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僕の心臓が止まった日  作者: 秋山 冬夏


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第9話 最初の干渉

「開けろよ! いるんだろ!」


ドンドン、ドンドン!

ノックは叩く音から、殴る音へと変わっていた。

男の苛立ちが頂点に達している。


あきほは廊下の隅にうずくまり、耳を塞いでいた。

「お願い、帰って……」と譫言うわごとのように繰り返している。


その姿を見た瞬間、僕の中で何かが弾けた。


恐怖よりも、絶望よりも、もっと熱い感情。

純粋な「怒り」が、冷たい幽霊の体を駆け巡った。


ふざけるな。

僕の大切な人だ。

僕が命をかけても守りたかった人だ。

それを、お前のような奴が、土足で踏み荒らしていいわけがない。


『触るな……あきほに触るなあああああっ!』


僕は全身全霊で叫んだ。

喉ではなく、魂そのものを震わせて。

存在のすべてを「拒絶」のエネルギーに変えて、男に向かって叩きつけた。


バチッ!!


強烈な破裂音が鳴り響いた。


「うわっ!?」


ドアの外で、男の悲鳴が聞こえた。

同時に、廊下の天井にある蛍光灯が激しく明滅し、ジジジジ、と不穏な音を立てる。


それだけではない。

玄関の下駄箱の上に置いてあった鍵束が、見えない手に弾かれたように宙を舞い、床に叩きつけられた。


ジャラアァン!


静寂な室内に、金属音がけたたましく反響する。


「……え?」


あきほが顔を上げた。

揺れる蛍光灯。床に落ちた鍵束。

地震ではない。風でもない。明らかに異様な現象。


ドアの外の気配が変わった。


「な、なんだよ今の音……電気?」


男が怯んだのが分かった。

古いアパートだ。漏電か何かだと思ったのかもしれない。あるいは、本能的に「何か」を感じ取ったのか。


「……チッ、気味悪ぃな」


舌打ちの音。

やがて、遠ざかっていく靴音。

気配が消えるまで、僕たちは息を止めていた。


「……帰った、の?」


あきほが震える声で呟き、恐る恐る立ち上がる。

彼女は床に落ちた鍵束を拾い上げた。

そして、明滅を繰り返してようやく安定した蛍光灯を見上げる。


「今、の……」


彼女の視線が、ふと空中で止まった。

僕が立っている場所に。

もちろん、彼女に僕の姿は見えていないはずだ。

けれど、彼女は何かを探るように、じっとその空間を見つめていた。


「かえで……?」


その一言に、僕は答えようとした。

『そうだよ、僕だ』と。


だが、声が出なかった。

急激な脱力感。

まるで血液がすべて抜かれたような、重い倦怠感が僕を襲っていた。

視界が霞み、立っていることさえ辛い。


僕はその場に膝をついた。

干渉には、代償が伴う。

僕はまだ、その意味を正しく理解していなかった。


ただ一つ分かったのは、僕にはまだ、彼女を守るための「牙」が残されているということだけだった。


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