表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

男の娘

 「今帰ったぞー!」


 「お帰りなさい! お爺ちゃん!」


 そんな掛け声と共に、廊下の奥からトテトテと足音が聞えて来る。


 「晩ごはん出来てるよ! 今日も、お婆ちゃんと一緒にご飯作ったんだよっ!」


 チェックのシャツに、膝下までのパンツ姿で元気いっぱいに出迎える正太。


 「おいおい、あんまり押すなってぇ。ちゃんと歩けるからよ。」


 言葉の割にオヤッさんの顔は緩み切っていた。


 最近は、家に着くとこういった出迎えが定着しつつある。

 ここ、オヤッさんの自宅では、少し前から正太というロボットを迎え、3人暮らしを行っていた。家族が増えるというのは良いもので、オヤッさんもまさ子さんも、この年齢になって、俄然生きる気力が湧いてくるような、そんな充実感に包まれていた。


 「今日はね、お婆ちゃんの肩叩きしたんだよっ! あとね、あとね、洗濯物を畳んでね、それからね~。」


 3人で食卓を囲みながら、今日の出来事を身振り手振りで一生懸命説明してくる正太。オヤッさんもまさ子も、耳を傾けながら、随分賑やかになったものだ、と思っていた。

 もちろん、悪い意味ではない。正太が来るまでは、お互い無言で食事をとり、たまに会話があるとすれば、どこどこの誰々さんが病気になったとか、亡くなったとか。そんな辛気臭い話が多かった気がする。

 それが今ではこんなに華やいで、例えるなら、今までの生活がモノクロだったとすれば、現在はフルカラーになった、という程の差だ。


 正太の話は続く。


 「でね、でねっ。ボク、お爺ちゃんとお婆ちゃんの家の子になって、本当にうれしいよ。二人とも大〜好き。」


 この子は本当に、人の涙腺を刺激するのが上手い。二人とも顔はニコニコしていたが、心では感激にあまり涙を流していた。意識しなければ、ロボットであるという事を忘れてしまう程だ。


 「あと、リアお姉ちゃんも好き。でも、一番大好きなのは、拓海お兄ちゃん! ボク、将来は拓海お兄ちゃんのお嫁さんになるっ!」


 ガチャンッ。

 「あちちっ。」


 「あなた、気を付けて下さいね。」


 思わず湯呑を倒してしまうオヤッさん。


 満面の笑顔で言い切った正太。しかし、内容は衝撃的だった。

 確か、拓海の説明では正太は男児だったはずだ。と、オヤッさんは振り返る。そもそも正太はロボットなので、性別的な区分は本来ない。顔もきわめて中性的で、女の子と言われても違和感は全く無い。

 それに、人工知能というのモノの仕組みを、オヤッさんは理解出来て居なかった。


 しかしだ、それが男だろうが女だろうが、オヤッさんとまさ子さんの二人にとってみれば、孫という存在には変わりないのだ。


 「人生ってやつぁ、面白れぇなぁ。今まで生きて来て、色んな事を経験し尽したと思ってたが、正太が来てからは、まだまだ経験不足ってぇのを痛感させられるぜ。」


 「本当にそうですねぇ。」

 テーブルにこぼれてしまったお茶を拭きながら、そう答えてくるまさ子。

 どうやら、まさ子も同じ意見の様だ。長年連れ添ってきた夫婦に余計な会話は必要ない。


 確かに、正太の発言は衝撃的だったが、年の功と言うべきか、それを飲み込むだけの包容力と順応性はあったらしい。まだまだ、凝り固まっただけの頑固爺では無い様だ。と、若干の安堵すら感じるオヤッさんであった。


 「なら、貴方。明日は午前中から、この子の服を買いに行きましょうか。たまには、貴方とも買い物に行きたいわ。昔みたいに。」


 「何言ってやがんでぇ。ったくよぉ。」


 そう答えるオヤッさんの顔は、満更でもなさそうだった。


----------------------------------------------------------------


 さて、今日は正太のメンテナンス日だ。夕方、オヤッさんの家から正太を回収し、身体的に不具合が起きていないか、また、ログの取得を行い、ソフト的にもエラーが発生していないか? 等を確認するのだ。

 と言っても、殆どの工程をリアが行ってくれる予定なので、俺は、向こうでの暮らしはどうか? とか、思いつくままに、そんな近況確認を行うだけでいい。


 「マスター。これは私の予測なのですが・・・。いえ、何でもありません。」

 「ところでマスター。これから、下着を買いに行きたいと思うのですが、宜しいですか?」


 「オーケー。俺も一緒にか? 少し恥ずかしいんだけど・・・・。」

 いいよ! アレな、ガーター付きの黒いのな! それか、後ろがTになってるヤツか、いや、紐も捨て難いぞ・・・。

 いやー、それにしても困りましたなぁ。突然の宣言で。今晩はOK的なアレですか、サイン的な。

 卑猥な笑みを浮かべながら、言葉とは真逆な、妄想全開の俺。


 「はぁ、マスター。残念ですが、紐でもTバックでも有りません。ましてやガーターベルトなんて付いていません。」


 相変わらず読んでくるね! 俺の思考。というか、嗜好か?


 「強いて言うなら・・・、しましまでしょうか?」


 しまっ、しましまっすか! いや、リアさん。確かにリアさんは美少女で、何を身に着けても抜群に似合うと思うよ?

 それにしても、シマシマとは・・・、俺の予想の斜め上を超えていきやがったぜ!

 上等だ! 受けて立とうじゃないか!


 完全に妙なテンションになってしまった俺だったのだが、リアは相変わらず淡々としている。

 リアから見れば、多彩な顔芸をする男に映っているのだろうか・・・?


 1時間後、俺たちはファッションセンターに来ていた。

 シマシマだけに、しましまっぽい名前の店に来た様だが、当のリアは、入店後直ぐに「マスター。折角ですので、マスターの服もご自分で選んでみては? 今回は、私が工場のアルバイトで稼いだお給料から、お支払致しますので。」とかそっけない事を言って、そそくさと別の売り場へ行ってしまった。

 買ってくれるのは素直に嬉しいのだが、自分が製作したロボットから物を買い与えて貰うのって、どうなんだろう?「人類初のヒモ男! 相手は何とロボット!?」とか言われたら嫌だな。

 まぁ、ぼっちの俺は、世間の注目度が低いというか、皆無なので関係ないのだが・・・。


 結局、白いTシャツを5枚程選んだ。そろそろ首回りが解れてきて、丁度買い替えようと思っていた所だ。リアは既に自分の分の会計を済ませた様だったので、Tシャツの代金を支払って貰い、店を後にした。


 「これっ、私がプレゼントしてあげるんだからっ! 大切にしなさいよねっ!」


 「あ、うん。有難う。」


 リアはたまにツンデレ口調になるのだが、初回以降、演技だと分かっているので、俺も冷静に反応した。正直、リアにはツンデレの才能は無いのかもしれない。というかツンデレとはなんたるか? の理解が足りていないのかもしれない。


 「ホントに感謝してますか?」(むー


 「してるって! 大切に着させてもらうよ。」


 手を後ろに組み、上目使いで、少し不満そうに呟いてくるリアは、とても可愛いかった。思わずドキドキしてしまった。リアは綺麗系なのだが、時々見せる仕草はドキッとする程可愛いのだ。


 「ならよしっ! です。」


 満足げに頷くリアは、相変わらず綺麗で可愛かった。


 これから一旦家に帰り、正太を回収しに行く予定なのだが、まさかオヤッさんの家で、あんな事態に直面する事になるなんて、この時には思いも寄らなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