第3話-蝶の羽ばたきのお知らせ
「で、なんで菖蒲が、俺について来てんだよ」
俺は不機嫌そうに菖蒲に小声で質問する。
「だって、帰り道がたまたまいっしょだったんだもん」
俺だって馬鹿じゃない。帰り道がたまたま一緒ってのは分かった。
「そこを聞いてるんじゃない!なんで店まで入ってきてんだよ!」
そう。俺はいつも、日課のように、帰り道に本屋に寄っている。
そこに菖蒲はついて来た。
とてつもなく邪魔だ。
「だって、一人で帰るのは、寂しいんだもん」
「お前、今までどうやって帰ってたんだ...」
俺は頭を抱えた。
「帰り道が同じ人に付いて行ってたよ?あと、お前って言わないで!ちゃんと名前で呼ぶって約束したでしょ!」
こいつは誰かについて行くのが当たり前だと思ってる。
多分だが、友達はいたことが無いだろう。
可愛そうだ...。
「はいはい。ごめんね。次からはちゃんと名前で呼ぶよ」
もう明日になったら話す機会は無いだろうから、適当に返事しておく。
「なら、よろしい!」
名前で呼ぶと言ったら満足した。ちょろい。ちょろすぎる。
「で、アイビくんは何の本を買いに来たの?」
「適当に新作のラノベを数冊買おうと思っ........今日は疲れたからもう帰る」
話している途中に俺は、菖蒲のペースに飲まれている事に気付き、すぐに方向転換する。
「え?買わないの?」
「ああ」
急に態度を変えた事に対して不安に思ったのか、少し寂しくなったのかは分からないが、少し菖蒲の話すテンポが速くなった。
「まあ、菖蒲も気をつけて帰れよ」
「え?送ってってくれないの?」
どこまでも図々しい奴だ。
「送って行くわけねえだろ」
俺は少し強めに言った。
それで諦めてくれるならいいけど。
「お願い。送って行って!」
菖蒲は上目遣いで俺に送って行けと要求する。
よく考えてみたら、ここで送って行かず、もし、菖蒲が事故にでも巻き込まれたら大変だ。
めんどくさいけど送っていくしかない。
可愛いから送っていく訳じゃない。断固としてそこは否定する。
何かが起きてからでは遅いのだ。
「めんどくせ〜。今回だけだぞ」
「ありがと!」
その笑顔を見て安心す...る事はない!
決して違う。その笑顔が見たい訳じゃない。
俺よ!
しっかりしろ!
本屋に入って5分もしない内に店を出る事なんて今までなかった。
俺のライフスタイルは保芦 菖蒲と言う人物に、少しづつ変えられているのだ。
気づかないような小さな歯車が回る事で、この先の大きな事が変わってくる。
バタフライ効果と言うやつだ。
この時の俺はこの、保芦 菖蒲という人物との出会いの重要さに気づいていなかった。