#3 不死鳥の加護
『加護』か。聞いたことは有る。RPGや小説に登場する、神から授かる特別な力の事だろう。
剣聖の加護やら太陽の加護やらそういう類の力で敵をバッサバッサ倒してゆく謎の勇者の像が目に浮かぶ。
童女曰くその加護が俺にも有るとそういう意味だと捉えていいのだろう。
だとすれば、『不死鳥の加護』とはどんな性質を持った加護なのであろうか、そこが気になる。
「その『不死鳥の加護』について詳しく頼むよ。」
童女は一回転してから今度は天井に指先と額をズビシッと向けて話し出した。
「不死鳥の加護とは、天井天下唯我独尊、孤高で崇高で高貴な選ばれたものにしか許されない貴重な加護!!マスターだからこそ使いこなせる人類に与えられた神々の国の秘宝なのです。」
つまりはとても貴重な加護で有るとそういうことなのだろう。俺がその力を手に入れた経緯は俺には分からないが取り敢えずはその能力だろうか。
「加護は生まれた瞬間に人間に宿る未知なる力のことで、魔法とは違い魔力を必要とせず発動が可能なんです。
マスターの『不死鳥の加護』はその中でも特に異質。未知のさらに先を行くぶっ飛びの能力を有しています。
聞いて驚けぇ〜その能力はあぁぁーー⤴︎⤴︎」
彼女の言い方は兎も角、俺も緊張で唾液の分泌が少なくなっているのが分かる。それ程にこの加護というものが俺のここでの生き方に大きく関わって行く要素になり得るからであろう。
「①自分自身の不老不死化、②契約者への不老不死の譲渡、の二つです!!!!」
……発する言葉が見当たらない――正気か?彼女は。
確かにこの世界ならもしかしたらとは思っていた。だが、流石に不死身の肉体をこうも易々と手に入れてしまっても良いものなのか。もしかすると俺がしてきた研究への努力の数々がこういう形で報われたのかもしれない。
いや、そんな事はどうでもいい。俺の不老不死を実現する夢は叶ったわけだ。不死身が自分の目に前にある。それだけで良いじゃないか。今にでも歓喜と興奮で発狂死しそうだ。
いやいや、こんなの彼女が言っているだけじゃないか。何を間に受けているんだ俺は。証拠だ、証拠。立証を通してこそそれは現実になる。
「どうしたんです? そんな血走った目をギンギンに見開いて。折角の美形が台無しですよ。」
「ごめんよ。自覚はしていたが、もしかすると俺にはマッドサイエンティストの気質があるのかもしれないと思ってね――」
童女はハテナマークを顔に浮かべる。
スーッと息を吸い込み、湿り気の含んだ声で身震いを最大限抑えながら
「――能力見せて貰える?」
緊張で声が震えていた。不老不死の根幹を知る事になるのだから。それも当然だ。
だが、童女はこちらの緊迫感をよそに陽気に返事をした。
「かしこまりました!マスター。では、そこを動かないで下さいね――えいっ!!」
バヒュンッ!!
「ほえ?」
耳横を何かが物凄い速さで通過した音が聞こえた。その直後俺の背後にあった遺跡もといダンジョンの壁がガラリと崩れる。
冷や汗が垂れた。
「き、君は何をしているんだい。能力を見せてくれとは言ったが何故にナイフを、それも両手を覆い尽くすほど持っているんだい。まさか……俺にそれ投げちゃう感じ?」
冷や汗を垂らしながら、それでも笑顔で質問してみる。
それ以上の笑顔で彼女はこう答えた。
「イエス マイマスター!!!」
***
立証の時間は終わった。結果怪我は無かった。いや、ナイフが身体に刺さった瞬間に、青い光が出てその穴を塞いでしまうので今は無傷ということだ。
「ねえ、これでお分かり頂けたでしょう。マスターは不死身なんですよ。不老不死。これからはどんなに強力な武器を持った戦士が喧嘩を売って来ようが、腕の一振りで大陸を砕く最強の魔獣が襲って来ようが全く怖くありませんよ。」
そんなシチュレーションは無いことを祈るよ。それに痛覚はそのままだったんだ。だから物凄く痛かった。ナイフが刺さるたびに痛みで悶え死にそうだった。
あと、俺が能力を見せてと言ったのは、俺と契約して不死身になった彼女を見たかったからであってこの場で俺を攻撃してくれという意味では無かったんだ。
「君さ、ナイフを投げる時に一発目、わざと外しただろ。それも俺の恐怖心を煽る為に。思わず変な声が出ちゃったじゃないか。」
「やだなぁ。そんな事、あるわけ無いじゃないですか。誤解ですよ誤解。私はマスターの命令を受け行動したまでです。最初外したのは、うーん……ちょっとしたミスですよ、ミ、ス。まあ、ちょっとおませさんなマスターの少し怖がる所を見たっかったっていうのは事実ですが。」
細目で疑う俺に素知らぬ顔で口笛を吹く彼女を見て確信した。こいつは確信犯。これで俺を騙しきれていると思っているのなら大間違いだ。
断言しよう。この童女、間違いなく――Sだ!!
「もうその話はいいや。ところで先、S美が話していた、俺から充分な生命力を吸い取っているって話をまだ聞いてないんだけど。」
「そうでしたそうでした……って、S美って何ですか。S美って。私はダンジョンコア第101号です。そんなヒステリーに走りそうな名前ではありませんよ。私がさっきナイフでマスターの心をズタボロにした事はまあ仕方ないので謝ります。ご、め、ん、な、さ、い。ほらこれで良いでしょう。
だからその呼び方はやめて下さい。」
やっぱり、気がついていたんじゃないか。そして、なんか最初よりも俺に対する扱いが雑になってやしないか?このままいくと俺、三日後には犬並みの扱いになるんじゃ。
「で、生命力の話に戻りますけど、私はマスターとの契約で、マスターから不老不死の力と生命力をいただく代わりに私が忠義を持ってマスターに奉仕をすることになっています。
今のマスターは不老不死。つまりはマスターの生命力は常にマックスってことですよ。無限大ってことですよ。∞ってことですよ。その力を私は貰っているので、他の人間をこのダンジョンに誘き寄せて生命力を奪う必要が無くなったわけです。
お互いうぃんうぃんの関係ってヤツですよ。うぃんうぃん。良い響きですねえ。うぃんうぃん。」
S美がうぃんうぃん五月蝿いことはさて置き、これで俺の疑問は一応解決したかな。あとは、この世界のことを聞いてみるとしよう。
「今なんか失礼なこと考えてませんでした?マスター。」
「気のせいじゃないかな(S美)。」