表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

介護ロボ

 拓海の勤務先である、町工場社長の自宅にて。

 

 「いたたた・・・。」


 朝、庭先に洗濯物を干していたまさ子は、突然の激痛に座り込んでしまった。


 「貴方、アナタ!」


 妻の悲痛な呼びかけに駆け付けるオヤッさん。


 「どうした! 何があった!!」


 「いたたた・・・、腰が、腰が痛いの。アナタ。」


 どうやらまさ子は、ぎっくり腰に成ってしまった様だった。

 苦難はあったが、仕事一筋に打ち込む夫と、それを支えてきた妻。小さいながらも工場を所有し、最近では、ロケット用の部品まで受注している。振り返ってみても、胸を張って、真っ当な人生を歩んできたと主張できる。そんな夫婦ではあったが、そろって60代半ばに差し掛かり、初老を迎えている。

 不安なのは只一つ、子宝に恵まれなかった。と言う事だ。目前まで迫ってしまった老後生活。会社の存続問題。この大きな二つの課題を、認識はしていたのだが、自分たちはまだ若いと言い聞かせ、向き合う事を後回しにしていた。


 何とかまさ子を抱え、寝室まで運び込むオヤッさん。


 「ごめんなさいね、アナタ、手間をかけてしまって。でも大丈夫、少し休めば仕事場へも行けるわ。今日は、月末の経理の集計の日ですもの。」


 「そんな事はいいから、お前はここでゆっくりと休んで居なさい。」


 安静にしているようにと、妻に念押しをして、出社したオヤッさんであったが、事務処理はずっと任せきりだったために、自分一人では全く終わる見込みのない伝票の山を前に、流石に参っていた。

 「くそ、この計算書を完成させて、その後振込にも行かなきゃなんねーし・・・。」


----------------------------------------------------------


 珍しいな。今日は、まさ子さん来てないのか。月末なのに。

 普通であれば、月末月初は、まさ子さんが事務処理を行っているはずだが、今日は、何故かオヤッさんがそれを行っていた。


 「おい、拓海!」


 ん、オヤッさんに呼ばれたぞ? なにかミスでもしたかな? しかも今日のオヤッさんは、なんか鬼気迫るものあるし・・・。


 「はい。」


 「おめぇ、高校出てたよな。アイツがな、ぎっくりやっちまって、今日は会社に来れない。そこでだ、お前に経理処理を頼みたいんだが、できるか?」


 「えっ?! あっ、えっと、俺、高校って言っても中退ですから。しかも工業高校なんで、経理とかさっぱりです。」


 そんな俺の返答を聞いたオヤッさんは、まぁそうだよなぁ。的な表情で諦めかけていたのだが、


 「ちょ、ちょっと待って下さい。実は経理関係に伝手があるかもしれません。」


 「なんだと!? 今、連絡取れるか? 出来れば今日入って欲しいんだが。勿論給料は払うぞ。」


 「今聞いてみます。」


 俺はそう言うと、スマホを片手に、「リア、会社で問題が発生した。今から来れるか?」と、リアにメッセージを送った。

 すると、一瞬でメッセージが返ってきた「了解しました、マスター。10分後に到着予定です。」


 「オヤッさん。後10分でここに来るそうです。」


 「そうか、助かったぜ!」


 「すいませんオヤッさん。実はソイツ、社会経験が全然ないんで、仕事とか出来ないかも知れません。」


 「拓海、いいってこった。こんな急な話なのに、態々来てくれるってぇだけで有り難てぇじゃねぇか。」


 オヤッさんはこう言ってくれているが、問題はリアをどう紹介するかだな。親戚か、妹か? いや・・・顔も声も似ていないし。さて、どうしたものか。

 そうこうしている内にリアがやってきた。

 トントントン・・・、ガチャリ。鉄製の扉を開けリアが工場に入って来た。


 「初めまして、リアと申します。拓海さんの依頼で伺いました・・・。あ、タツオ様、お仕事お疲れ様です。」


 周囲を一瞥し、タツオさんに反応するリア。


 「あぁ、リアちゃんかっ! お疲れさん。」


 何々? タツオさんってリアの事知ってたのか!? そんな事聞いて無いぞ。っていうか普通に溶け込んでるな!しかも、TPOに応じて俺の事もマスターでは無く、名前で呼称している。

 まったく、器用な人工知能である。


 「オヤッさん、コイツがさっき言ってた助っ人です。」


 「初めまして。社長様で御座いますね? リアと申します。」


 「お、おぅ、態々すまねぇな。突然呼び付けちまって。ちっとばかし、経理の作業を頼みたいんだが、やってくれるか? それから、社長様ってぇのは、どうにも性に合わねぇ。周りからはオヤッさんなんて呼ばれてるんだ。」


