最強勇者なのに、人間関係がしんどくて辺境に逃げたら元仲間が追ってきます
俺は今、魚を焼いている。
川べりの平たい石を並べ、その上に網を置き、さっき釣った銀鱗マスをじゅうじゅう言わせている。塩は控えめ。皮はぱりっと。中はふっくら。
完璧だ。
異世界に転生して三年。魔王討伐から一年。世界を救った英雄としての俺の結論は、いろいろあるけど、いちばん大事なのはたぶんこれだった。
人は多すぎると疲れる。
王都は人が多かった。城はもっと多かった。
期待が多かった。視線が多かった。恩義が多かった。好意が多かった。ついでに面倒も多かった。
だから俺は逃げた。
いや、もっと正確に言おう。
俺は“人間関係をリセット”した。
それは地球にいたころからの、あまり胸を張れない癖だ。
スマホの連絡先を全部消したことがある。学生時代の友達のグループを黙って抜けたこともある。バイト先を辞めたあと、誰のメッセージにも返事をしなかったこともある。前の会社を辞めたときなんて、引っ越し先を誰にも言わなかった。
悪いやつではなかったと思う。
ただ、ある日ぷつっと切れるのだ。
ああもういいや、全部まっさらにしたい、って。
で、その癖は異世界に来ても治らなかった。
王都から千二百キロ離れた辺境の村、ミレア。
ここで俺は「カイ」という偽名で暮らしている。木を切り、魚を釣り、ときどき畑を手伝い、夕方には川辺で飯を食う。
最高だ。
「……カイ兄ちゃん!」
村の入り口のほうから、子どもの叫び声が飛んできた。
「また空が変!」
「変ってなんだよ」
嫌な予感しかしないので、俺は焼き魚をひっくり返しながら聞き返した。
「なんか、紫!」
終わった。
俺はゆっくり立ち上がって空を見た。
西の空に、でかい魔法陣が開いていた。紫色。金の縁取り。中心でぐるぐる回っているのは王立大魔導院の紋章だ。
見覚えしかない。
「リリア……!」
魔法使いの女の子。いやもう女の子って歳でもないか。十九歳だし。
俺が魔王討伐の旅で出会い、なんだかんだ恋仲っぽくなった天才魔導士リリア・フェルン。あいつの探査魔法だ。
しかも今回は、空間共鳴型の広域走査術式。
国ひとつぶんを舐めるように探す、だいぶ大人気ないやつである。
村の子どもたちが「うわー、きれー」とか言っている。
きれーじゃない。あれは俺の平穏に対する宣戦布告だ。
「カイ兄ちゃん、知り合い?」
「いや、知らない。空の趣味が派手な人だ」
「変な人?」
「ものすごく変な人」
俺は魚を布で包み、荷物をまとめ、三歩で荷馬車の陰に隠した。
その瞬間、魔法陣の中心から細い光が一本、ぴしっと地上へ伸びた。
まっすぐ、こっちへ。
「見つけたあああああああああああっ!!」
空から拡声魔法の声が降ってきた。
村人たちがびくっと跳ねる。
「やっぱ知り合いじゃん!」
「違う! たまたま叫び方に聞き覚えがあっただけだ!」
俺は反射的に飛行魔法を発動した。
足元に風が渦を巻き、体がふわりと浮く。
そのとき、森のほうから矢が飛んできた。
矢といっても殺傷用じゃない。先端に銀の鈴がついていて、命中すると位置情報をずっと鳴らし続ける、最低の追跡矢だ。
俺は空中で身をひねって避けた。
「外した」
森の陰から、薄緑の髪が揺れた。
エルフの少女、セレスティア。長い耳。無表情。森と風を読むのが異様にうまい。旅のあいだ、何度も命を救われた相手だ。今はたぶん、俺の社会的死を狙っている。
「次は当てる」
「当てるな!」
さらに道の向こうから地鳴りがした。
「おおおおおおい相棒おおおおおお!!」
来た。
来やがった。
全身鎧の大男が、馬より速く走ってくる。
