第九話 安川みずきとマグチッタ
どうもです。海軍士官です。まさかの連日投稿です。でも、反動と次章以降の準備で次話投稿はしばらく空くかもです。そんなわけで本編どうぞ。
――移転歴2年6月のある日 マグチッタ王国首都アルカミ―シュロス――
安川みずきの仕事は補佐としてアンソニー政権を支えることである。ポルトマーレ市の市長もしているが領邦制の崩れだしたマグチッタの政情不安を抑えるために錬金術師保護活動を実施している。各貴族領には必ずお抱え錬金術師がいるし、大きな街なら錬金術師ギルドがある。食いぶちに困らないように見えるが、領邦制が崩壊しつつある今、日本にならった都市制度を導入する方向で王政府は国がばらばらになるのを防ごうとしており、そういった錬金術師たちが失業しないように保護する必要があるのだ。
「それじゃ、モンテオーロの方はよろしく。通貨として発行する金はこれまで通り、純金7:錬成金3でよろしく。あと、失業する可能性のある錬金術師がいたら日本企業に紹介できるようにリストを作っといて」
「かしこまりました」
モンテオーロはアルカミ―シュロスの北東、島国であるマグチッタ王国の本土である島のはずれにある街で、金鉱山があり、各種金属の生成を専門に行う錬金術師がおり、この国で流通している金貨を発行している重要な街である。レアメタルをはじめ、日本が欲している金属を精製できるできる錬金術師も多く、個々の能力差はあるが安川レポートのおかげで、日本がその能力を欲していることが分かっただけにこの地域の錬金術師は最優先で保護され、後に、日本の製造業系各社がそれぞれのアトリエと契約することとなり、一大産業地域となる。
「それとポルトマーレ~アルカミ―シュロス間の鉄道敷設はどんな感じ?」
「それでしたら、やっと本格化してきたってとこですね。2か月前に土地が確定したので先月から建設が始まりました」
「移転式典が始まるころには部分開業させたいわね。急がせて」
「わかりました」
一部貴族による襲撃が絶えず続いていたのが終わり、王政派貴族ばかりが残った現在、生活が便利になるということもあって鉄道敷設は急がれている。後に部分開業した際、レールゲージが日本の標準軌である1067mmとなったのは特筆すべき事項である。最初のうちは、機関車(注記しておくが蒸気機関車や電気機関車ではなくディーゼル機関車)による牽引が当たり前の方式を取ることになるが利用者が増大していくにつれて日本製気動車を導入していき、発電所が普及していくとそれは電車へと変わっていった。
「ポルトマーレも大きくなってきたし、鉄道が王都と結べるようになったら、今度はモンテオーロまで延伸ね。そろそろ、あたしお手製の辞書じゃなくてちゃんとした辞書が発行される予定だし、日本人にもっと来てもらえるようようになるといいわね」
一方、ポルトマーレも変わってきていた。移転から10カ月の間に港の拡張は優先して進めてきた結果、泊地に関しては日本の横浜港の5分の3程度のキャパシティをもつことが出来る港となった。しかし、岸壁は大型船に耐えうるようなものはまだ少なく、クレーンやタンカー用の設備が装備されている岸壁はもっと少ない港であるため、中型タンカーやはしけを使ったRASH船方式の貨物船以外では、一部のばら積み貨物船ぐらいしか入港できない。とはいえ、帆船や蒸気船ばかりがいるだけだった港はだいぶ近代化していると言える。
空港も軍民共用ではあるが整備され、日本との定期便が日本の航空会社によって運航を始めた。まだ、パスポートを利用できる体制になったばかりで日マ両国の貿易関係者ぐらいしか利用していないが、いずれは一般人レベルでも利用が増えることになるだろう。
――数週間前――
「みずきはしっかりしているな。これなら父さんも母さんもよそに自慢できるな。離れ離れになるけど、ちゃんと頑張りなさい」
「うん。でも、出来ればこっちに住んでもらいたかったなあ」
「そりゃ、無理だよ。まだ、こっちにも仕事があるし。まあ、そのうち仕事でこっちに来るようになるだろうし、日本人学校が出来ればこっちに住むかもしれんだろうからその時はよろしく頼むよ」
「わかった」
日本政府の計らいで日本から家族が来て自分の仕事ぶりを見ていったのを機にみずきはさらに仕事に精を出すようになった。なお、父の仕事は貿易会社社員だったから、娘が支えているマグチッタの視察も兼ねていたのは言うまでもない。母もかつては日本人学校の教師を務めた経験があり、もしこっちにそれが開設されれば、家族みんながマグチッタに住むことになるだろうと考えた。
