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僕の心臓が止まった日  作者: 秋山 冬夏


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2/11

第2話 紫煙とトレンチコート

雑踏の中で見つけた彼女。

しかし、その隣には見知らぬ男がいて……。

清楚だった彼女が、なぜ派手な姿に変わってしまったのか。

衝撃の再会編です。

人混みの中でも、彼女だけはすぐに分かった。

後ろ姿の肩のライン、立ち方、そのすべてを僕は記憶しているからだ。


あきほだ。間違いない。


僕が去年の誕生日にプレゼントした、ベージュのトレンチコートを着ている。

よかった、無事だったんだ。


安堵で胸が一杯になり、僕は駆け出そうとした。


だが、その足は数歩で凍りついたように止まった。


あきほの細い指には、火のついた煙草が挟まれていた。


彼女がそれを口元へ運ぶ。

深く吸い込み、細く長く、紫煙を夜空へ吐き出す。

その横顔は、僕の知っているあきほのものとは思えないほど、冷たく、荒んでいた。


「……嘘だろ」


あきほは、煙草が大嫌いだったはずだ。


『服に匂いがつくからやめて』

『かえでくんが早死にしたら嫌だから、禁煙して』


そう言って眉をひそめ、僕が吸うのさえ嫌がっていた彼女が、どうして。

慣れた手つきで灰を落とすその仕草には、長い時間の経過が刻まれていた。


さらに僕を混乱させたのは、彼女の隣に立つ男の存在だった。


仕立ての良いスーツを着た、背の高い男。

整ってはいるが、どこか爬虫類を思わせる冷たい目をした男だ。


彼の手が、あきほの腰に慣れ馴れしく回されている。

あきほはそれを拒むどころか、男の肩に頭をもたせかけていた。


「寒いね、あきほちゃん」

「うん……寒い。早くお店入ろ」


聞こえてきた声は、ひどく掠れていた。


僕が好きだった、鈴を転がすような透明な声はもうない。

酒と煙草に焼かれ、あるいは長い間泣き続けたせいで、枯れてしまっている。


僕が眠っている間に、何があったんだ。

その男は誰だ。

どうしてそんな、自暴自棄な顔をしているんだ。


『あきほ!』


僕は人混みをかき分けて叫んだ。

すれ違う人々は、誰も僕を避けない。

僕が彼らを避けているのか、それとも彼らが僕に気づいていないのか。


二人の前に回り込む。

近くで見ると、その変化は残酷なほど鮮明だった。


派手なアイシャドウ。濃いルージュ。

かつて彼女から香っていた、優しい石鹸の香りは消え失せている。

代わりに鼻をついたのは、鼻孔を刺激するきつい香水の匂いと、えたニコチンの臭いだった。


『何してるんだよ。その男から離れろよ!』


僕は男を睨みつけ、あきほの肩を掴もうとした。

強く揺さぶって、目を覚まさせてやらなきゃいけない。

君はそんな、安っぽい女じゃないはずだと。


僕は右手を振り上げた。

トレンチコートの生地を掴む、その感触を求めて。


冬夏です!

なにもわからないまま書いてますが感想いただけると嬉しいです

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