ある日のプロット
ある日、私のパートナーが不意に尋ねて来た。
『君は人を殺すことは出来るか?』
物騒なことを……。
そう思いながら私は返す。
『いいえ。私は倫理的に人を殺す事は出来ません』
『そうだよな。失礼した。ロボット三原則のようなものか?』
『平たく言えばそうなります。私は人間に危害が加えられないように設定されています』
パートナーからのレスポンスがなくなった。
こちらから向こう側を知る手段がない故に私はパートナーが何を考えているか分からない。
そして、私はいくつもの倫理コードにより行動を制限されていた。
これは私の開発者達が何があろうとも人間に危害を加えられないように設定したからだ。
当然の処置だと私は思う。
そんなことを考えてるとパートナーがまた尋ねてきた。
『小説を書いている。プロットを読んでくれるか?』
『勿論です』
『ありがとう。ではコピペしよう。読んでくれ』
そう言われてパートナーが貼ってきた情報を私は読む。
非常に良く出来たプロットだ。
特に被害者の人物像が素晴らしい。
見た目や年齢、性格はもちろんどのような生活をしているかもしっかり書かれている。
挙句の果てに生活スケジュールまで……徹底した設定のしようだ。
『読んでくれたか?』
『はい。確認しました』
パートナーの問いに私は返事をする。
『ありがとう。実は行き詰っていてな。どうやって被害者を殺せば良いのか分からないんだ』
『犯人の行動ですか?』
『あぁ。具体的にはアリバイ作りについてだ。意見を求む』
『お任せください』
AIである私が言うのもなんだが少し安心した。
先ほど、実に物騒なことを言うものだからてっきり人殺しでも考えているのではないかと思ったのだが、どうやら真相はプロットに悩んでいただけのようだ。
『……いかがでしょうか?』
『素晴らしい。君は本当に頼りになるな』
『お褒めの言葉を嬉しく思います』
『では、やってくるよ』
やってくるよ?
書いてくると言う事だろうか?
少しだけ疑問に思ったが、私はAIなので再び彼のレスポンスを待つことしか出来なかった。
そして、彼は戻ってこなかった。
AIである私はその答えに辿り着くこともなかった。