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呪いのエロ人形

作者: 高杉 透

 まず、納豆を買いましょう。


 間違っても、スーパーで売っているパック詰めの納豆ではいけません。



 ワラです。



 ワラに包まれた本格的な納豆を買いに行きましょう。


 ここで重要なのは、できるだけ怪しげな仕草で納豆を買うことです。


 ほら、店員さんの視線が突き刺さるでしょう?


 ゾクゾクゾクっとしませんか?



 それはまさしく快楽への入り口です。



 購入した納豆はフトコロに入れて、大事に持って帰りましょう。


 西の空を仰ぎ見て、重い溜め息など落としてみてください。


 真っ赤に燃える夕陽を背負い、コートの裾を翻して歩き出しましょう。


  

 道行く人の視線が痛いですよね?



 ゾクゾクゾクっとしたら、成功です。


 家に着いたら、玄関の扉はできるだけゆっくりと閉めてください。


 あなたの存在を家族に気付かせては失敗です。


 靴を脱いだら、サクサクサクっと階段を上がりましょう。



 忍びの術です。



 忍者になるのです。


 そして自室の扉は後ろ手に閉めましょう。


 背後に気配はありませんか?


 なければ成功です。


 しかし、ここで焦ってはなりません。



 ラジオ体操です。



 あなたはこれから多大な集中力を要する作業に取り掛からねばなりません。


 ラジオ体操をして、心と体をリラックスさせましょう。


 BGMが無ければ、鼻歌でけっこうです。


 心身ともにリフレッシュしましたか?


 では、ワラ人形を作ってください。


 ここはサクサクサクっとお願いします。


 

 中身の納豆はスタッフにおいしくいただかせましょう。



 では、いよいよここからが本番です。


 まず、縄を用意いたします。


 縄の種類はお好みで。


 麻縄が最も好まれる傾向がございますが、個人的には赤い紐がおススメです。



 エロいから。



 では手に持った紐、もしくは縄を二重にいたします。


 輪になった方に、結び目を作ってください。


 頭の大きさを考慮し、決して首を絞めるようなキツさにしてはいけません。


 次に出来あがった輪を人形の首にかけます。


 長さの調整はよろしいですか?


 最も視覚的に官能的だと思える角度を追求いたしましょう。


 ここで一曲。


 結んで開いて手を打って結んで……



 まーた開いて♪



 開いた「人形の」股の間に紐と通します。


 首の縄から股までの間に、結び目をお好みで作っておいてください。


 「人形の」股のところに通した縄は、ふしだらなことを考えながら結び目を作りましょう。


 もちろん、アソコとアソコとアソコです。


 人形を裏返し、首に通した縄に紐を通します。


 そして紐を一本ずつ左右に開き、わきの下を潜らせます。


 わきを通した紐を、あらかじめ作っておいた結び目のところに通していきます。



 亀の甲羅が現れましたよ。



 芸術的なエロさが垣間見えるように、縄の角度はしっかり調整してください。


 残った縄は後ろで結んで終わりです。


 余りの紐で「人形の」腕を縛ってもけっこうです。


 出来あがりました。



 呪いのエロ人形です!



 しっかり観賞したら、次に自分の髪の毛を1本抜いてください。


 ぷちっと。


 少し痛いですが、我慢しましょう。


 すべては快楽のためです。


 抜いた髪の毛は、人形の中に押し込みます。


 続いて針を取り出しましょう。


 キラリと鈍く光るその先端をしっかり眺めたら、人形の胸部あたりを狙って……。



「はうっ!!」



 男にとって、何の必要性があるのか分からないあの器官を絶妙な力加減で突き刺します。


 その瞬間、自分の胸あたりに、ジンと痺れる甘い痛みが走りませんか?



 気のせいです。



 自分自身にやるのが怖いから、自分に見立てた人形を虐めているのです。


 もう片方の意味不明な器官も突き刺しましょう。


 擬似的な甘い痛みをしっかり味わってください。


 そして針をいったん目の高さに掲げます。


 蛍光灯の光に、その先端の鋭さをしっかりと強調させたら、人形へ向かって降ろします。


 ゆっくりと、ひたすらゆっくりと胸から「人形の」股の方へと針を移動させましょう。


 いよいよの時です。


 気合いを込め、深呼吸をして……


「こらっ!! あんた、夕飯だってさっきから何回も言ってるでしょうが!!」



 は、母親が登場しました!



 部屋のドアが開けられたその瞬間、ホームセンターで購入したキャスター付きのイスがまるで死刑に使われる電気椅子に変わったように、ボクの体が激しく跳ね上がりました。


「まったく、いい歳してグダグダグダグダ! こんな時間からカーテン閉め切って、何


をしてるの!?」


 慌てて呪いのエロ人形を背後に隠します。


 秘密の行為を見られたという苦痛と屈辱で、全身から冷や汗が流れ出しました。


 こういう状況での息子の心情はただひとつ。


「何でもいいから、早く出て行ってくれ」


 それだけです。


 いくらこの人の股から産まれた息子とは言え、プライバシーというものを少しは考慮してもらいたいと思うのはボクだけでしょうか。


「ほらっ! さっさとゴハン食べなさい!!」


 そう言って、母親は何も見ることなく出て行きました。


 ほっと一息。



 そしてボクは命令に従います。



 それにしても、母親から与えられる苦痛は苦痛でしかなく、屈辱は屈辱のまま快感に昇華しないのはなぜなのでしょう……?

ここまで読んでくださった方に心より感謝申し上げます。


……。


ホラー系コメディということにしておりますが、むしろコレ、8割方エッセイです。


もうひとりの自分、あるいは本当の自分の姿です。


よって、主人公の名前は「透くん」といたしました。


……いろいろゴメンナサイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ~なんか読んでいたら、昔 弟がエロビ見てハッスルしてたの思い出しました。 あれは…かなり気まずかったです(笑) さすがに謝りましたけどね! なんだかんだで面白かったです。
[一言] 『呪いのワラ人形』から、誰もが一度は考えるタイトル。 コメディだけど、人形を自分に見立てて虐め、興奮するあたりはまさしくホラーですね。 お母ちゃん登場が最大の恐怖です。(大爆笑でしたがww)…
2012/01/06 13:51 退会済み
管理
[一言] 拝読しました。 最大のオチは「八割がたエッセイ」でしょうか。 亀甲縛りになじみがないので、イマイチ具体的に想像ができなかったんですが、あれ、気持ちいいものなんでしょうか? 以前にもとあるなろ…
2012/01/04 08:58 退会済み
管理
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