ちなみに、両親はみずきの孫であるレイチェルとはすでに日本のマグチッタ大使館で会っている。髪こそ銀髪だが、背格好は飛ばされて行方不明になった当時のみずきとそう変わらないこともあって家族にみずき本人と勘違いさせてしまったほどレイチェルはそっくりだったので、彼女はみずきの家族と、日本に来て以来仲良くしている。
――移転歴2年8月21日――
「あー。疲れた。式典なんぞより友達と遊びたかったなあ。まあ、王の名代という仕事で来ている以上、国賓と同じ扱いだから無理もないか。今度来るときはもっとゆっくりしたいな」
みずきは移転式典に参列するため日本に久方ぶりに帰国することになった。国内問題でアンソニーが忙しいためその名代としてである(なお、彼女が待ちわびていたポルトマーレ~アルカミ―シュロス間の鉄道部分開業式典には副市長とアンソニーが参列した)。本人は堅苦しい式典そのものよりも家族や友人との再会を目的としていたが、“名代”という役割のおかげで家族はともかく友人と接する時間はほとんどなかった。
なお、彼女が通っていた東都女子大学での講演(休学状態にあったためいずれ復帰したいとの本人の希望で復帰に備え、2年次分の失った単位の一部を補てんする名目で企画)が実施され、錬金術の話やマグチッタについての紹介が行われた。その後、今年秋に市長としての任期が満了となり、日本に戻ってくると翌年春から復学して、話題になった。卒業後には市長在任時に建設が行われていた国立錬金術学校が開校するのに合わせて帰国し、9月の開校に備えた準備に奔走し、初代校長となった。
――同じころ 岐阜県各務ヶ原空軍基地――
各務ヶ原空軍基地は試作機のホームベースとなっている基地である。現在、もうすぐ退役が迫る鳳翔(元米空母ミッドウェー)に代わる次期空母の建造に向けて、艦載機となる予定のハリアー国産化プロジェクトが進められていた。このプロジェクトはハリアーのエンジン、機体構造調査のため、予備機のうちの数機を部隊から引き抜いて分解したり、飛行試験を行ったりしてパイロットの養成や飛行特性の調査を行い、解析終了後には国産機の製造を開始するものとしていた。
また、国産となる次期空母は、タラワ級揚陸艦をベースとするスキージャンプ式空母と決定されたが、この艦は、E-2Cを運用することが出来ず、早期警戒能力が落ちる。
そこで、E-2にSTOL能力を与えることになり、ハリアー同様、ここ各務ヶ原で、エンジンやフラップの強化、RATOの装備により短距離離着陸を可能とした、改修型E-2の運用試験が行われていた。
なお、移転歴5年に横須賀で建造開始が予定されているこの次期空母でも、ベースとなるタラワ級の揚陸艦機能は残され、ウェルドックには2隻のLCAC、もしくは4隻のLCMが搭載されることになっている。
格納庫面積の拡大、アングルドデッキの装備などに合わせて艦そのものも拡大され、全長288m、幅58m、50機程度の艦載機を持つ大型空母となることが予定されていた。
一方で、CATOBAR型の空母である鳳翔は、タラワ級を改設計した扶桑級航空母艦1番艦扶桑の就役に伴い、移転歴9年に予備艦入りとなった。以後、呉を中心に活動していたが、移転歴10年、2番艦山城の就役と共に、旧在日米軍将兵や海上自衛軍の将兵に惜しまれながら退役し、記念艦として横須賀に保管されることになった。
やっと、日本が転移して1年となりました。いよいよ、ここからは日本は新たな世界での生活を本格化させていくことになります。日本の様々な製品の国産化ラッシュや日本との交易で変わっていったマグチッタについてもっと書き込んでいきたいなと思います。あと、みずきや沢路くんらを中心にもっと人物に迫れるよう頑張っていきたいと思います。
これからも本作をよろしくお願いしますね。それでは、また次話でお会いしましょう
P.S. 指摘を受け、新空母はCATOVLではなくスキージャンプとしました。あと、後半部分を改訂させていただきました。
12/9/17 うっかりハリアーの部分を消してしまいました。一応、書き直しましたが、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。
12/9/19 時系列整理の結果、タラワ級改設計艦の建造期間が短すぎると感じ、後半部分を再度変更しました。お騒がせしてすみません。