第六話 通商条約とマグチッタの現状
はいはーい。駄文でごめんなさい。海軍士官です。大学の夏課題からの現実逃避も兼ねてさらにもう一話上げてみました(おいっ)
そろそろいい加減、細かいところを固めなければとも思うのですが、気ままに書いたほうが進みはいいので迷っています。とりあえず本編、どうぞ。
――転移から3ヶ月半――
新大陸発見から2週間後、ミッドランド共和国首都クヴァドラートシュタットの郊外にある国際空港には、日本の政府専用機が着陸していた。全権大使である三島孝率いる日本側交渉団を乗せてきたものだ。羽田を出た同機以外にも記者団を乗せた僚機がいる。ほかには、航空自衛隊の戦闘機が傍で翼を休めている。エスコートしてきたミッドランド空軍機は最寄りの空軍基地にいるため今はいない。
「日本全権代表団団長の三島孝です。お招きいただき光栄です」
「ミッドランド共和国大統領のヘルマン=ウォーニングです。本日はよろしくお願いします」
空港ではミッドランド大統領のウォーニングが待ち構えていた。カメラのフラッシュが焚かれる中で両者が握手するという歴史的会合の後、大統領官邸でさらに会議が行われた。
その後、一週間近くにわたって連日のように行われた会談では、国交樹立に関しては両国ともに積極的であることが確認され、日ミ通商条約が締結された。同条約に基づいて両国各省庁では実務者協議が行われ、その内容は逐一公開された。また、同時期に開始された言語調査の結果、両国とも元いた世界における類似言語を使用する国の存在があったことが分かった。例えば日本の場合にはドイツがあったし、ミッドランドには敷島という国が存在し、どちらも文法などの面では共通しており、日本から見ると一部アルファベットが抜け落ちているだけ、ミッドランドから見た場合にはカタカナが無いだけで他はそう変わらないことが確認された。このおかげでパスポートなどの民間人渡航に必要な書類作成にかかる時間が短縮できることが分かった。
そうして、両国は条約の発効されることになる2カ月後に備えて準備が始まることとなる。また、少し遅れてミッドランドで同じく転移してきたアストリアとも接触。同じく通商条約を結ぶこととなる。同国の場合、使用言語が英語と呼ばれていないだけで内容は同じであるブリタニア語と呼ばれる言語だったおかげでさらに早く済ませられることが分かり、接触が遅れたにもかかわらず、ほぼ同じ時期に条約が発効を迎えられる状態にまで協議を進めることができた。これほどの短期間で済んだのは、ミッドランドもアストリアも可及的速やかに情報を取得したいという目的があったことと、日本との技術レベルに開きがあるため、危機感があったからに他ならない。日本は望んではいなかったが両国からしてみればいきなり戦争を起こされるのではないかと不安を感じていたのだ。もっとも、移転後しばらくして、日本は殴られたり、ある一線を超えなければそうそう戦争には踏み切らないという平和的にいこうとする姿勢に感銘を覚えることになるが。
――条約締結と同時期 マグチッタ共和国自衛隊駐在基地――
三か月もすると基地はかなり豪華な設備を整えていた。港の浚渫作業は進んで、海上自衛隊への編入が予定されている空母ミッドウェーが支援のため展開していたし、空自の基地は4000m級滑走路を3本も持つという本土じゃ考えられないほど豪華な設備を手に入れていた。というのも、このころになると自治領諸島への入植に参加せず残ることにした在日米軍の自衛隊への編入部隊の日本帰化が本格的になったため装備が潤沢に用意できたからだ。沢路たちの部隊にもそうしたかたちで例外なく旧在日米軍の軍人が転属してきていた。
「沢路中尉はいますか?」
「俺ならここだが、君は?」
「米陸軍より転属の決まったケリー=ワイズマンです。階級は曹長です」
米陸軍の軍服のままのケリーは沢路のいる基地の仮設官舎で沢路を見つけて話しかけてきた。ケリーの身長は180cmと長身で、一般的な白人男性の体格をしていた。上司となった沢路は彼よりやや小さい172cmだが、比較すると沢路の方ががっしりして見える。
「おお。連絡は聞いているよ。あ、あと、こないだ昇進して大尉になったし、ここへ着任したということは昇進になるから君は少尉になるはずだぞ?」
「え? あ。し、失礼しました。なにぶん日本語にまだあまり慣れていなくて。この世界へ来たおかげで話はいくらでもできるんですけどね」
「ははは。それなら仕方あるまい。おいおい慣れてくれればいい。アフガニスタンなどの紛争地域で得た君の経験をここで生かしていってくれ」
「はい。よろしくお願いします」
このころ、米軍との統合に伴い、自衛隊も自衛軍への昇格が決まり、3カ月後には自衛軍法の施行が近づいている関係から階級呼称も変わり、沢路の場合には昇進に伴って1等陸尉になるところを大尉へと呼び方が変わっていた。
現在のマグチッタでは相変わらず反体制派貴族によるテロが横行しており、ポルトマーレとアルカミ―シュロスを結ぶ鉄道の工事もあまり進んでいない。もっとも、その都度撃破してきた結果、日本が関与した地域で相次いで発覚した重税の徴収などの事実により各領民の保護に注力してきた結果、一般領民の日本に対する感情は良く、日本と王政府との取り決めを支持した一部の貴族を除いてテロ行為を起こしたことで地位を剥奪されたり、民衆の方が蜂起して手に負えなくなったりで、次々と没落していくこととなり、領邦制そのものが瓦解し始めていた。
