招待
※注意 ジャンルは“SF”です
“SF:宇宙”には該当しません。
宇宙的じゃない、不思議な、ともすればその辺に落ちてそうな、そういうSFをもっと読みたい。そう思って書きました。ショートショートです。
「私の家系にはある重大な欠点がある」稀に羨ましがる人もいたが、殆どは気味悪がったり、効きもしない聖水を持ち歩いたり、ときにそれを瓶ごと投げつけたりした。聖水って、教会から買うのだろうか。私達は、あまり外へ出なかった。時々買い物をしに行くくらい。父も母も、もちろん私も、仕事なんてしていない。なんせ食べなくても良いのだ。
「私達の家系には不老不死の呪いがかかっている」その事実を母から教えられたのは、私が6歳のときだった。「ある程度成長したら、そこで時が止まる」のだそうだ。事実、母は年齢よりもずっと若かったし、綺麗だった。
それでも「他の友達のお母さんよりちょっと若い」くらいだったから、呪いなんて全然、信じちゃいなかったし忘れていた。高校に通うようになってからだ。呪いの存在を思い出し、日々意識するようになったのは。明らかに、母と同年代の女性との間には差があった。シミはない。シワもない。もちもちとした肌でいつまでも触っていたくなる。なにより、私が産まれたときの写真、母に私が抱かれている写真。それに写る母と、今目の前にいる母とを見比べても、ちっとも変わりがなかった。どちらも力なく、幸せそうな笑みを帯びている。
「けれども私の祖父は死んだ」原因ははっきりしていない。ただ珍しく、死ぬ前の晩に祖母と2人で庭から月を見ていた。祖父は父とそっくりのハンサムだった。コーヒーを愛し、いつも煙草を吸いながらビリヤードに興じていた。いつも、家で一人だった。「この年齢では、ちょっと散歩するだけでも“最高齢〇〇”を総なめにしてしまう」もっともだった。既に120を越えた彼は、外へと繋がる扉に手をかけることはない。死んだ後でさえ、自らの手でドアノブを回すはずもなく、父と母に両腕両足を抱えられながら、何年かぶりに外へ出た。運ばれる彼は、嫌そうに、気怠そうに見えた。
「私達は死なないはずだ」母は力強く、ピシャリと言い放った。多分、怖かったんだと思う。世間がどうなろうと、自分達だけは、水を飲まなくても、食事を摂らなくても、お風呂に入らなくても、庭の手入れをしなくても、音楽を嗜まなくても、誰かを愛さなくても、生きて、生き続ける。そう思っていたのに、祖父が死んだ。もう遅い。なにもかも、もう遅かったのだ。気付くのに、1人死んだし、1人死んだから、ようやく気付いた。鏡を見れば、写真を見れば。1つも変わらぬ私と私を見比べる。こんなもの、すぐに気付けるはずもない。
「私の家系は外に出ない」汚れない壁、床。動き続ける時計、電子機器。腐食しない鏡。消えない電球。生い茂る、草。「ある程度成長したら、そこで時が止まる」
「お客さん」
突然呼ばれ、我に返った。
「あなたも、うちでゆっくりしていかない?」