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柏本七海は振り向かない  作者: 蒼意二流
2/8

ep2-ミニスカニーソのメイド服とロングスカートのメイド服はそれぞれ違った良さがある-

「それではこれより作戦会議を開始いたします」

咲と部屋を出てから数分後、談義室にはイスとテーブルが並べられ各席にはどこかにまにま顔のメイド達が三人ほど着席していた。

「えっと咲、これはなんなんだ……」

「ですから作戦会議ですよ隼人様、『ドキドキ隼人様マジラブ2000%大作戦』の」

「恥ずかしい作戦名をつけるな!」

そもそもこういう話題ってもう少し隠すなりするだろ、いきなり複数人を呼んでくるか普通。

「はーい先生っ、そのマジ果汁2000%大作戦ってなんですか?」

着席していた活発を絵に描いたようなポニーテールの少女、小野寺千鶴(おのでらちずる)が手を上げ質問する。

「今回の作戦は隼人様の恋路を皆でサポートする集まりです。あとそんなフルーティーな作戦ではありません」

「ほほう、とうとう隼人も色恋に目覚めたか」

笑みを浮かべながら会話に入ってきたのは長身に腰まで伸びた長い髪が特徴的な大人の雰囲気を持つ女性、大沢舞鷹(おおさわまお)通称『舞鷹ねえ』。

彼女は僕の事を「隼人」と呼び捨ててはいるがこれでも立派な使用人だ。

「それでお相手はどのような娘かな?」

テーブルに並べられた紅茶を片手に舞鷹ねえは質問を投げ掛けてくる。

「心地のいい人だよ、強いて言えば笑顔がとても綺麗かな」

「なんだそのおぼろげな情報はほかに上げる所はないのか? 『彼女の体臭がたまらないんだっ』とか」

「僕はどんな変態だと思われてるんだよ!」

「なに、隼人は女の子の体臭が嫌いか?」

舞鷹ねえは手に持っていたティーカップをテーブルに置くと、やけに真剣な眼差しになって聞いてきた。

「…………そんな物に興味ないよ」

「フッ、その間が怪しいな」

なにかを見透かしたような微笑を浮かべられた。

違う断じて僕は女性の髪の匂いとか体臭を楽しむ悪趣味は抱えてないはずだ。抱えていない、はずだ。

「えっ、はーくんは女の人の匂いが好きなの……?」

次に会話に入ってきたのはメイドの中でも一際小柄な少女、小野寺唯(おのでらゆい)だ。小柄で華奢な体つきは可愛らしい人形のような印象を放つ。

唯は千鶴の双子の妹。ポニーテールな姉は活発なムードメーカーだが、小柄サイドテールの唯は周りを天性の愛らしさで和ませるタイプのムードメーカーだ。

「いや唯、僕は断じて女性の体臭を好きって訳じゃないから」

「そうなの……?」

唯は少し首をかしげている。ちくしょう舞鷹ねえ、変な誤解されたら恨むからな。

「えと、それでなんのお話だっけ? はーくんを応援するだよね」

「ああ僕を果汁2000%にしたり、女性の体臭に飢える変態にする話ではなくて、僕の初恋に力を貸して貰う話だ」

これ以上無用な話の脱線や誤解を生まないように話をまとめておく。

「こほん、皆さんには先程この集まりの目的を伝えておいたはずですが、話の内容を理解してここに来たのですか?

