ハズレスキル【お味噌汁】しか持たない俺が寝言のせいで浮気を疑われている
『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』応募作です。
タイトルのキーワードは「寝言」ですが、本文内にはすべてのキーワードを盛り込んでいます。
カレンダー/ルームメイト/卒業/紙飛行機/ベランダ/散歩/プール/トレーニング
観覧車/お弁当/寝言
※三年前のなろラジ応募作「ハズレスキル【お味噌汁】しか持たない俺がデスゲームに巻き込まれた」(https://ncode.syosetu.com/n5190hj/)、
及び昨年のなろラジ応募作の続編「ハズレスキル【お味噌汁】しか持たない俺が雪山で女の子と遭難した」(https://ncode.syosetu.com/n9342in/)の主人公のその後です。
前作を読まなくても、おそらく話が分かるようにしています。
この世界では皆能力を持って産まれる。
1人1つ。殆どが、ある一点に限り筋力や知能が格段にパワーアップする特化型能力だ。
え? 炎や氷の魔法能力はないのかって?
そんなものはない。漫画の読みすぎだよ。そもそも無から有を生み出すなど、物理法則を無視している。
……まあ、実は俺自身がその極々稀な、無から有を生み出す能力持ちだが。
ところで今俺は修羅場にいる。
今までデスゲームに巻き込まれ、冬山で遭難もした俺だが、これは人生最大の危機だ。
だって修羅が目の前に居るもん。
「で? 私ってあなたの何?」
表情筋のトレーニングかと思う程にニッコリ口角を上げているのに、めちゃくちゃ迫力があるのは同棲中の彼女。大学卒業後に俺と結婚する予定だ。
その彼女の事を俺は「違うよ! あの娘はただのルームメイト!」と大声で言ったらしい。寝言で。
あまりにもハッキリした寝言だったのと、彼女がコンビニへお弁当を買いがてらの早朝散歩から帰宅したタイミングが災いした。彼女は俺が誰かとスマホで通話していたと誤解した訳だ。
俺は修羅の圧に耐えきれず壁の日めくりカレンダーをちぎり、その端を綺麗に合わせて折る。
「勿論、婚約者だ。大好きな」
「じゃあどうしてあんな事を?」
「だからそれは夢だって!」
できれば本当の事は彼女に言いたくない。俺の能力が【嘘】なら良かったのに。彼女の誤解を解きたい気持ちと昔のトラウマが観覧車のようにグルグルと俺の中で回る。無意識で折った紙はいつの間にか紙飛行機になった。ここから飛んで逃げたい。
「ふうん、夢って願望が表れるとか言うよね」
「な、違うよ! 悪夢だったんだ!」
「悪夢?」
彼女の眉間と声音が弛む。俺は観念して昔の恥を晒す事にした。
「俺の能力【味噌汁】だろ? 高校の時にそれがバレて、その、イジりっていうか」
「イジメ?」
「多分、アイツらはそのつもりじゃなかった。でも俺は」
「嫌だったのね」
「うん。俺と仲が良い奴もイジられて……夢の中で君も巻き込まれそうだったから、つい」
「そう。あなた……」
彼女の声に俺はもっと項垂れる。こんな情けない男、幻滅されただろうか。
「馬鹿ね。そういう人だから私は好きになったのに」
「え」
見ると彼女はベランダでビニールプールを広げ始めている。
「あなたはお椀!」
「あ、うん」
慌てて準備する。俺の能力は口から味噌汁が出るのだ。
「私、あなたのお味噌汁も大好き」
ふたりで足湯をしているとお椀を両手に持った彼女が言った。
なぜベランダでビニールプールを広げて足湯をしているのかは、前作の「ハズレスキル【お味噌汁】しか持たない俺が雪山で女の子と遭難した」を見て貰えればわかると思います。
今回は流石に文字数が苦しかったです。冒頭のお約束の文言を少々変え、文末の「めでたしめでたし」も入れられませんでした。
まあでも、ほのぼのものにはなったかな、と。
お読み頂き、ありがとうございました!
↓のランキングタグスペース(広告の更に下)に「5分前後でサクッと読めるやつシリーズ」のリンクバナーを置いています。もしよろしければそちらもよろしくお願い致します。