プロローグ
ジリリリリリリリrr――――
部屋の中で耳障りな音が鳴り響く。ここ何年も聞き続けてきた音。
どれだけ生活に慣れても、この音だけはどれだけたっても慣れることはない。
「まあ、慣れたら慣れたで起きれなくなるから困るんだけどね」
目を覚ますと、普段と違う見慣れない天井が目の前にあった。
それも当然。つい昨日引っ越してきたところだからだ。
引っ越しと転校が続いていることを不憫に思った両親が高校生活の間はそういうことがないようにと一人で住む部屋を取ってくれたのだ。不安がないといえば嘘になるが学生にとって一人暮らしは嬉しいものだ。
この部屋(マンションの1室)のことは何も聞いてないけど、新築なのかピン穴1つない真っ白な壁が広がるこの部屋は贅沢と言っていい。
――カチッ
鳴り続けていた目覚ましを止めて起き上がる。
今日から高校生活が始まる。そう長いこと引越しの余韻を噛み締めていては、遅刻してしまう。
とは言っても引越ししてからの登校初日。いつもよりかなり時間に余裕を持って起きてきた。昨日買ってきた食パンを焼いてゆっくりテレビを見ていても十分間に合う。
ということで、いつもどおりテレビをつけてパンを焼く。
テレビの中では女性アナウンサーが難しい内容の原稿読み上げている。
このニュース番組、お堅いトピックが多くて中高生で見ている人は少ないらしいが、俺はこの番組を見続けている。
『続いてのニュースです。け、経営不振の続いていたアメリカ最大手のZMは日本の企じょ、企業高円寺インダストリーズが買収することで合意しました。それに伴いーー』
不純な動機だが、この女性アナウンサーがたまに噛んだりしているのを見るのが何ともいえないのだ。
「おっと、いけね」
アナウンサーに見蕩れてパンが焼けているのに忘れてしまっていた。
冷えて固くなったパンをかじりながらテレビ内の時計を見ると――
「マジかよ」
デジタル時計は『7:52』を示していた。
学校までは歩いて20分。
今すぐ出れば間に合うが早起きした意味が無くなり胸が痛い。
がっくりと重くなった体を動かして、靴を履くため玄関に行く。
扉を開けて外に出る。
鍵を閉めてからまだ部屋の前に表札を貼っていなかったことに気付くと、鞄から新品の表札を取り出し扉の横に貼りつける。
苗字だけじゃなく、名前も入れた正真正銘自分だけの表札。
貼ってから少し離れて、ずれていないか確認する。
『和道和仁』
そして誰にも聞こえない声で呟いた。
「行ってきます」
新たな生活の期待と不安はひとまず胸にしまい、初日から遅刻のないように急ぎ足で学校に向かうの。
俺は小走りで学校に駆けていく。