ガルド。戦士。親友。信頼のおける男。笑顔がまぶしい。声がでかい。追跡に向いていない見た目のくせに、気配を消さずに最短距離で現れるタイプの厄介さを持つ。
「見つけたぞおおおお!」
「だからなんで毎回そんな嬉しそうなんだよ!」
「再会は喜ぶものだろうが!」
喜ぶな。追うな。帰れ。
そして最後に、村の入口へ豪奢な馬車が止まった。
ドアが開き、白銀のドレスの裾が見える。
俺は頭を抱えた。
「アルシア姫まで来てるのかよ……!」
国王の娘。頭がいい。気品がある。根性もある。国の事情も、人の気持ちも、だいたい見えてしまう人だ。
そして見えてしまうぶん、諦めが悪い。
姫は村を見回し、俺を見つけると、上品に片手を上げた。
「ごきげんよう、勇者様」
「ごきげんようじゃないんですよ」
「一応、村の皆さんの前では穏当に始めようかと」
「その配慮を追跡自体に使ってください」
リリアの声が空から降る。
「アキト! 今度こそ逃がさないから!」
「名前を呼ぶな! 偽名生活が終わるだろうが!」
村の子どもがぽかんとして俺を見る。
村長も見る。
魚をくれたおばあさんも見る。
まずい。これはまずい。
カイとして築いた平穏な人間関係が、アキトとしての過去に飲み込まれる。
俺は空高く飛び上がった。
「悪いみんな! 焼き魚は好きに食ってくれ!」
「カイ兄ちゃん何者!?」
「ただの釣り好きだーっ!」
そうして俺の第二十七回異世界関係リセット生活は、わずか三週間で終わった。
*
俺の名前は秋人。三十二歳。
地球では会社員だった。趣味は釣り。休日に防波堤で足を滑らせ、海に落ちて死んだ。
目が覚めたら、剣と魔法の世界だった。
よくある話だ。
少なくとも、転生してから読んだ勇者伝承とか吟遊詩人の歌では、わりとよくある扱いだった。やたら親近感がわいた。
ただし、俺の場合、能力がちょっと盛られすぎていた。
剣を握れば魔力が爆発し、魔法を使えば城壁が消し飛び、飛ぼうと思えば飛べた。治癒も結界も強化も索敵も、だいたい全部できた。
最初はそりゃ嬉しかった。
地球で冴えない会社員だった男が、異世界で無双。ダンジョン攻略。魔王討伐。英雄扱い。酒場で奢られ、城で歓迎され、女の子に好かれ、王様から「娘をどうだ」とまで言われる。
人生大逆転ってやつだ。
でも、人間は贅沢だ。
そのうち俺は、英雄として求められ続ける生活に、じわじわ息苦しくなっていった。
朝。
姫から政務の相談が来る。
昼。
リリアが新魔法の実験に付き合えと言う。
午後。
セレスティアが森を散歩しようと無言で待っている。
夕方。
ガルドが訓練しようぜ!と木剣を持って現れる。
夜。
国王が晩餐に呼ぶ。
寝ようとすると、各方面から「明日は空いてる?」が飛んでくる。
いや、全員いい人なんだ。
そこが余計にきつい。
悪人に絡まれているなら切り捨てればいい。
でも、善意と信頼と好意で囲まれると、逃げる理由を説明しづらい。
しかも俺は、魔王を倒してしまった。
世界を救った男に対する期待は、だいたい世界規模になる。
街を歩けば手を振られ、酒場に行けば肩を組まれ、地方貴族からはぜひうちにも来てくれと招待状が積まれ、恋愛関係はなぜか整理されるどころか増える気配を見せ始めた。
ある日、城のバルコニーで、俺は思った。
あ、無理だ。
それは別に劇的な絶望ではない。
静かな断念だ。
換気の悪い部屋に長くいたときみたいに、気づけば息が浅くなっていた。
誰が悪いわけでもないのに、ただ全部を一回切りたくなった。
だから俺は手紙を一枚だけ残して、飛んだ。
『探さないでください』
と書いた。
今思えば、あれは薪に油を注ぐ文面だった。
*
