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『不老不死』始めました  作者: だるま座
第一章 魔勇の絆
8/9

#8 怪盗?ロロカンデ

 童女&研究者は炎天下の砂漠を超えアレクサンドルクに到着した。二人を出迎えたのは天高く(そび)え立つ大門。金のメッキで装飾された豪快な見栄え、所々には大蛇の彫刻が彫られており、門の正面、開閉可能な扉には異世界言語で『ようこそアレクサンドルクへ』と書いてある。


 長旅で身体中が倦怠感に包まれているロロカンデは門の外観には目もくれず門を通り抜けようする。

 対してエスカはそこまで喉が渇いているわけでも無く門に関心を示している様子だった。


「しかし、大層立派な門構えじゃないですか。私のダンジョンにも是非取り入れたいですね。」


「嫌だよ。こんなに目立ったら厄介ごとに巻き込まれるの目に見えるだろう。そんなことより、水だよ水。」


 余りに素っ気ないマスターの返事にぷーと頬を膨らませるエスカ。


「もうマスターも少しは私のことも考えて下さいよ。ダンジョンの繁栄と拡大はダンジョンコアにとっての生き甲斐なんですから。」



 門で待機中の役人の元で手続きを済ませ街の中に入る。

 門を抜けると其処には多くの住民で賑わう大通り、活気溢れる商人と住人の駆け引きの声が聞こえてくる。朝市の様な喧騒に獣人やドワーフといった様々な種族が入り乱れる不思議な空間がそこにはあった。


 その中の近くにあった店で買った水を飲みながら散歩と情報集めを兼ねて周辺を散策する。


 ロロカンデは何かに気づいたらしい。


「街の所どころに銅像が建っているけど全部同じ様な格好をしているね。鎧を着た戦士かな。この人が例の勇者なのか?」


 ポーズは銅像によって異なるが、どれも筋肉隆々の肉体に魔を打ち砕く黄金の鎧を身に纏っていた。


 そして、以外にもロロカンデの問いに答えたのはエスカでは無く通りかかった近くの商人のおじさんだった。


「お、よく気がついたね。あんたら他所の者だろう。そうさ、この方はこの街の英雄、先代の勇者様だよ。魔族に滅ぼされかけたこの街を救ってくれたのさ。」


 どうやらこの街の人間は心優しくとても気前が良いらしい。質問した事には丁寧に答えてくれた。


 魔族の支配を受けていた頃は多くの厄災がこの街を襲ったこと。

 英雄は最凶の魔王を手に持つ破邪の聖剣で倒し、この街の再興に貢献したこと。

 そこで建てられたのが勝利の象徴としての【魔勇の時計塔】だということ。

 その時魔族から得た財宝をその時計塔に隠したという噂が有り、それを狙ったトレジャーハンターが何人も犠牲になっていること。

 時計塔内部の見取り図は街の長(村長)が所持していること。その為、村長の屋敷の警護には国の筆頭魔術師があたっていること。


 最後に御礼として商人の店で幾つか買い物をしてそこを後にした。


 店を出て、行く当ては(おの)ずとただ一つに決まった。村長の屋敷にある時計塔の地図を頂戴しに行く。勿論、騒ぎを起こさない為にも用が済んだら元に戻すし、悪用だの転売だのするつもりは無い。問題はどうバレずに侵入するかだ。


 先ほどの商人に貰ったこの街の地図を頼りに村長の屋敷を下見がてら見物に行く。

 ロロカンデが歩いているメインストリートを超えると住宅街に入る。何処からともなく生活感の溢れる音が聞こえ、先の商店街とはまた違った華やかさがあった。

 そして、その中心。植林で左右シンメトリーに整えられ、池では無くもはや湖と言っていいほどの巨大な敷地を完備する庭。そして一際目立つ摩天楼の如く聳え立った、大蛇が巻きついた様にデザインされた建物。間違いなくこれこそが村長の屋敷だった。


 警備は厳重。休む暇もなく警備員が見回りをしている。死角らしい死角が無い。監視の目を掻い潜って、隙をついて忍び込む、というのは難しそうだ。


 そこで不可視マントの役目だ。被せたものを透明に変える。今ロロカンデとエスカの姿は誰にも見えず、警備員の間を縫う様に抜けて行く。


 広大な庭をバレる事なく通過した。そして屋敷に直接手が届く位置で新しいアイテム『透過の(つるぎ)』を使う。

 このアイテム、見た目は鉄製の剣と変わらないが、実はこれ、筆なのである。どう言うことかと言うと、剣の柄の部分にあるボタンを押すとマジシャンがよく使用する『花の出てくるステッキ』と同じ要領で剣の切っ先に筆の毛が現れる。そしてその筆で塗りたくったところをすり抜ける事が出来るのだ。


「ではさっさと通らせて貰いましょうマスター。正門の分厚い壁もこのアイテムの前では無力です。」


 しかし、すり抜けるといったって態態(わざわざ)屋敷の正門がある玄関から忍びこむ馬鹿は何処にもいない。敵と正面からぶつかる様なものだ。捕まる危険性だって考慮しなければいけない。


 ロロカンデはエスカに悟す様に人指し指を上空に向けた。そしてロロカンデが提案したのは上階からの進入。普通空中から屋敷に入り込む事など浮遊を使える魔法使いに限る。そして、本人を隠す障害物が全くない空中での工作は大変目立ってしまう。それ故警備の連中は油断でそこを見落としている可能性が高い。つまり、空中からの侵入は警護班の兵士の盲点になっており、警備も手薄で甘くなっているとふんだ訳だ。


 新アイテム『飛翔の腕輪』。文字通り、浮ける。重力による影響を受けなくなる。これで上手く上階から侵入出来た。

 後はその【魔勇の時計塔】の地図が何処にあるか。これもまた容易く見つかる。


「エスカ。魔法による監視や罠が最も多い所はどこだい?」


「三十二階の一室に高魔力濃度が検出できます。恐らくそこかと。」


 エスカは何故わざわざ敵の万策に突っ込もうとするのかと疑問そうな顏をしていたが、流石のロロカンデも侵入者排除のプログラムを自ら進んで受ける程にそこまでMでは無い。

 其処には確とした理由が有る。


「じゃあ君は、誰にも見られたくない、又は誰かから隠したいと思う物を何の警護を付けずにそこら辺に放置していられるかい?」


 エスカもその意味の気づき「はっ!」と声を上げる。


 複雑だ。手に入れたい物を強固に隠そうとすればするほど、その在りかを人に教えてしまう結果になるのだから。



 三十二階その一室の前に二人は到着した。屋敷に侵入してからここまで人間を誰一人見ていない。人間の警備から魔法、もしくはマジックアイテムの類に切り替わっている。これは本当に第三者つまり、人間には見せたくないのだろう。だから、自動(オート)の魔法を頼っている。


 部屋に繋がるこの扉を開ければ魔法の類が飛び出して来るのは明白だ。何が来ても良いよう既に『不可視マント』と『剛力の指輪』を装着している。


「そろそろ突入するよ。準備OK?エスカ?」


「はい。私は大丈夫です。」


 その声と共に扉を透過した。顔から壁をすり抜け部屋を覗く。薄暗い廊下とは違い、目を見開けば炎による垢紅色の光が差し込み、地獄の王、閻魔のいる検閲所を想起させる。光は二人を部屋の中へ(いざな)った。


 ロロカンデはその正面に佇む巨大な物体が目に入り――――戦慄する。


 其処には五十メートルは悠に超えるであろう巨人の金剛像が三体、挑戦者を待ち受ける様に座して尚、此方を見下ろしていた。

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