 「畏まりました。それでは、以降は”おじ様”とお呼びさせて頂きます。」(にこっ


 おじ様って、なんか違うだろ、それ。いや、でも当のオヤッさんはまんざらでも無い顔してるし、まぁいいか。

 オヤッさんから、簡単な仕事の説明を受けたリアは、凄いスピードで作業を始めている。


 「おい、拓海。」


 オヤッさんが、小声で耳打ちをしてきた。


 「あの嬢ちゃん、大丈夫なんだろうな。疑ってる訳じゃないんだが、そろばんも電卓も使わねーで、書類作り始めたぞ?」


 「あ~、リアは計算が大得意ですから。大丈夫です。心配なら、後でいくつか検算してみて下さい。」


 実際、リアは人工知能なので、態々計算機の類を使用する必要はない。現在のリアは、傍目には暗算で伝票を集計し、請求書を始めとした、経理関係の書類を作成しているだけなのだが、実際には、オヤッさんや、まさ子さん等が記載した手書きの伝票や、プリンターから打ち出された書類まで織り交ぜられた情報を、光学的に文字として認識し、演算を行っているのである。特にオヤッさんの字は凄い癖字だ。良く間違えなく読めるな。

 関心していると、タツオさんが、近づいてきた。


 「オヤッさん、リアちゃんみたいな別嬪さんが居ると、職場が華やかになっていいですね!」


 「なんだ、おめぇも嬢ちゃんの事しってんのか?」


 「知ってるも何も、拓海んトコで同棲してる子すよ? 自分はロボットだー、なんて素っ頓狂な事言ってますけどね。あそこまでの器量良しは、中々居ないですよ。性格もいいし。礼儀正しいし。まったく、拓海はどこで、こんないい子を捕まえてきたんだか。」


 等と言い、小指を立てながら、にやけ顔で肘鉄をしてくるタツオさん。・・・痛いですよ。でも本当にロボットなんだけどね。


 「皆様、お茶でも如何ですか?」


 今度は、リアがみんなにお茶を振る舞いだした。ほんと馴染み過ぎだろ。ゲンロクさんなんて、既に飲み始めてるし。


 「折角の好意だが嬢ちゃん。頼んだ事は終わったんか?」


 オヤッさんが鋭い指摘をして来た。そりゃそうだ。別にオヤッさんは、お茶汲みを雇った訳では無い。


 「はい、おじ様。この通り。全て完了しております。 この後振込に行かれるのであれば、この請求書をお持ち下さい。」


 そうってリアが説明した机には、丁寧な文字で記された、請求書や伝票類や集計資料が、綺麗に纏まっていた。その内のいくつかについて、電卓で検算を始めるオヤッさん。


 「すげぇな。全部あってやがる。嬢ちゃん、助かったぜ!」


 そう言ってオヤッさんは、銀行へと出かけて行った。

 オヤッさんが外出中の間、リアが入れてくれたお茶で、休憩を取る事にした。その際、まさ子さんがぎっくり腰に成った事や、タツオさんは、リアが起動してから、直ぐに面識を持っていた事などの雑談をした。

 その後、夕方まで工場の清掃等を手伝ったリアだったが・・・。


 「マスター。おじ様の家に行って、まさ子様に急性腰痛症、所謂ぎっくり腰の治療をして差し上げたいのですが、宜しいですか? 検索した所、ぎっくり腰は初期治療が重要との事です。」


 こんな事を言ってくる。お人好しなロボットもいたものだ。もっとも、自発的という意味では、そこがリアらしいと言えばリアらしいのだが・・・。

 オヤッさんに確認した所、是非に、という話になったので、仕事が終わってからそのままオヤッさんの自宅に向かう事にした。

 途中オヤッさんとは一旦別れて、スーパーに向かった。まさ子さんがぎっくりでは夕食の支度に困るだろうからと、リアが夕食の材料を買うためだ。資金は本日のアルバイト? 代金である。何処までもお人好しなロボットだ。


 「マスター、これは、マスターが日頃お世話になっている方への、恩返しの一環でもあるのです。私だって、誰彼構わずこんな事をする訳ではありませんので。また、私自身、おじ様の工場が無ければ、誕生しなかった可能性が非常に高いのです。ですから、只の”お人好しなロボット”的な目で、私を見るのはやめて下さい。」


 相変わらず、人の思考を読むのが得意なんですね。リアさんは。


 その後、リアから整体を受けたまさ子さんは、立って動けるまでに回復した。リア曰く、ぎっくり腰に成った時は、安静にしてはダメなんだそうだ。

 結局、夕食もご馳走になり、と言っても、作ったのはリアなのだが、長居をしてしまった。まさ子さんは終始「まるで娘が出来た様だ。」とご機嫌であった。オヤッさんも、酒の進みが早かった所を見ると、機嫌は良かったはずだ。時計が9時に差し掛かった時点で、明日も仕事なので、と言ってオヤッさん宅を後にしたのだった。


 そんな帰り道。


 「マスター。お願いがあります。おじ様とおば様の家に、生活補助用のロボットをプレゼントしたいのですが、宜しいですか?」 


 リアの事だ。自分が誕生する切っ掛けとなった工場を、今まで経営して来た、オヤッさんとまさ子さんに対し、役に立ちたいと思ったんだろう。二人の年齢を考えると、介護ロボ的な物になるだろう。結局、お人好しなんだよな。リアは。

 それにしても、相変わらずの上目使いだ。可愛いな、もう!


 俺の返事は決まっている。


 「よし、そうするか!」


 こうして、2体目のロボットと、第2世代とも言える、新たな人工知能の製作が決定したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