二十七回目の逃亡先は、港町ヴァレントだった。
俺は髪を黒く染め、眼鏡型の幻術具をかけ、港で荷運びの仕事を始めた。偽名はまた変えて「ロイ」。平凡そうな名前である。
海のある町はいい。
潮の匂いがするし、人がよそ者にそこまで興味を持たない。みんな自分の商売で忙しいからだ。
三日ほど平穏が続いた。
四日目の朝、港の食堂で魚スープをすすっていると、向かいの席にごつい男が座った。
「うまそうだな」
「……」
顔を上げる。
ガルドだった。ひげをつけていた。
似合っていない。
むしろ存在感が増している。
「なんでわかった」
「いや、魚スープを前にすると目が少し細くなるだろ、お前」
「気づくか普通」
「親友だからな!」
そう言って豪快に笑うので、食堂の客がびくっとした。
俺はスプーンを置いた。
逃げるべきか、話すべきか、三秒考えて、後者を選んだ。
「……他のみんなは?」
「近くにはいない。俺だけだ」
「ほんとか?」
「今回は、だ」
“今回は”ってなんだ。怖いな。
ガルドはスープを二杯頼み、ひとつを俺の前に押した。
こういうところ、昔から妙に気が利く。
「なあアキト。ひとつだけ聞かせろ」
「なんだよ」
「俺たち、そんなに嫌だったか?」
その言い方をされると、弱い。
俺は目をそらした。
港の外では、帆船のマストが風に鳴っていた。
「嫌じゃない」
「じゃあなんで」
「重かったんだよ」
ガルドが黙る。
「お前が悪いとか、姫が悪いとか、リリアがしつこいとか、セレスが怖いとか、そういう話じゃない」
「最後のは少し気になるが」
「気にするな。事実でも今は置いとけ」
俺はスプーンでスープをかき回した。
「みんな俺に期待してた。信じてた。好いてくれてた。感謝もしてくれた。だからこそ、断れなくなったんだ」
「断ればいいだろ」
「断るたびに、ちょっとずつ悪いやつになる気がした」
「……」
「今日は休みたい、ひとりでいたい、誰にも会いたくない。それを言うたびに、英雄のくせにとか、恋人候補のくせにとか、姫の婿候補のくせにとか、親友だろとか、いろんな肩書きが俺の前に立ってきたんだよ」
ガルドは眉を寄せた。
その顔は、魔物と戦うときより難しそうだった。
「俺はたぶん、人よりそれが苦手なんだ。つながりが増えると、嬉しいより先に逃げたくなる」
言った。
初めて、ちゃんと言った気がした。
ガルドは腕を組んだまま、しばらく黙っていたが、やがてため息をついた。
「……それ、本人たちに言ったか?」
「言えるか」
「そこだろ」
「そこなんだよ!」
思わず机を叩いたら、食堂のおばちゃんににらまれた。
ガルドは頭をかいて、困ったように笑った。
「姫は怒ってたぞ」
「だろうな」
「リリアは寝ずに魔法組んでた」
「だろうな」
「セレスは森じゅうの鳥を味方にしてた」
「こわ」
「でもな、みんな、捨てられたと思ってた」
「……」
「お前が嫌になって逃げたんじゃなくて、自分たちが嫌われたと思ってた」
それは、少し痛かった。
俺は逃げた。
でも、逃げるときに後ろに残る感情までは、ちゃんと想像していなかった。
たぶん地球でもそうだったのだ。
連絡先を消した相手にも、生活があった。驚きも、怒りも、寂しさもあったはずだ。
俺はいつも、自分が潰れないことだけで手いっぱいで、そこから先を見ないふりをしてきた。
「……戻れって言いに来たのか」
「半分はな」
「半分は?」
「殴りに来た」
「帰れ」
ガルドが笑う。
俺も少しだけ笑った。
その瞬間、食堂の窓の外で空が紫に光った。
俺たちは同時に顔を上げた。
「ガルド」
「悪い。発信機、つけられてたかもしれん」
「なんでそんなことを爽やかに言うんだよ!」
