食べて食べられる
下ネタちっくな言動がありますが、清い心で見れば健全なシーンなのでR15はつけてません。前作がありますが、読んでないのなら、こちらからのほうがある意味楽しめるかと思います。
「ほら、俺を食べてくれるんでしょう……?」
しっとりと甘い声で、ナルが呟く。
私が今からしようとしていることへの期待と興奮が、そこにはあって。
濡れそぼった瞳が、とてつもなく色っぽい。
その顔を見なければよかったと、心の底から思う。
ナルの見た目は、私の好みのど真ん中で。
中身がどんなに残念な奴だと知っていても、そんな表情をされればドキッとしてしまう。
父が死ぬ前に、私へと残してくれた「ナル」。
彼は、私が大好きな少女マンガのヒーロー「ジル様」にうり二つだ。
ジル様は二十代前半で、さらさらの髪に、鋭い目元。
オレ様で少しSの気があり、クールな言動が魅力。
それでいて、時折可愛いところを見せてくれる……そんなキャラだったのだけれど。
正直似てるのは見た目だけで、ナルの中身はまるで別物だ。
……いろんな意味で。
「茄々子。そんな小さな口じゃ……俺が全部入りきらないよ。もっと大きく口を開けて?」
わがままをする子供を優しくなだめるようにそう言って、ナルが促してくる。
口を開けない私の唇に、ナルが自分の一部を擦り付けた。
柔らかいけれど弾力があって、それでいて熱い。唇がぬめって気持ち悪い。
「ナルの体の一部だと思うと……口にし辛いというか」
手でナルの体を押して、それを遠ざける。
その体を、ついまじまじと見てしまうのは、仕方のないことだと思う。
ナルは長身で細身に見えるけど、脱いだらわりとしっかりとした、細マッチョの体つきをしてることをよく知っている。
なぜならナルが背中を流してあげるなんて言って、風呂によく乱入してくるからだ。
当然、問答無用でいつも追い出している。
私の目の前にあるナルの一部分から目を逸らす。
ずっと昔は平気だったはずなのに……見ることにすら抵抗がある。
だいたい、黒っぽい見た目からして、コレは人の口にしていいものなのかといつも思う。
こんなグロテスクなものを口に入れようと、最初に思った人の気がしれない。
一応皮はむかれているからマシなんだろうけど……気持ち的にはそういう問題じゃなかった。
そもそもだ。
イケメンで美男子にしか見えないナルの体の見えない部分に……いつもこれが隠れているのかと思うと変な気分になる。
けど、そんな私の戸惑いが、ナルにわかるはずもない。
「俺の一部だからこそ……茄々子に美味しく食べてほしいんだ。その可愛い唇で、早く俺を愛してほしいな」
ご褒美をねだる子供のような、甘える瞳。
私は結局、ナルのこの目に弱い。
髪を耳にかけて、それから覚悟をきめて口を大きく開ける。
「いい子だね、茄々子……嬉しいよ」
ナルの手によって、私の口の中に……いよいよアレが入ってきた。
青臭い。
柔らかいような硬いような、よくわからない曖昧な塊は熱くて大きい。
一度だけという約束をすれば、一際大きいものをナルは私の口の中に入れてきた。
「んっ……」
ナルを味わうと約束はしたけれど……嫌なものはやっぱり嫌で。
できるだけ味をしたくなくて、息を止めるようにしてそれを口の中に導く。
「うぅ……」
熱をもったそれは、汁気をたっぷりと含んでいる。
ずっと拒否してきただけあって、苦手な味がした。
というか、自分の口の中にアレが……そう考えるだけで無理だ。
どうすることもできなくて固まる。
「ふふっ。茄々子の口の中……俺でいっぱいだ」
恍惚とした表情でナルが言う。
「茄々子、泣きそうなの? でもダメだよ……今回だけは許してあげられない。約束なんだから、俺の味をちゃんと舌で……よく味わって?」
いつも私に甘いナルなのに、今日は容赦してくれない。
半泣きの私の顔を見て、熱に浮かされたようなSっ気のある表情をしていた。
その顔は私の大好きな「ジル様」によく似ていて……こんな顔もできたのかと、ナルの知らない一面を見たような気がした。
「吐き出したら、もう一回最初からだからね? 茄々子の可愛い舌の上で転がして、舐めまわして……俺を感じて? いっぱい俺を楽しんでよ」
私の頬をその手で挟み込みながら、ナルが言う。
反射的に出た小さな涙を、優しく親指の腹でぬぐってくれるくせに、それをやめていいよとは言ってくれなかった。
ナルの言うとおりにしないことには、終わらない。
覚悟を決めてそれを味わう。
「んっ……あ」
歯を立てれば、ナルがぞくぞくと体を震わせて吐息を漏らした。
