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第二世代

 現在夜の11時。部屋には、俺とアイマスクをしたリアの二人のみ。


 「ドロッとしていて、とても苦いです・・・。」


 コクリと嚥下したソレに対し、若干苦しそうな表情と共に、感想を呟くリア。


 今何をしているかって? それは勿論、味覚センサの実験である。人間の五感で言う、味覚、臭覚のセンサについては、まだまだ研究段階と言える分野ではあるのだが、俺達は今正に、その味覚センサを開発中なのである。

 因みに今リアが「苦い」と表現したモノの正体は、カカオが95%のチョコレートを溶かした物である。更に言えば、俺はこんな苦い物など、食べる気にはなれない。


 「マスター。この検証過程において、アイマスクの必要性はあるのでしょうか? カメラをオフにすれば済む事では?」


 「リア。君は何にも分かってないね! 物事には、シチュエーションというのが非常に大切な瞬間があるのだよ!」


 「はぁ、表情でも五感を表現するというのは得心致しますが、どうも、裏に何かマスターの下心的なモノが隠されている様な気がしてなりません。」


 若干ジト目気味に、そう訴えてくるリア。

 くっくっく、確かにその通りだ、リアよ。本来、目隠しは必要無いし、ロボットであるリアは、身体的反応に伴う苦痛など、持ち合わせてはいないのだが、そこはそれ、雰囲気というか、リアルさ重視なので、表情にも細心の注意を払っているのだ。

 アイマスクについても、カメラからの情報を元に、味覚を補完してしまうかもしれない、という可能性を排除しているのだ。


 これはあくまでリアの人工知能に対する学習の一環であって、決して、後日そういったプレイを試そうとか、そう言う事ではないのだ。本当の本当に。


 ・・・本当の本当なのだが、後日改めて、カルピスの原液を、さらに濃縮させた様な見た目の液体を飲ませて、さっきの表情、口調を再現して欲しいものだ。


 さて、本題の味覚センサであるが、これは脂質/高分子膜から得られる電圧パターンの違いによって味覚情報を取得をしている、らしい。らしいというのは、リアがそう言っていたのだ。高分子膜とやらはリアが3Dプリンタで作成した。パターンの蓄積及び解析については、リアが得意とすると事だ。

 俺のした事と言えば、作成した高分子膜付きの回路をリアの口の中に搭載しただけだ。搭載にあたってはHMDを活用し、そこにリアのナビゲーションを重ね合わせて実施した。これは、以前リアを製作した際にも行った手法だが、リアのナビゲーションのお蔭で、より的確に作業が出来た。


 平行して進めたのが、臭覚センサの搭載である。膜型表面応力センサというもので、味覚センサ同様に研究段階で有るらしいのだが、3Dプリンタに施された魔改造により、いつの間にか完成していた。勿論リアがやった事だ。

 曰く、「臭覚も味覚も、電気信号に変換する場合、受容体よって得意不得意がありますから、こうやって特性の異なる膜を、何層にも重ねてから切り取ることにより、ミルフィーユの様なセンサを作成しました。」との事だ。見た目は全然ミルフィーユではなかったが、上手く機能している様だ。


 嗅覚センサーを搭載したことにより、味覚センサと合わせ、風味も認識出来る様になった。リア自身は、これで料理の質が大幅に向上する、と喜んでいたのだが、既に、十分上手い飯を作ってくれているので、俺が料理に対し望むものは、これ以上無いのだが・・・。

 もっとも、絶対味覚を備えた事により、どんな名店の味も再現可能となった訳だが、それには、リア自身が様々な食材を口にして解析し、食べた瞬間、材料を判別できるまでにデータを蓄積する必要がある、という意味では、今後の成長に期待したい。

 

 本人達は気付いていないが、この時点で、あらゆる食品メーカーや、香りを扱うメーカーが到達出来ていない、味と匂いに関わる完璧な測定と、それを解析・再現する能力を、リア一人で実現してしまったのである。アパレル業界に続き、続々と業界に技術革新を起こす事が可能な偉業を成し遂げているのだが、そんな事には興味が無い二人だからこそ、今日も世界は平和である。


 そして、リアによる五感の補完が完了し、いよいよ、2体目のロボット製作に取り掛かったのだった。


 今回のテーマは、ズバリ、孫である。それも、所謂お爺さんお婆さんから見た、愛玩的な孫に留まらず、介護・介助の知識も備えた、少年タイプのロボットを製作するのだ。

 テーマを定めれば、後は順次製作していくのみである。今回は、リアというチートロボが、製作補助を行ってくれるので、リアを製作した時よりも、スピード及び完成度が段違いだ。

 先ず、ボディを構成する骨格であるが、これは12歳程度の少年を想定し、身長150cm、体重45キロ程度とした。但し、介護や介助を行うとなれば、それなりに人を支えるパワーも必要になるので、リアと比較し、同等プラスアルファ程度の出力を可能とする人工筋肉を製作した。これは、一般的な成人男性の運動機能に相当する。

