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一時保護  作者: 夜叉
2/7

子育て支援課

さぁ、ここからどうやってあそこに辿り着こう。

まずは僕の卒業した小学校の前を通ってこの一本道を走りきる。

よし、母はいない。走ろう。

最初に比べると速度は格段に落ちたがそれでも走り続ける。

あぁ、この駄菓子屋。小さい頃よく行っていたな、右手に百円を握りしめて。

あぁ、この一本道、小学校の頃の通学路だったな。

小学校の通学路は、わざわざ遠回りした道を毎日通わされて毎日不服だった。今ではいい思い出だ。

小学校の前を通り過ぎると横断歩道のない車道に出る。

この二車線道路は人がよく行きかう。

明らかに様子のおかしい僕は、通行人の視線の格好の的になるだろうか。

たまたまこの日は渋滞していて車の移動が止まっている。

僕は停止している車の前を通り過ぎる。反対側に渡ったらまた入り組んだ住宅街に入る。

人がいないという安心とともに、いつ母に出くわすかわからない恐怖に包まれる。

僕が目指しているのは図書館の上にある子育て支援課だ。

あそこに行けば僕を助けてくれる人がいる。きっと守ってくれる。

子育て支援課に行けばいいと教えてくれた人と朝にそこで待ち合わせをしていたのだが、

母からの束縛の間隙を縫えず、約束の時間に遅れてしまった。

もうその人はいないだろうか。でも行くしかない。

体力に限界がきて、もう走ることはできないがあと少しで目的地だ。

「はぁ、はぁ、」目的地が近くなって少し呼吸を整える。

図書館が入っている市役所の別館の前に立っている警備員が見えた。

市役所の別館に入ろうとすると

「こんにちはー」

と挨拶された。これも昔から変わらないものだ。

「こんにちは」

整えた呼吸を挨拶に使う。

別館に入った僕は左手前にあるエレベーターを無視して階段を使う。

正確に何階に行けばいいのかわからないのだ。

疲れた足でゆっくりと階段を踏みしめていく。

図書館は一階と二階に分かれており、一階が子供向けの本。

二階が大人向けの本やCDなどが置かれている。

なので二階ではない。

三階に行くとまた呼吸が荒くなった。

ここは、なんだろう。ふれあい広場と書かれている。

託児所のような場所だろうか。

もう一つ上の階に行ってみよう。

この建物は五階建てだ、つまり四階か五階のはず。

四階に行くと…なんだ。廊下は暗くなっていて人の気配がない。

子育て支援課の雰囲気ではなさそうだ。

この薄暗い廊下の先を進むのは少し怖いので先に五階に行ってみる。

五階に着くとまず目に入ってきたのは鉄柵だ。

「鉄柵?」

消去法的に五階が子育て支援課のはずなのだが、鉄柵?

一旦、階段を五段ほど下がる。

すると下のほうから一人の職員と思われる女性が階段を上ってきた。

汗だくの僕を通り過ぎて鉄柵を横にスライドさせて廊下に入っていく。

僕はどうしようかと、階段を行ったり来たりした末、鉄柵を開けようと決めた。

これが想像以上に重かった。

鉄柵を開けて、目の前にある窓口から中を覗き込むと机が並んでおり市役所の雰囲気がそこにはあった。

視線があちこちにいっていると近くにいた職員がこっちに近づいてきて窓を開けた。

「こんにちは、なにか御用でしょうか?」

尋ねられてこわばりながら僕は言う

「伊藤所長いらっしゃいますか。」

「伊藤ですね、ご予約はされていますか?」

「あっ、えっと。」

僕が戸惑っていると窓の奥の伊藤所長と目が合った。

伊藤所長が椅子から立ち、こちらに向かってくる。

安堵する僕がいる

「裕久君ー!よかった、来てくれて。辻さんから話は聞いてるよ。」

ああ、だめだ。泣きそうになってしまう。

窓口の横に続く通路からドアを通って伊藤所長と話していた職員が出てくる。

「まぁ!靴も履かずにどうしたの!」

ここで職員が靴下姿の僕の足に気付く。

「とりあえずお部屋用意してあげて。私、辻さんに連絡するわ。」

伊藤所長が携帯を取り出しながら言う。

「わかりました。こっちついておいで」

「はい」

案内してくれる職員に続きながら僕は通路の奥へと進む。


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