そんなふうな反応をされてしまうと、こっちが変な気分になる。
やめろといいたいのに、口の中がいっぱいだからそれもできない。
さっさと早く終わらせてしまおうと、口を早く動かす。
「ふっ、あっ、あ! 茄々子、激しい……! そんな急がないで……もっと優しく、丁寧に……んンっ!」
漏れる声が止められないというように、ナルが吐息まじりの声を上げる。
食べてほしいと願ったのはナルのくせに。
これ以上どう優しくしろというのか。
「んっ……俺、いま茄々子に食べられてるんだね……茄々子の体の中に俺がいると思うと……物凄く興奮する……」
目元を赤く染めて、びくびくとナルが体を震わせる。
本当、いちいちいかがわしいというか……物凄くやりづらい。
気にしちゃダメだと、食べることに集中する。
ナルが入れてきたモノが大きすぎて、咀嚼しようとするたびに口から唾液がこぼれそうになるからやっかいだ。
口のまわりがおかげでべたべたで、ナルの味をかみしめるたびに水音が鳴った。
時間をかけて、ナルをゆっくり飲み込んでいく。
「うう、まずい……まずいよぉ……」
どうにか半分くらい飲み込んだところでそう言えば、ナルが苦笑した。
「酷いなぁ……さすがに傷つくよ? でも、まぁ……これからいっぱい食べさせて、俺の味に慣れさせてあげるね?」
「やだ……もういい……」
いやいやと首を横に振れば、ナルが少しむっとした顔になる。
「努力してくれるって、言ったくせに。いいの? そんなことばかり言ってると……」
言ってると、何だというんだ。
こっちは精一杯歩み寄る努力をしてる最中でしょうがと、恨みがましくナルを睨んだ。
「今度こそ本当に、う、浮気しちゃう……かも……しれないんだから!」
ちょっぴり涙目で、ナルが訴えてくる。
何かと思えばそれかと脱力する。
本当なんだからと必死になって言ってるけど、ナルが私以外を見てないのはよく知っていた。
――したいならすればいいんじゃない?
いつもの私なら、冷たくそう言うところだけれど。
今回のこの行為自体が、ナルとの仲直りのための儀式だ。
だからしかたなく、私が折れることにする。
「ナルは私だけのものでしょ。だから嫌な味でも、私は我慢して飲み込んでるの。ナルだから……こんなに頑張ってるのよ。それくらいも……あんたはわからないの?」
一旦食べるのをやめて、それを伝える。
こうやって言葉にするのは恥ずかしい。
でもこのバカは、口にしなきゃわからないから……ちゃんと言葉にしてやった。
「茄々子っ!」
感極まった様子で、ナルが勢いよく抱きついてくる。
おかげでバランスがくずれて、床に押し倒される。
まったくしかたないなと思いながら、そのままの体勢で、まだ口の中に残るナルの欠片を飲み込んでいく。
あと少し、もう少し。
飲み込むことに抵抗があって、これが結構つらい。
思わずえづきそうになりながらも、少しづつ、少しづつ受け入れていく。
「茄々子……やっぱり、むりしなくても……」
「いいから黙ってなさいよ」
今更そんなことを言って、私を心配そうに見つめてくるナル。
こくりと喉をならし……最後の一欠片を嚥下すれば。
ナルが私の肩に頭をうずめて、ぎゅっと体を抱きしめてくる。
「……やっと茄々子と一つになれた。ずっと、ずっと、こうしたかったんだ」
まるで情事の後の睦言をささやくように、耳元でそんなことを言うのはやめろといいたい。
――たかが、茄子を食べたくらいで。
言っておくけれど、比喩とかそういうんじゃない。
私は茄子を食べただけだ。
茄子はナス科ナス属の野菜。
紫色の果実であり、果肉は黄緑色。その93パーセントは水分。
日本では千年以上栽培されてきており、煮たり、焼いたり、漬けたりと幅広く食されている。
しかし、栄養価的にはそこまで見るべきところがなく、子供の嫌いな野菜では上位ランクに位置。
そんな野菜を、さっきまで私は食べていた。
「あのね、ナル。いかがわしい言い方するなって、いつも言ってるでしょ!」
上に乗っかっているナルに怒鳴れば、私の顔を見て何を怒っているのかわからないという顔をする。
「いかがわしいって何が? 何がどういかがわしかったの?」
ナルは植物学者であり、科学者であった父が創り出した――謎の生き物。
茄子を愛していた母が亡くなり、茄子嫌いになった私のために、父が生み出した茄子の化身。
大好きなキャラである「ジル様」に似せれば、私が茄子をまた好きになってくれるんじゃないか。
頭のねじ緩んでるどころか、別のモノが頭につまってるんじゃないの?