とはいえ、貴重な錬金術や魔術などの技術・知識が失われるのは良くないと考えた日本は主を失った魔導師や錬金術師たちを雇って開発促進や知識・技術の保護及び習得のための支援をしてもらっていた。これらの中にはレイチェルのように日本に来て実際に錬金術のアトリエを開設して日本で広めていった者もいる。彼らの登場により、日本国内で魔法が使えたり、錬金術が使えることが実証され、日本の産業界に新たな活力を与えることになり、これまでの技術ではなしえなかった超軽量素材の開発、量産や焼却できないうえ、再利用できなかったごみを資材に戻したりできるようになり潜在国力の引き上げに大きく寄与することとなった。このため、大企業の多くは日本政府に働きかけて魔法や錬金術を行使した場合に備えての法整備やアトリエの建設などマグチッタの錬金術師を社員登用できるように環境整備を行った。
「こんにちは。古田さんも大変ですね」
「安川さんほどじゃないですよ。この辞書のおかげで職員の多くが助かってます。そういえば、先日、連絡があって、ご家族が今度いらっしゃるそうですよ」
大使館も常時警戒が行われており、ポルトマーレまで空輸された装備が配備されている。大使館の敷地が広かったおかげでヘリを置けるスペースまである。現在は一時的に基地の役割も持っているが、国交が本格化してきており、治安が安定したら部隊は王都から撤退することになる。もっとも、マグチッタ王国全域の治安安定化にはまだまだ時間がかかるし、近衛師団をはじめとする正規軍の近代化や警察の創設および指導に近代法の整備などやることは多いため自衛隊のマグチッタ駐在はしばらく続くことになる。
「家族が? それホントですか? うれしいな。こっちはまだアンソニーの手伝いがあるし、あと、錬金術って徒弟制なもんだから弟子の面倒もみなきゃいけないもんだから、日本へ帰るって選択肢が用意できないのよね。いっそ、錬金術学校でも作ろうかしら。技術の保護とか、あと、日本でもこれから錬金術が出来る人は引っ張りだこになるはずよ。錬金術にはね、ごみを再資源化しちゃうものまであるから、日本みたいなところじゃ重要なものになるはず。そう考えると最低限できるラインの均質化はしたいし。ああ、また余計なこと考えちゃった。うう、ごめんなさい。それで、いつ頃来るんですか?」
「まだ、ビザもパパスポートも使えるような状態じゃないから、特例として受け入れるにしてもまだ調整中。もうしばらく先だと思いますよ」
「そうですか。大変だとは思いますけどよろしくお願いしますね」
「もちろん。辞書のお礼も兼ねて頑張らさせていただきますよ」
このころ、安川みずきの名は全国報道されており、マグチッタへ突然飛ばされた後のサクセスストーリーと合わせてかなりの有名人になっており、日本では後に錬金術とセットで語られることの多い人物となり、教科書にも載るほどの人物になった。
ちなみに、錬金術学校の話は徒弟制に限界を感じていた多くの錬金術師たちの賛同を得て、開設されることになる。言うまでもないがその初代校長になったのはみずきだった。後に、マグチッタ全国に広がって錬金術師の需要増加と合わせてその数は急増し、国境を越えて日本にも設けられることとなる。
――条約締結の日の首相官邸――
「ようやくまとまったか。これでしばらくは安泰だな。しかし、いつも思うが心臓に悪いな。最近のこの情勢は」
「確かに。いついきなり殴ってくる国が現れるかと冷や冷やしますよ。防衛庁としては、マグチッタのような国レベルならともかくミッドランドクラスの国力の国だったら正直、耐えられないかもしれません。そう考えると今回の相手国の対応が非常に平和的で冷静だったのは僥倖でしたね」
「まったくだ。今だってそのうち、宗教問題で喚きだす可能性があることを考えると怖くて仕方ないよ」
「まあ、まだまだこれからですけど、しっかりと日本の立場を確定させていかないといけませんね。これまでみたいな玉虫色のやり方は日本の安全保障上危険なだけですから」
「うむ。とはいえ、あんまりやりすぎないようにな。いつ転移前の中国や韓国のように弱みに付け込んでくるかわからんからな。皆もその辺は気をつけてくれ」
「了解です」
今日も閣議が行われた。政権の支持率は7割台とおおむね支持してくれているが、最近、一部の議員の動きが怪しく、畑中をはじめ、閣僚の多くは、(これはもしかしたら一波乱あるぞ。出来れば、何事もないといいが)と、皆、思っていた。だが、三カ月後、その思いも空しく、移転後の日本史上、重大な出来事が起こることとなる。
むう。そろそろ人物面のストーリーも確定させなきゃいけないけど、主人公らしい主人公も決めてないなあ。とはいえ、この壮大な駄文がものすごい勢いでPVを伸ばしていることを考えるとこの路線でそのまま突っ切るのもありかなと考えています。どうなるか分からないけど、どうか最後までお付き合いくださいね。
それでは、次話でまたお会いしましょう。