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絵手紙

作者: 山野雪

絵手紙をもらった。

葉書いっぱいに干柿が描いてあり一言のメッセージが添えてある。

嬉しかった。

葉書が届いたことを知らせるために携帯を手にする。


いや、違うな。だめだ、だめだ。

葉書の返事は葉書だ。

電波に乗って届く活字では味気ない。


葉書を探すと今の葉書代より2円少ない葉書が出てきた。

いつから手紙を書いていなかっただろう。


葉書を前にしばし悩む。

葉書ありがとう、の後が浮かばない。

近況を報告したところでどうかな、お身体をお大事にってのも杓子定規だし。


よし、絵手紙を書こう。

決心したものの絵の具もなければ筆も無い。

近くの100円ショップへ行って絵の具を探すと筆と絵の具が全て一つのパレットに収まっているものがあった。

一枚の葉書を描くくらいならこれで十分だ。


うちにある林檎をモデルに軽くデッサンする。

高校の美術の時間以来絵を描いたことがない割には林檎に見える。

まあ、林檎だからね。

いいぞお。この調子だ。


問題は色を塗る時に起こった。

赤い絵の具で林檎の表面をすっとなぞると真っ赤な色が、べちゃああああ、とどぎつく付いた。

しまった、別の紙で試し塗りをすれば良かった。

もう少し水で薄めて林檎っぽい色にして全体に塗り直す。

しかし、時すでに遅し。

血塗られた林檎の出来上がりだ。

これは困った、と何とか修復を試みるが事態は悪化するばかり。

頑張れば頑張るほど血塗られた林檎は傷んでくる。

もうダメだ。

これ以上見ていられない。さっさと出してしまおう。

仕方なくメッセージを書き渋々ポストに押し込んだ。


ふう。これで良し。

もらった干柿の絵手紙をまじまじと見ながら考える。

上手だなあ。この絵の下に描いてある自分の名前のマークも良い。

これがあるだけですごく引き立つ。


そうか、ポイントはこれに違いない。

ネットで調べると消しゴムで絵手紙用の自分の印を作ると良い、とある。

これでかなり全体が引き締まるらしい。


よし、削る文字は『ゆ』だ。

消しゴムとカッターを用意し下書きをする。下書きは油性ペンで書くだけだから簡単。

『ゆ』の中の溝には少々戸惑ったものの、あっという間に削れた。

何だあ、簡単じゃないの。

朱肉をつけて押してみる。


なんと!!!

・・・逆さだ。


もう一度やり直し。

今押した逆さの印を参考に字を書く。

今度は成功だ。


こうして印も出来たが葉書はポストの中に行ってしまった。

早く葉書、届かないかな。

そして返事を書いてくれないかな。

そしたらこの印を押して葉書を描くのになあ。


もらった葉書のお陰で良い時間を過ごした。

たまにはデジタルと離れてみるのも良いものだ。



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