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第1話プロローグ ー温泉街のパン屋さんの憂鬱ー

第1話プロローグ ー温泉街のパン屋さんの憂鬱ー


今日も沢山売れ残るのかなあ、、、、


 そんな気持ちを打ち消すように【YANAGIHARAベーカリー】と描かれた古びたシャッターを勢いよく開けた。

昭和は沢山の団体で賑わった温泉街。駅の近くにある商店街も、平成になった今では三軒のシャッターが降りたままだ。


『観光地』としてはまだなんとか生きている。全盛期とくらべれば、かなり少なくなっているとは思うが、ちゃんと観光客も来ている。


車社会になって半分ぐらいの人は車で来ているが、それでもまだ電車でこの地を訪れる人はいるし、商売がダメになってサラリーマンになった人達も何人かは駅を使っている。


駅から近いこの商店街は、まだ、少ないとはいえちゃんと人通りがある。


それでも『商店街』としては、このままなにもしなければ着実に終わりに近づいていくと感じていた。


「人の心配より自分の心配か、、」


自分の状況もかえりみず、商店街の心配をしている自分を思い、笑いながら呟いた。


商店街はある種家族みたいなものである。もちろんみんなが一国一城の主、お山の大将の集まりなので、中々まとまらない話しも沢山ある。


しかし、商店街も世代交代が進み、子供の頃からこの商店街で育った者達同士、弟分みたいなものもいる。イベント等結束してやってきた事も沢山ある。


やはり、自分のことも気になるが、商店街が人で溢れかえったあの景色を取り戻したいという部分もいつだって心の片隅にある。


だからこそ店を開けている。正直開けていてもお客さんが入ってこない日なんてザラだ。


いっそこのまま店を閉めて、、、と思ったことも一度や二度ではない。


けれど、自分が閉めたら、、、この商店街は、この街はどうなる、、、


人通りが少ない朝の商店街に目をやる。まだほとんどのお店が開いていない。

その姿はまるでシャッター街を想像させた。


――――やめられない。仲間の為にも、、


気持ちを奮い立たせ、いつもの様に店の前の掃除を終え、三軒隣の惣菜屋の武生と二三くだらない話しをしていると一人の男が入ってきた。


――――いらっしゃいませ。反射的に声をかけた。


男はぺこりと頭を下げ、パンの並んだ棚を物色していた。


見慣れない顔だ。多分この街の者ではない。小さな街なので、なんとなくこの街の人間かどうかはわかる。


細めのメガネ、メガネの奥のやさしい目が印象的だ。ラフな服装だが着ている洋服がどことなく都会のセンスを感じさせる。


男は店の中をぐるりと一周すると、そのうち、端から一つづつ全てのパンを載せはじめた。


菓子パンだけでも20種類以上にのぼる、さらに食パンも、フランスパンも、、、、


みるみるうちにお盆はパンの山になった。


「あの、もう一つどうぞ」


あわててお盆をもう一つ差し出した。


「ありがとうございます。」


男のメガネの奥で目が弓形に形を変えた。

山になった部分から順に、もう一つのお盆に載せ替え、さらに買い物を続ける。


「よろしければこちらお預かりします。」


と、一杯になっている一つのお盆を預かった。


そして男はさらにもう一つのお盆を一郎に預け、残りの種類を三皿目のお盆にのせ、レジにやってきた。


「ありがとうございました。」

レジをすませ、両手一杯にパンをかかえ店を出て行く男を見送った。


あんなに一杯、しかも1種類づつ、、一体何に使うのだろう、、、


男が見えなくなった頃、思わず、


「変わったお客様だな」


と呟いた。

それで終わったはずだった。

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