序章-始まりの日-
「なんで、こんなことに・・・」
俺、江西駆は、半壊した自宅の前で呆然としていた。
「Zzz・・・」
傍には無邪気な寝顔で眠っている女の子。この子との出会いがこんな事になるなんて少し前の俺は想像もしていなかった。
あれは夏休み初日の朝。
両親は 夫婦で世界を旅して来る。夏休みは自分で頑張ってw なんていう両親のふざけた置き紙を見つけたことから始まる。
俺自身、両親のいない夏休みってなんて素晴らしいんだ なんて思いながら街へ出かけ、新作ゲームを購入して、この夏休みはゲーム三昧だ。と意気揚々と帰宅する道中、その娘と出会った。いや、出会ったというのは少し誤解がある。公園で遊んでいる子供達の中に混じって一緒にボール遊びをしている女の子がいて、その笑顔に見とれてしまったのだ。
少ししてから新作ゲームをやりたくなっていたことを思い出し、帰路に戻ったところでその娘が声を掛けてきた。
あなた、江西駆?」
「えっ? なんで俺の名前を。」
「やっぱり。私はリア。リア・クローブ、よろしくね。」
突然、俺の名前を口にする女の子に戸惑っているとリアは、
「とりあえず、歩こうか。」
と、俺の前を歩き出した。
訳の分からないまま後をついて行くと、気がつくと俺の家の前に着いて、リアは当たり前のように家の中に入っていった。
「ちょ、ちょっと待って。なんで君は俺の名前を知っているの?家の場所も。てか、なんで当たり前みたいに普通に上がっちゃってるの?そもそも君はだれ?」
頭に浮かんだ疑問を早口で聞くと、
「リア・クローブって名乗ったでしょ。あなたは不思議な力を持ってるでしょ?だから前々から監視していたのよ?」
「か、監視?しかも能力のことも知ってるの?」
「うん。私は能力の悪用を防ぐのと能力者の保護を目的とする 能力保護機関 通称APOから派遣された者よ。APOって言うのは、Ability Protection Organ の略よ。」
この子の言う通り、俺には子供の頃から不思議な能力があった。なにもアニメのヒーローのようなカッコイイものではない。普通の人には見えないものが見えるだけのものだ。子供の頃はその力で見えてるのか、普通の人なのか判断出来ず話しかけていたため周りからは気味悪がられた。
成長するとそのことが嫌になり部屋にこもってゲームばかりやるようになった。
「あなたは知らないだろうけど、世の中には様々な能力を持った人たちがいる。私もその1人。その能力者たちが悪事をしたりしないかを監査したり、悪事を働いた能力者を捕まえたりするのが私たちAPO。」
「幾つか質問していい?」
リアは無言で頷いた。
「いつから監視していたの?」
「1週間前から」
「どうやって?」
「それは秘密」
「どうして僕が能力を持ってるってわかったの?」
「・・・。それも秘密」
考えたってことはなにかあるのか?
その後も幾つか質問をして、リアは簡素に答えた。
「それじゃ、最後の質問。なぜ、僕に接触してきたの?」
そう。これが1番の謎だ。別に悪さをしてるわけでもない。ただ監視するだけなら接触して正体を明かすことにメリットはあまりない。
むしろ、デメリットの方が多い。
その質問をするとリアの表情が変わった。
「あなたが狙われてるから。」
はっ?俺が狙われてる?なんで?だれに?
疑問ばかりが頭の中で浮かぶ。
「最近起きてる殺傷事件を知ってる?」
「うん。自宅や街中で突然斬りつけられるってあれ?」
「そう。ニュースにはなってないけどあれは能力者の仕業よ。そして、君もターゲットにされてる。近いうちに君は切断者に襲撃されると思うよ」
「なんで、俺がその切断者さんに狙われるの!」
「切断者さん。なんて可愛らしく強調するね(笑)」
「(笑)じゃないよ!他人事だからって、ネットの書き込みみたいな表現使って誤魔化さないでよ。ニュースで現場の映像見たけど、あんなことする奴に襲われたら無事じゃ済まないでしょ!」
「そう。襲われたら無事じゃ済まない。だから私が君を守る為に会いに来た。」
あ、これで疑問が解けた。つまり、リアは俺が狙われてるから忠告のために接触したのだ。
そこまで考えて別の疑問が浮かんだ。
「なんで俺が狙われる?」
たった一言。疑問に思ったことを呟くと、
「君が見たから。」
えっ?
「君が切断者の犯行を見たからよ。」
あ、そういえば4日ほど前に夜食を買いにコンビニに行った帰りに変な男とすれ違ったのを思い出した。
あれは、4日ほど前の夜。
その日俺は久しぶりに朝から学校に通い、疲れていたのでゲームを夜通しでやろうとしていたが夜食がきらしているのを思い出し仕方なく自宅から300mほどの距離にあるコンビニでジュースと食べ物を買って、帰ろうと店を出た時夜とはいえ夏の蒸し暑い中、パーカーを着てフードまでかぶった男とぶつかりそうになった。
その時は何も気に留めなかったが翌日、その側で殺傷事件があったと知った時は驚いた。
「そうか。あの時、すれ違ったやつが犯人。切断者なんだ。で、犯行直後の逃走中に俺とぶつかりかけて、俺に正体を知られたんじゃないかと思い、次のターゲットを俺にしたって訳か。」
「ご明察。大した洞察力ね。」
「そりゃどうも。」
「なら、どうして私が君に正体を明かして接触したかも気づいてるよね?」
「俺の護衛兼切断者の捕縛の為、だろ?」
俺はため息混じりに答えた。
「大正解!」
「はぁ〜〜〜。」
今度はため息しか出なかった。それも特大の。
「なに?そのため息は?私じゃ不満?」
リアは俺を睨む。が、その顔を見ても内心、不安しかない。理由は、リアが可愛いからだ。亜麻色の長い髪に整った顔立ち。細いというよりは華奢な身体。顔を突き出して睨んでも、上目遣いで迫っているようにしかみえないのだ。
とても、俺の護衛や凶悪犯を捕まえることができるとは思えない。ここはお引き取り願おう。
「悪いよ。君に迷惑をかけるのは。」
そう伝えるとリアは右手を俺の肩に置き、笑顔で俺の見る。
なんだか嫌な予感がする。そう思った瞬間、
「ぎゃあぁぁぁぁ〜〜〜〜」
俺の悲鳴が盛大に響いた。
「今、こんな奴に俺を守るなんて無理だろ って思ったでしょ?その罰よ!」
俺はリアの声を子守唄にそのまま気を失った。
目が覚めると時刻は昼過ぎになっていた。
「あ、起きたの?」
リアがプリンを食べながら話しかけてきた。
「起きたの?じゃねぇよ! 死ぬかと思ったわ!あと、なに人ん家で勝手に飯食べてんだよ。しかもお前が今食べてるそれは俺が大事に取っておいたカスタードプリンじゃないのか?」
やや早口で言いたいことを言う。
「うるさいなぁ。今、デザート食べてるから後にしてよ。」
「マイペースだな?おい!」
そんなやり取りをしているとリアはプリンを食べ終えたようで、
「ごちそうさまでした。」
一言言うと身体を向き直して、
「話を戻そっか。」
と、本題を切り出した。