ep4-飛んで飛んで飛んだテンションで回って回って回って回って堕ちる-
そんなやり取りをしてから登校し、気付けばチャイムと供に最初の休み時間になっていた。
『……それでは最初の作戦に移りましょう』
次の授業の必要品を並べていると、突然にイヤホンから咲の声がするから軽く声を上げてしまった。
「最初の作戦って? 昼休みと違ってあまり時間ないぞ」
授業の準備時間である休み時間はあって数分、出来ればその間にすませたい。
『ご心配なくすぐ済みます、まず二年B組の教室に移動してください』
「それはいいけど何をするんだ、いや何をすればいいんだだな」
『まずは千鶴さんの意見を参考に組み立てたプランから始めます』
千鶴の案ってたしか美味しい物を食べさせてくれる人が好みって話だっけ、それがどんな作戦になっているのだろう。
『それでは早速前方の教室に入り、柏本七海様をランチに誘ってください』
スピーカー越しの話を聞きながら足を進めていると目的地手前についた所で、詳細を聞かされる。
「ランチって昼飯に、だよな?」
『ええ昼飯に、です。あれから千鶴さんに話を伺ったところ、一緒に美味しいものを食べれば仲良くなるっ!……とのことです』
「ハ……ハードル高くないか、せめてもう少し」
日頃入らない教室から流れ出る見知らぬ空気、そして友人関係すら気付いていない異性に誘いをかける行為に不安定な気持ちが込み上げてくる。
『なにヘタレてるんですか、この程度出来もしないで恋愛なんて上手くいくと思いますか? 』
あまりの不安感に下向きな気持ちに支配されて臆していると、咲に当たり前の事を叩きつけられる。
『恋愛なんて恋路なんて身勝手でわがままの塊です、それを叶えるのは勇気と勢いです』
確かにそうなんだ、赤の他人の関係から恋人なんて親密な関係になるなんて、ちょっとやそっとじゃないんだ。
「ごめん、僕の事なのに情けない事を言って。言われた通り勢いよく行ってくるよ」
『それでいいんですよ隼人様、何事も勢いです。行動して後悔する不安なんて捨ててください、それは前に進むのに不要な物です』
歩を進め勢いよく扉を開ける、それと同時に周囲の視線の一部が僕に集まるのを感じた。
『それではなるべく勢いよく、カッコよくランチに誘ってください』
「……勢いよくカッコよくってどんな?」
『そうですね……走り寄り目の前で回転ターンとかどうでしょう』
「それ本当に大丈夫なのか!? あと今適当に思い付いたろ!」
大声を上げたせいか周囲の視線がさらに集まる。
逃げ出したい弱虫な自分も少しはいるが、ここで引いたらもう一度ここに入るハードルが高くなる事受け合いだ。
『大丈夫です、きっとメロメロに出来ます』
咲の声に迷いがなかったせいか、集まる視点に緊張が張り詰めていたせいか、細かい事を考えられなくなってきた。
「本当にメロメロなんだな?」
『ええメロメロです』
集まる視線、緊張する心、僕は早くこの胸が苦しい状態から解き放たれたいのか頭が真っ白になっていく。
「分かった、信じるからな」
軽く深呼吸をすると僕は窓際に見える柏本さんに走り出す。
「か……柏本さぁぁぁぁぁん!」
柏本さんはビクっと声に反応し振り返る、その瞬間僕は片足を軸に回転を始める。
「今日! 僕と!」
一回、二回、三回と回転は勢いよく続く。
「昼休み屋上でお昼を!」
四、五、六回転ときた所でフイッニッシュを入れ、ウインクまで入れて決めきる。
「ご馳走させてくれませんか!?」
僕は後からこの時の事を記憶の底に封印したくなる程後悔するのだった。