第一章 一話「行動決定」
とりあえず、続きですお。まだ基本設定が出来ただけです。登場する予定の国家と、話の大筋は出来たので細かくストーリーを作り込んでいる最中ですが、並行して書いていくので期待しない程度にお待ちください。それではどうぞ。
日本が異常事態に巻き込まれて数日。種子島沖で一隻の船が漂流しているのを自衛隊の哨戒機が捉えた。えらく小さいが筏のような粗雑なつくりではなく、しっかりとしたものだった。
「なあ。一応、今は1994年だよな? 何だって、明治末期の貨物船みたいなのがいるんだ?」
哨戒機の機長が言う。
「知りませんよ。そんなの。とにかく佐世保に連絡しましょう」
「そうだな」
同僚に促されて、機長は佐世保へ通信するよう指示した。
それからしばらくして、近海を哨戒中の海自の護衛艦が連絡を受けて、現場へ急行した。
「こちらは海上自衛隊第二護衛隊群所属護衛艦やまゆきだ。貴船はただちに停船せよ」
スピーカーから発せられる音声指示にその船は従った。
「しかし、連絡にあった通りとはいえ我が目を疑いたくなるな。この姿は」
艦長のつぶやきに誰もが同意する。
その船の形状は本当に明治期の石炭専燃缶を搭載した蒸気船そのものだった。臨検の結果、謎の船は佐世保まで向かうことになり、やまゆきの護衛の下、佐世保へ入港した。
――東京 首相官邸――
内閣総理大臣畑中義彦は、閣僚会議の場で報告を受け、げんなりしていた。
「……そのマグチッタ王国をどうしろというのだ?」
手に持っているレポートには同国の情報がぎっしりと書かれていた。しかも、日本語で、だ。この異常事態に、見ず知らずの国からの書類が日本語で書かれていることや、保護した船の乗員に日本人の血をひくという同国の人間が乗っていたことが彼の頭痛の種を増やした。
「それで安川みずきの方についてはどうなったかね?」
畑中は、閣議の前に乗員の祖母が日本人であると聞いて確認を取らせていた。
「警察の方で彼女に捜索願が出ていることを確認しました。一応、親族の方には連絡いたしますが、レポートやレイチェル女史の証言通りなら不慮の事故で異世界へ飛ばされたということになります」
「……んなことをバカ正直に信じられるか?これほど大量の資源が本当にあるのなら可及的速やかに国交を結ばねばならんのだが……」
疑いの念を隠しもせずに閣僚の前で言う畑中。本音をあまり隠さずに言うので閣僚からの信頼は厚いが、一年前までソ連の崩壊に伴う独立紛争に巻き込まれて戦争状態にあった後であり、復興途上なためか国民の受けは普通だった。
「なんにせよ。有望な資源供給元となる可能性が大きいのだから、かの国の情勢安定化と国交樹立へ向けた行動は必要でしょう。幸いというべきか、ソ連が無茶な暴走をしてくれたおかげで自衛隊の行動を縛るべきでないという流れになっていますから平和維持のための派遣に反対はできないでしょう。まして左派の人間が戦争を誘発した責任で辞任したわけですし」
91年当時の首相は、ソ連の崩壊後、北海道侵攻に対し、自衛隊の動きを封じて対話でどうにかしようとしてさらに被害を広げ、中国や北朝鮮を調子に乗せて参戦させてしまった責任を取る形で辞任。左派=ソ連の味方というような図式の報道をマスコミがあおったこともあって、戦争反対とか叫ぼうものなら白い目で見られる世の中になったのである。
「……わかった。派遣を許可しよう。ただし燃料が無尽蔵にあるわけじゃないから十分注意してくれ」
「了解です。ただちに計画を策定し、提出します」
「ああ。そうしてくれ」
防衛庁の連中が退室していく。日本のこの世界での最初の行動は海外派遣だった。一歩、間違えば侵略と騒がれそうだが、資源を得るためにはなりふり構っていられないのだから仕方ない。そのうち、米軍にも話をつけなきゃいけない。そう考えた畑中はげんなりしながら見送った。
いかがですか?ちなみに今回佐世保に着いた蒸気船の船籍国は次の回で名前が出る予定です。
それでは次話でお会いしましょう。