ep8-学校の屋上に自由に出入りできるのはフィクションの特権-
翌日授業間の休み時間になって耳元に届いたのは先日とは違う声音だった。
『じゃあ今日の隼人はデートにでも誘おうかオーバー?』
「今日は舞鷹ねえなんだなオペレーター」
『咲君もあれでまだ学生だからな、連日授業の合間を縫って支援するのも難しいのさ』
「ありがとう助かるよ」
たしかに今考えてみるとこれだけの事を手伝って貰うのは時間のやりくりが大変に思える。
咲に感謝するのも当たり前だが、舞鷹ねえにも心から感謝しなきゃな。
『と言うのは建前で、面白そうだから是非とも代行した』
前言撤回、僕の気持ちを返せ、今すぐマッハで。
『安心しろ隼人、これでも私は恋愛のプロだ』
「初耳だぞ」
『これまでも沢山の異性を落としてきた、コントローラー片手にな』
やべぇ、ゲームの話だ。
「チェンジで」
『残念ながら受け付けていない、冗談はさておきサポートはするさしっかりと』
本当に任せて大丈夫なのだろうか、舞鷹ねえはなんでも面白半分に楽しむ節があるし。
『大丈夫だよ、長年一緒だった私を信じろ』
「信じて……いいのか?」
『私が大事な隼人を陥れると思うか?』
思わ……ない。
それにずっと一緒だった相手を疑いたくない気持ちが強い。
「ごめん、俺の為に時間を使って貰ってるのに疑って」
『なに気にするな、隼人のその単純と言うか人の言葉を素直に信じる純心さは嫌いじゃないよ』
キーンコーンカーンコーン
そうこう話してる内にチャイムが鳴り響く。
「ごめんチャイムの音でよく聞こえなかった」
『大したことは言ってないさ、それよりそろそろ約束の時間だぞ』
そう急かされると僕はカバンから一式を取り出し屋上を目指す。
屋上への扉を開ける時、舞鷹ねえが小さく笑った気がした。
いざ現地に着いてみるとまたしても僕が先に着いたらしい。
『では柏本女子を待っている間にもてなしの準備でもしようじゃないか』
舞鷹ねえからの提案にコクンと頷くと手早くシートを広げ水筒や紙コップをスタンばる。
だがその中でとてつもない違和感に出会う。
明らかに今日の弁当箱はおかしい。
目に見えて仰々しいというか、放たれる雰囲気がおよそ弁当とは思えないと言うか、端的に言えば弁当箱に南京錠がかけられている。
さらに補足すると定期的に震えている、バイブレーションしている。
「おい、これはなんだ? まず弁当なのか!?」
『もちろん腕に寄りをかけたお弁当だ』
「腕に寄りをかけたミミックじゃないのか……」
こうしてる間にも弁当箱は小刻みに震え、その動きが止まったと思えばまた不定期に震えだし恐怖指数をグングン上げている。
『失礼だな君は、少し嗜好を凝らしただけだよ』
「一応訊くがその嗜好とは……?」
『踊り食い、とだけ言っておこう』
その返答によって本日の恐怖指数は青天井に突入した。
その発言になんの踊り食いだよ!?、と突っ込む事を忘れるほどに。
『まあただの冗談だ、そんなガチビビリをするな。弁当の下の段を見ろ』
「えっ……?」
指摘を受けミミック箱をよく見てみると下の方に南京錠の掛けられてない普通のお弁当箱が引っ付いている。
急ぎ手に取り中を確認すると、中からは涙が出るほど普通に美味しそうなお弁当の姿が見える。
『さすがに恥はかかせんよ、隼人の反応はいつも愉快だからついからかってしまっただけだ』
「ハラハラさせないでくれよ、こっちは昼飯時にザラキされるかと思ったぞ」
『はっはっは、まあいいじゃないか。さてそろそろ柏本女子が来たようだぞ』
その言葉から刹那、扉が開き大きな瞳を凛々と輝かせた女の子がやって来た。