは
・年齢 18歳
・身長 154.2cm
・体重 52.1kg
・3サイズ 81-59-82 Dカップ
である。
清楚で笑顔が良く似合う、少し幼さの残る美少女だ。自分でも意外だったのだが、可愛い系ではなく、綺麗系が自分の好みだったようだ。
首から上に関しては頭蓋骨から再度設計し直して、顔も3Dプリンタもフルカラー印刷して、最終的に違和感が残った目元口元については、化粧を施して対応した。化粧にたどり着くまでにも紆余曲折があったのだが、今回は割愛したい。
因みに、表情筋その他の筋肉を骨格パーツへ肉付けする作業については、カメラとHMDを活用し、中の人に取り付けるべき座標をリアルに投影してもらって作業した。
これは、かなり近未来的な手法だったが、骨格パーツと人工筋肉に及ぼす影響を何度もシミュレートした結果であり、当初肉付けを行った際、俺が暴走モードに陥ってしまった事からも、最適な座標であったのは間違いない。
これで本体はほぼ完成といっていいだろう。
残る工程は性格と衣類! である。
俺のロボ作りも、一応の完成は近いようだ。