「えっ? 私はお茶菓子出そうだから来てみただけだけど」

「わたしも千鶴ちゃんが来るっていうから……」

「無論内容は知っている、その上で状況を弄んでいる」

千鶴はお菓子を貪りながら、唯は咲の表情に少し怯えながら、舞鷹ねえは悪ガキのごとくにやついて答えた。

えっと、このメンツに相談して大丈夫なのだろうか。

「まあよーするにっ、はー君を助ければいいんしょっ」

「その通りです、という訳で皆さんが男性に求めるものでも訊かせていただければ幸いです」

なるほど彼女達は使用人である以前に現役の十代女子だ。ならば彼女達の理想の男性像、ひいては好きなタイプは参考になる。

「僕からも頼むよ、好きなタイプを訊くのはデリカシーに欠けるかもしれないから、教えられる範囲でいいから参考にさせてくれ」

「はーくん困ってるみたいだし、わたしは力になるの嫌じゃないよ……?」

「んーと、別に恥ずかしいことでもないし別にいいよ。でも今度あっまいお菓子欲しなっ」

「なに気にすることはない、それに見ての通り私達は隼人の味方だ」

デリカシーに欠ける質問だとも思ったけれど、三人はそれぞれの態度で協力の意を伝えてくれる。

「ありがとうみんな、本当にありがとう。みんなの気持ちが素直に嬉しくて心強い」

「ははっ隼人と私達は幼い時からの仲だからな、協力するのは当たり前だ。あと私も甘い物を所望する」

「分かった、しっかり全員分用意しておくよ」

今度感謝の意を込めてケーキでも買ってこよう、たしか最寄りの駅内は美味しい洋菓子店もあるって聞いたし。

「では話しもまとまった所で、本題に戻りましょう。あと隼人様、駅内の洋菓子店ならパルムというお店がオススメです」

バームクーヘンなんかもいいなと思っていた所で、咲が話を元に戻す。パルムか覚えておこう。

「はいはーいっ、私が好きなのはね美味しいお料理食べさせてくれる人っ」

まずは千鶴が元気に手を上げ好きな異性の特徴を上げる。

「なるほど料理か、たしかに料理の出来る男はモテるって訊くな」

「やっぱり人間掴むなら胃袋だねっ、うんっ」

うんうんと頷いている。

最初に訊けた要素は手を伸ばしやすいスキルにも思える。僕も少しは料理できるし、カレーとかサンドイッチとかおにぎり……とか。

「ちーちゃんは家庭的な人がタイプ……? 知らなかった……」

「えっ、そんなんじゃないよ?」

妹からの質問にきょとんとしながら答える。それを訊いた周りはさらにきょとんとしてしまう。

「えっと、それはつまり……どういうことだ?」

「だーかーらー、美味しいの食べたいだけで家庭的なのがタイプじゃないってっ」

再び意見を伝えてくれるが、僕達にいまいち伝わらない事に頬を膨らさせている。

「まて隼人、よく考えよう。千鶴は『美味しいお料理食べさせてくれる人』としか言っていない所がミソだ」

僕らが首を傾げていると、舞鷹ねえが『謎は解けたよ』と言わんばかりの顔で指をピンと立てた。

「どういうこと、マーオックホームズ?」

「なに簡単なことだよ、あとホームズ言うな」

僕の頭をぺちっと叩くと名探偵は話を続ける。

「つまりは、だ。千鶴は美味なる食事を得たい、ここまでは合っているな?」

「うんっ、そーだよーっ」

途中確認を取りつつ、推理ショーは続く。

「では君は殿方に料理や家事、ひいては供にに寄り添って支えてくれる事を望んでいるかね?」

「えっ料理や家事なんてしなくていいよ? 生きてくための食事や寝床、金銭をくれればっ」

「それはただのヒモだっ!」

あんまりな答えについ大きな声を出してしまった。でも仕方ないじゃないか、この結末を年頃の女の子の口から聞くにはあんまりだ。

「騒がしいぞワトソン、人の価値観はそれぞれだろう」

「……それもそうだよな。この意見も僕の今後の参考になるかもしれないし、あとワトソン言うな」

ここで舞鷹ねえの頭にぺちっと突っ込みを入れたいところであったが、後が怖いので次の意見を訊こう。

「では次に……唯、唯の好きなタイプを訊かせてくれ」

「えっと……次はわたし? んとね……」

質問によって皆の視線が集まると唯は口を閉じ考え込み、少しの間を挟んでからまた口を開いた。

「困ってる時に助けてくれたり、頼りになる王子様みたいな人かな……へへ」

頬を僅かに染め照れた様子で答える姿はどこか愛らしい。

「白馬の王子様ってやつか。ありがとう唯、参考になるよ」

「えーっ、私のは参考にならなかったのっ!?」

