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僕の心臓が止まった日  作者: 秋山 冬夏


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8/11

第8話 招かれざる客

シャワーを浴びて少し顔色が戻ったあきほは、休日の遅い朝食――といっても、コンビニのおにぎりを一つ――を口にしていた。


スマホの着信は止んでいた。

だが、それが逆に嵐の前の静けさのように感じられ、僕は落ち着かなかった。


あの男は、ただの遊び人じゃない。

昨夜の、あきほを見る目。

あれは所有欲に飢えた捕食者の目だった。


『あきほ、今日は家から出ないほうがいい』


僕は根拠のない不安に駆られて、彼女に語りかける。

彼女はぼんやりとテレビのニュースを眺めている。

画面の中では、どこかの政治家が汚職について言い訳をしていた。


ピンポーン。


唐突に、電子音が部屋の空気を切り裂いた。

インターホンだ。


あきほの肩がビクリと跳ねる。

彼女は恐る恐る玄関の方を見た。

宅配便の予定はないはずだ。友人が来るなら連絡があるはずだ。


彼女は足音を忍ばせて玄関へ向かい、ドアスコープを覗き込んだ。


次の瞬間、彼女は息を呑んで後ずさった。

顔から血の気が引いていく。


「……なんで」


彼女の唇が震えている。

僕もドアをすり抜けて、外の様子を確認した。


そこにいたのは、工藤だった。

昨夜と同じ、仕立ての良いスーツ。片手にはコンビニの袋を提げている。

整った顔立ちで、ドアスコープ越しに「笑顔」を作っていた。


「あきほちゃーん。いるんでしょ? 電気のメーター回ってるよ」


ドア越しに聞こえる声。

明るく振る舞っているが、その声色は冷たく、湿っている。


「お見舞いに来たよ。スポーツドリンクとか買ってきたからさ。開けてよ」


嘘だ。

どうしてここが分かった?

昨夜のタクシーか? それとも、もっと前からつけ回していたのか?


あきほは口元を両手で覆い、声を殺して震えている。

鍵はかかっている。チェーンもかかっている。

それでも、薄い鉄の扉一枚隔てた先に「悪意」があるという事実は、彼女を恐怖させるには十分すぎた。


「ねえ、開けてってば。心配してるんだよ?」


ドンドン。

ノックの音が強くなる。


「無視するなよ。昨日はあんなに楽しそうだったじゃんか」


男の声から、丁寧な装飾が剥がれ落ちていく。


『帰れ! 帰れよ!』


僕はドアに向かって叫んだ。

あきほを守りたい。

その一心で、僕は男の前に立ちはだかる。


だが、僕は幽霊だ。

男は僕の体をすり抜けて、ドアノブに手をかけた。


ガチャガチャ。

鍵がかかっていることを確認するように、ノブが乱暴に回される。


その金属音が、あきほの悲鳴のように響いた。


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