窓の外に巨大な魔法陣。
港の塔の上に、リリアが立っていた。杖を振りかざし、目が完全に据わっている。
「見つけたぁぁぁぁぁ!」
「だから声がでかい!」
別の屋根の上にはセレスティア。
路地の向こうには王家の紋章入り馬車。
アルシア姫が静かに扇を閉じた。
囲まれた。
「ガルド、お前、半分どころか八割ぐらい囮じゃねえか!」
「いやあ、結果的にはそうなった!」
「笑うな!」
俺は窓から飛び出した。
*
港を駆け、屋根を飛び、船のマストを足場にして、海へ出る。
後ろから魔法が飛ぶ。
前から鳥の群れが誘導する。
横からガルドが「そっちは行き止まりだ!」と教えてくる。敵なのか味方なのかはっきりしろ。
俺は海上すれすれを飛び、沖の小島へ降りた。
潮風の強い、岩しかない島だ。
追ってきたのは四人全員だった。
リリアは肩で息をしながら杖を突きつける。
「今度という今度は本気で怒ってるから!」
セレスティアは無表情で矢をつがえる。
「次は鈴じゃない」
「物騒さが増してる!」
ガルドはぜえぜえ言いながら笑う。
「さすがに海上はきついな!」
「お前はなんで楽しそうなんだよ!」
そしてアルシア姫だけが、波打ち際まで歩いてきて、静かに言った。
「勇者様」
「……」
「いえ、秋人さん」
その呼び方に、みんなが少しだけ黙った。
「あなたが疲れていたことに、気づけなかったのは私たちの落ち度です」
「姫」
「ですが、だからといって何も言わず消えられるのは、たいへん困ります」
困る、の言い方が王族だ。
でも、その目はちゃんと怒っていた。
「国王は泣きました。リリアは三日眠りませんでした。セレスティアさんは鳥と鹿と狼の連絡網を作りました。ガルドは各地の酒場で三十七人と友達になりました」
「最後だけ役に立ち方が雑すぎるだろ」
「全部、あなたを探すためです」
俺は何も言えなくなった。
リリアが一歩前に出る。
怒っているくせに、少し泣きそうな顔だった。
「……ねえ、逃げるなら逃げるで、ちゃんと言ってよ」
「言えなかった」
「言ってよ! そしたら、もう少しマシな魔法にしたのに!」
「お前の問題はそこじゃない!」
セレスティアが矢を下ろした。
「私は、待つのは得意。でも、いなくなるのは困る」
「……ごめん」
「三か月、森じゅう探した」
「ごめんって」
ガルドが腕を組んでうなずく。
「つまりお前は、ひとりの時間が欲しかったんだな」
「ざっくり言うとそうだ」
「なら最初からそう言え」
「言えない人間もいるんだよ!」
俺はとうとう叫んだ。
「嫌いになったわけじゃない! お前らが重かったんだ! いや違うな、重いっていうか、近すぎたんだよ! 俺、ずっと誰かの期待に応え続けるの無理なんだよ! たまには放っといてほしいし、釣りしたいし、木も切りたいし、知らない村で静かに暮らしたい日もある! 英雄とか勇者とか婿候補とか、そういうの全部脱いで、ただの俺に戻りたいときがあるんだよ!」
波の音がした。
四人とも黙っていた。
やってしまった、と思った。これはたぶん、かなりひどい言い方だ。
でも次の瞬間、アルシア姫が小さく息を吐いた。
「……そういうことでしたか」
「え?」
「勇者様は、役職過多だったのですね」
「役職過多」
「処理いたします」
姫がさらっと言った。
「まず王都に戻ったら、公務への出席は月二回まで。英雄としての式典参加は事前申請制。面会は予約制にしましょう」
「えっ」
「恋愛関係は」
とリリアが手を挙げる。
「週ごとの持ち回り……は感じ悪いかな」
「感じ悪い以前になんで制度化しようとしてるんだ」
「じゃあ自己申告制?」
「どこに申告するんだよ!」