素直なお礼を言うと、むくれた千鶴が僕のことをポカポカと叩きながら抗議してきた。

「いやっ、その……っ、意見のひとつとしてっ、感謝してるよっ、つか痛!」

「むぅ、いっつもみんなは私よりもピュアピュアな唯ばっかり、いつか私も拗ねるからねっ」

ますますムスっとしてしまう。唯を贔屓しているつもりはないのだが、たびたびこういう事になってしまう。

「ごめんな、千鶴だって俺の為に素直な意見を言ってくれてたんだもんな、感謝してるよ千鶴だから……な?」

「そこまで……言うなら、今回だけ」

機嫌を治して貰おうと必死に感謝の意を伝えると、渋々納得してくれた。

「では、そろそろ私かな」

『ふふ』っと楽しそうな笑みを漏らし、次は舞鷹ねえが語ろうと一歩前に出る。

僕達の仲では一番の歳上だけに、とても参考になる意見が期待できる。

「私の好きなタイプはズバリ、だらしない男だな」

「えっと、だらしない男性ですか?」

舞鷹ねえの答えにしっくりこない様子の咲は納得のいかない顔をしている、かく言う僕達もしっくりこない。

「ああ、だらしない殿方は可愛らしいしな。それを影ながら支えて世話を焼いていたい」

「あーっなんとなく分かるっ、自分だけが知っている彼のいい所ってやつだねっ」

「理解者が得られて嬉しいよ」

千鶴はいち早く理解したらしく、二人仲良くうんうんと頷いている。

「つまり保護欲を掻き立てられるような男ってことか?」

「うむ、大体はそれであっているぞ隼人」

「だいたい……ってことは、少し違うのまーちゃん?」

舞鷹ねえの袖を引っ張りながら、次は唯が質問する側に回る。

「まあ本音は何から何までを世話して、私なしでは何もできない人間にしたい」

どうしよう、本音怖い。

「えっとまーちゃんって、ヤンなんとか……?」

「失礼な、保護欲の塊と言ってくれ」

なんだろう、舞鷹ねえの愛が怖いってことはよく分かった。

「では私の深い恋愛観を説いたところで、そろそろそこのツインテメイドの好みでも訊こうじゃないか」

指をしゅぴんと立てた舞鷹ねえが咲に質問を投げかける。

「私が男性に求めるもの、ですか?」

「それは僕も気になるな」

今度は周囲の目が咲に集中する。咲は考えを整理するとばかりに少し目を閉じた後、答えは決まったと真っ直ぐな視線と供に瞼を開いた。

「金……引いては財力ですね」

そして思いの外俗物だった。

「また大人と言うか、シビアなんだな咲は」

「あら、いけませんか?」

いけなくはない、と思う。

僕には分からないことなのかもしれないけれど、生活を立てるってことはきっと大事な事だ。そう考えるとこの考えはとても咲らしい。

「でもっお金以外にも大事なこともあるって言うよねっ」

「うんちーちゃんの言うとおり、でも咲ちゃんの言うとおりお金も大事、お金ないと電気とかとまっちゃうし……」

小野寺姉妹がそれぞれの意見を述べる、たしかに両方とも大切に違いない。

「たしかにそうだな、金が大事な物の全てではなかろうよ。せいぜい99%だ」

いや舞鷹ねえ、それはもはやほとんどだ。

「なんにしても皆ありがとう、とても参考になったよ」

歳の近い女の子達の生の意見だ、きっとこれから役に立つ。

僕は感謝の意を込めて深々と礼をした。

「では意見が出揃ったところで、そろそろお開きにしましょう。皆さんこれから仕事もあるでしょうし」

「えーっ、まだなんにも決まってないよ?」

「うん、まだなんにも……」

千鶴と唯が立ち上がり意見を口にする。

強い協力の姿勢はありがたいけど彼女達にも仕事があるし、あまり時間をとらせるのは気が引ける。

「咲が言うことももっともだぞ、この続きは後日にすべきだ。それに後日に回せば今回の意見をまとめて策を立てる暇が稼げるしな」

舞鷹ねえが上手くまとめてくれると、そういうことならと二人は納得の意を出してくれた。

「では続きは明日の朝にしましょう。隼人様、明日も学校ですよね?」

「ああ、明日からは普通授業で学校があるけど」

「ならこれは明日にでも作戦決行だねっ、気になるあの子に当たって砕けろだっ」

「ちーちゃん、砕けちゃったらだめだよ……」

「ふふ、これは面白そ……もとい気を引き締めな切ればな隼人」

そんな会話をしながら僕達は部屋を後にした。

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