そう言いたくなるぶっ飛んだ父の考えから出来上がったのが、『茄子ジル様型』――今私の目の前にいる、紫色の髪と目をしたジル様そっくりのイケメンである。
見た目はこれだが、体は茄子だ。茄子でできている。
何を言ってるんだお前はと言われそうだが、そうなんだからしかたない。文句ならナルをこの世に生み出した父に言ってほしい。
ナルの主食は水。時々植物栄養剤。
あとは日光があれば、ナルはいつだって元気だ。
この三つさえあれば、体を食べられてもしばらくすると元どおりになる。
今年の一月に出会ったのが初めだと思っていたけれど、ナルは私が幼いころ育てていた茄子の化身らしく、ついこの間それを知ったばかりだ。
「ねぇ茄々子、教えてよ。何がいかがわしかったの? 俺はただ、茄々子に俺を食べてもらっていただけだよね。どうして俺を茄々子の可憐なお口で味わってもらうことが、そんなにいかがわしいの?」
この天然ナスは、さっぱりわからないと首を傾げる。
疑問を口にするその言葉すら……すでにいかがわしいというのに自覚がないらしい。
それをこっちに聞くなと、心の底から言いたい。
「私の口をナルでいっぱいにするとか……優しくしてだとか、味わってっていうのがアウト」
「ただ茄子を食べてるだけなのに、どうしてそれがいかがわしいの? 理由を言わないとわからないよ」
羞恥心をぐっと抑えて言えば、すぐに疑問が返ってくる。
「それは……」
言い詰まる。そんな純真無垢な瞳で見ないでほしい。
まるでそんなことを考えてる私がいやらしくて、変態みたいじゃないか。
絶対ナルのほうが悪いはずなのに!
「ねぇ……教えてよ。どうしていかがわしいの? 茄々子が教えてくれたら……直すから」
少し掠れた甘える声。
こいつわかってて言ってる!?
そんな疑問が一瞬浮かぶけど、こんなの口に出せるわけがない。
どんな羞恥プレイだよ!
「ナスってほら、こう男性のアレに例えられるじゃない……だから、その……」
そうは思いながら、言わないとこのアホナスはいつまで経っても学ばない。
赤くなるのを自覚しながら、それを口にする。
「男性のアレ? アレって何? どこのことを言ってるの? ちゃんと名前で言って?」
私を押し倒し、体がぴったり密着した姿勢のまま……腰にクるいい声で囁いてくる。
色々意識してしまうから、やめてくれと言いたかった。
「ほら、あ、あれよ」
わかれ、気づけと心の中で唱えるけれど、目の前のナルには伝わらない。
「だからアレじゃわからないよ」
ナルが困ったように私の顔を見下ろしてくる。
続きを早く言ってとせかすように。
「お、お……」
「お?」
「おちんt……って、言えるかぁぁぁっ! このアホナス、エロナス、おたんこなす!!」
思いっきり叫ぶ。
裏若き乙女にこいつは何を言わせる気だ!!
恥ずかしすぎてナルの下から這い出す。
逃げるようにその場を後にしようとすれば、手首を掴まれた。
「待ってよ。まだ食べ終わって無いでしょ?」
何を言ってるのか。約束の一口はもう食べたはずだ。
そう思いながら振り返れば、ナルに口付けされる。
「んんっ!?」
「……ふふ、茄々子の口から俺の味がするね?」
嬉しそうにナルが言う。
「さっきは茄々子が俺を食べたから、今度は俺が茄々子を食べる番だよ」
またナルが口付けてくる。
――深く、深く味われる。
食べたって食べられたって、ナルが得してばかりじゃないか。
そうは思ったけれど。
「好きだよ」
その一言だけで、満たされた気分になる。
――私は絶対どこかおかしい。
おかしなナスと、おかしな私。
物凄くお似合いじゃないかと、笑えてきて。
その好きに答えるように、私もナルを貪った。
秋と言えばナスだよなと思い出して、書きかけの奴があったなと引きずり出してきました。こんな内容ですいません。疲れてたんだと思います。
あと茄子嫌いなので、食べた感じは想像となります。一応焼きナスの設定です。ご了承ください。