 顔は中性的で、髪型は黒のショートカット。人間で言えば、二次性徴一歩手前と言ったところか。小学生高学年から中学一年生程度の外観だ。


 次にソフト面だが、リアを製作した時とは異なり、今回の人工知能の試験官はリアである。俺も最終面接には参加したが、製作過程においては、殆ど端から眺めているだけでよかった。

 性格は素直で快活だが、少しだけ恥ずかしがり屋、そして何より、お爺ちゃんお婆ちゃんが大好き! そんな初々しさを目指した。初老を迎えた夫婦にとって、活力を得られるような、そんな存在になって欲しい。


 俺の面接対象の人工知能は3人だった。リア曰く、延べ10,000の人工知能に対し、1,000のテスト項目を設け、厳格な審査を行ったとの事。

 既にボディは完成していたので、それぞれボディと接続した状態で、面接及び自己アピールの場を設けた。


 「初めまして、拓海お兄ちゃん。ボクの名前は正太。宜しくね。」


 ティン(ピン)と来た! これだと思った。俺には姉が居たのだが、弟は居なかった。子供の頃は、常々兄弟でキャッチボールをしたり、男ならではの話題で盛り上がってみたいと思っていたのだ。

 選考基準とは全く関係の無い理由だったのだが、直感を信じる事にした。


 「リア。この子に決めたぞ!」


 「了解しました。マスター。」


 本当の意味での最終面接官は、オヤッさんとまさ子さんなのだが、そもそもオヤッさん達には、このプレゼントの事を何も伝えていない。趣旨を伝える所から始めるだが、ここはストレートに、リア及び正太がロボットであると明かした上で、一緒に生活を楽しんでほしいと伝える事にした。

 ただし、単にプレゼントというと、受け取って貰えない可能性があるので、ロボット製作過程における、社会通念学習の一環として! という理由を付け加える事にした。


 「ほぉ〜、この子がロボットだってぇのか? タツの奴が、嬢ちゃんがロボットだなんて言ってたが、まさか本当に嬢ちゃんまでロボットだったとはなぁ。」


 翌日、折り入って話があると言い、仕事が終わってから、オヤッさんの家にお邪魔した俺達は、オヤッさんとまさ子さん夫妻を前に、正太の説明を行っていた。


 「はい。おじ様。この子は、私が言うのも何ですが、素直でいい子だと思います。ロボットですから、もちろん食事代もかかりません。ですから、迷惑でなければ、是非お預かり頂きたいのですが・・・。」


 「お爺ちゃん、お婆ちゃん。ボク、ごはんの手伝いも、洗濯のお手伝いも、何でもできるよっ。将棋だって出来るんだから。」


 一瞬、オヤッさんを「お爺ちゃん」呼ばわりした時は肝を冷やしたが、オヤッさんの顔を見ると、あぁ、孫を見る祖父の顔ってこんなのだろうな。という位、締りのない顔をしていた。この時点で面接は合格ラインだってたのだが、


 「正太、こっちに来なさい。」


 と言われ、オヤッさんの方に移動した正太が、突然オヤッさんとまさ子さんにハグして、「宜しくね? お爺ちゃん! お婆ちゃん!」と言った時などは、流石にやり過ぎだ、とも思った。リアといい正太といい、人工知能はスキンシップが激し過ぎると思う。

 まぁ、これは俺がコミュ症であり、他人との距離感があり過ぎるせいで、そう思うのかもしれないが・・・。


 しかし、そんな心配をよそに、まさ子さんは


 「この年になって、いきなり孫が出来た気分ねぇ。アナタ。長生きはするもんですねぇ。」


 などと、ニコニコ顔で高評価だし、オヤッさんに至っては、


 「チッ、年寄りになると、涙腺が脆くなってしかたねぇぜ!」


 とか言いながら、目に薄らと涙を浮かべていたのは衝撃的だった。

 とにかく、無事、最終面接は合格となったようだ。


 その後、週に一度は点検の為預かる事。食事もとる事は可能だが、基本的には燃料は必要ない事等を伝え、オヤッさんの家を後にした。


 ともあれ、オヤッさん夫妻に無事受け入れられて一安心だ。副産物的に、リアも強化する事が出来たし、俺も個人的には、オヤッさんに返し切れない程の恩を感じており、その一部でも返す事ができたと思えた。


 こうして第二世代ロボットは、世間に騒がれるでもなく、世に羽ばたいた。これは、人工知能が自ら人工知能を生み出し、それを使用した自律的なロボットを製作したという点、及び製作者の元を離れ、環境に適応しながら、自律的に疑似的な家族を形成するという、二つの点において画期的な事なのだが、それが世に知られる事になるのは、まだ先の話であった。

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