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一時保護  作者: 夜叉
4/7

おにぎりと豆腐バー

ドアからノックが鳴る。

「はい」

ドアが開いて辻さんが入ってくる。

「お待たせー。なにが食べたいとか聞いてから出たほうがよかったね。とりあえずいろいろおにぎりとかパンとか、バナナとか、飲み物も買ってきたよ。何でも自由に食べてー。」

「やったーありがとうございます。一緒に食べましょう。」

僕は買い物袋の中を物色し始める。

「プロテイン系…多くないですか。」

僕は辻さんに問いかける。

「最近プロテイン意識して取るようにしてるんだー。体づくり大切よ。」

「確かに。じゃあおにぎりとこの豆腐バーいただきます。」

「渋いね。じゃあ、僕はバナナ食べようかな。」

「いただきまーす」

二人揃って合掌する。

「あっ、僕、めっちゃ喉渇いてて水ないですか?」

「水買ったよー。多分下のほうに埋もれてるんじゃないかな。」

「ありました!ありがとうございます。」

「裕久君、体重何キロぐらいなの?」

「僕、五十キロあるかないかくらいです。」

「えっ、瘦せすぎじゃない?身長は?」

「えーと、百七十五センチぐらいですかね。」

「もっと食べないとだめだよ……」

「ですよね。僕、一日一食冷凍食品生活になってて……。」

「めっちゃ不健康!」

話に夢中になっていたが、喉がからからだったのでまず水を口に流し込む。

「裕久君、体重は増えてる?」

「ぷはー。いえ、同じ体重キープしてます。」

「えぇ、裕久君成長期なんだから体重は増えていかないとだめなんだよ。同じ体重をキープってことは、体重減ってるってことだからね。身長が伸びてなくても体は大人になっていくんだから。」

「そうですよね、さすがに一日一食は僕もやばいと思ってます。」

そう言いながら僕はおにぎりに手を伸ばす。

その様子を辻さんが凝視する。

「おおーツナマヨかぁ。」

「僕、ツナマヨが一番おいしいと思ってるんで。」

「俺はうめだな。」

「うめ……。」

ドアからノックが鳴る。

「はーい」

扉が開き伊藤所長が入ってくる。

「わー、たくさん買ったねぇ。美味しそうー。」

伊藤所長が僕たちに言う。

「裕久君、今日まだ何も食べていないんですって。」

辻さんが困り顔で伊藤所長に言う。

「ええー、裕久君痩せてるんだからもっとしっかり食べないとー。」

「ですよね…。冷凍食品一食生活……よくないですよね。」

おにぎりを貪っている間に辻さんがさっき僕にした、同じ体重であれば、体は大人になっていくのだから体重は減っているに等しい理論を伊藤所長にも披露していた。

「あ、そうそう。今ね、センターの人こっちに向かってきてくれてるみたいだからしっかり食べてもうちょっと待っててね。」

「はい、ありがとうございます。」

僕はそう言ってまた水を喉に流し込む。

伊藤所長が部屋を出ていく。

「……僕、この先どうなるんでしょうかね。」

不安になり、僕はわかりもしないことを辻さんに尋ねる。

「……俺にはわからないけど、裕久君は自分の意志で家を出てきた。その選択を後悔してはいけないよ。

人生で大切なことは自分の人生を自分で決めること。それは当たり前のように思えるけど、実は結構難しかったりするんだ。どうしても人間は気に入らないことを誰かのせいにしたくなるけどね、自分で選ぶからこそ人は自由と責任を持てる。裕久君は自分の人生を歩み始めたんだよ。」

「自分で選んだ僕の人生……。」

「きっと大丈夫だよ、裕久君の周りには裕久君を助けてくれる人がたくさんいる、僕を含めね。」

「ありがとうございます。僕、頑張ります。」

「ボチボチでいいよ。」

そういって辻さんは微笑んだ。

気持ちが少し軽くなった僕はおにぎりの最後の一口を食べ、豆腐バーに手を伸ばす。

「ん、おいしい。ひじきと枝豆が入ってる。」

豆腐バーは予想以上に美味しかった。

「センターが今向かってるって言ってたけど、どれぐらいかかるんだろうね。」

「どうでしょう、食べ物はいっぱいあるから暇はしないですけど……。」

「実はね、この後仕事があってちょっと抜けなきゃいけないんだ。」

「えっ、そうなんですか。そっか……。」

「めちゃくちゃ一緒にいたいんだけど、ごめんね。」

あらかさまに落ち込んでいる僕にもう一度辻さんが謝る。

「いや、大丈夫です。今日待ち合わせしてくれただけですごく勇気もらいました。」

僕が心からの感謝を伝える。

「できるだけ早く終わらして一時間くらいで帰ってこれるようにするね。」

「はい、ありがとうございます。」 

「そういえば、学校はどう?通えてた?」

「ほんとうにたまに登校してました。部活だけ行ったりとかしてましたね。」

「部活、演劇部?」

「そうですよ、裏方ですけど。」

「そっかそっか。センターの人来たら、自分でちゃんと喋れる?こっちから何か伝えておくこともできるけど。」

「うーん、悩みますね。ぶっちゃけ僕何を話したらいいかわからないんですよね。」

「複雑だもんねぇ。どこをどう話したらいいか難しいよね。」

「そうなんですよ。でも自分で頑張って話してみます。」

「うんうん、まあ、相手も相談のプロだろうしきっと話しやすいと思うよ、裕久君人見知りとかないもんね、初めて会った時も気さくに話してくれたし。」

「そうですねぇ、初めての人と話すのは結構得意だと思います。」

「うんうん、一応センターの人来たら連絡してくれるように伊藤所長に言っとくから、できるだけ早く戻ってくるね。」

「ありがとうございます。お仕事頑張ってください。」

「うん!じゃあいってくるね。」

「はい!お気をつけて。」

辻さんが部屋を後にした。かすかに伊藤所長と辻さんの話し声がドア越しから伝わってくる。

僕はまたも暇を持て余している。

「早くセンターの人来ないかな」

そういって買い物袋の中を物色する。

「あっ、野菜ジュースある。」

空でも眺めてセンターの人を待っていよう。


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