「私が帳簿を作る」
とセレスティアが真顔で言った。
「作るな!」
ガルドがぽんと手を打つ。
「よし、定休日を作ろう!」
「定休日」
「毎週二日は誰も会いに行かない!」
「それ、店みたいだな」
「あと、年に一度は長期休暇! 好きな場所で釣りしていい!」
「……」
なんだそれ。
なんだその、妙に現実的な解決案は。
俺は拍子抜けした。
もっと責められると思っていた。泣かれるか、怒鳴られるか、剣を突きつけられるか、その全部くらいは覚悟していた。
でも目の前の連中は、俺の面倒くさい本音を聞いた上で、わりと本気で対策を考え始めている。
姫が言う。
「誰かとつながることと、常に応答可能であることは違います」
「……」
「そこを混同していたなら、私たちも反省すべきでしょう」
リリアもこくこくうなずく。
「探査魔法は緊急時だけにする」
「今までが緊急時じゃなかったのか?」
「全部緊急だと思ってた」
「重い!」
セレスティアは少し考えてから言った。
「会いたいときは、鳥で聞く」
「聞いてから来るのか」
「返事がないときは来ない」
「えらい」
ガルドは胸を張る。
「俺はいつでも行く!」
「お前だけ改善しろ」
「えっ」
思わず笑ってしまった。
すると四人とも、少しだけほっとした顔をした。
ああ、そうか。
こいつらもずっと、どう扱えばいいのかわからなかったのだ。世界を救うくせに急に消える、扱いづらい男を。
「……戻るよ」
俺は言った。
「でも条件がある」
「言ってください」
と姫。
「俺はたまに消える。ちゃんと行き先は言う。でも、追うな」
「緊急時は?」
とリリア。
「世界が滅びそうなら追え」
「基準がでかいな」
「勇者の基準なんてそんなもんだろ」
セレスティアがこくりと頷いた。
「では、世界が滅びそうでない限り待つ」
「頼む」
「ただし、魚は送る」
「なんで」
「好きだから」
「ありがたいけど重いんだよなあ!」
ガルドが笑い、姫まで口元を押さえた。
夕陽が海に落ちていく。
俺はその光を見ながら、ようやくひとつ、ちゃんとわかった。
リセットって、たぶん消去じゃない。
俺はずっと、全部を切ることだけをリセットだと思っていた。
でも本当は、距離を取り直すことだって、たぶんそう呼べる。
全部消さなくても、息ができる形に並べ替えることはできるのだ。
まあ、それをもっと早く学べよという話ではあるんだけど。
*
それから一か月後。
王都の外れ、湖のほとりに小さな家が建った。
俺のための家らしい。王家持ち。無駄に立派。やめろと言ったのに、なぜか釣り用の桟橋までついている。
表札にはこう書かれていた。
『勇者休養所 兼 無断失踪防止拠点』
字はリリア。
とても腹が立つ。
俺は桟橋に座って釣り糸を垂らした。
湖面がきらきら光る。風は穏やかだ。鳥の声がする。今日は誰も来ない――予定だ。
素晴らしい。
本当に素晴らしい。
そう思った瞬間、背後で扉が開いた。
「秋人さん、お茶をお持ちしました」
姫の声。
窓の外からひょこっとリリア。
「新しい転移符、置いとくね!」
屋根の上からセレスティア。
「魚、三匹」
庭の門を壊しながらガルド。
「訓練しようぜ!」
「定休日って何だったんだよおおおおおおおお!」
俺の叫びが湖に響く。
白い鳥が一斉に飛び立った。
たぶん俺の異世界関係リセットは、今日もきれいには成功していない。
でもまあ。
前よりは、だいぶ息がしやすい。
だから焼いた魚くらいは、四等分してやってもいいかと思う。
思うだけで、毎回すんなりとは渡さないけど。
英雄にも、そういう面倒くさい自由くらいはあっていいだろう。




