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怪奇十三話  作者: 杉勝啓
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第四話 皿屋敷の怪

今は昔


ある武家屋敷がありました。


その武家屋敷に仕えていた女中が誤って家宝の皿を一枚割ってしまいました。当主の怒りは並大抵ではありませんでした。

「この皿は先祖伝来ののもの。十枚で一揃なので、一枚欠けたとしても、大変な粗相じゃ」

女中は頭を地にこすりつけて誤りましたが許してくれません。

「ええい。手打ちにしてくれる」

それを止めたのはこの屋敷の若様でした。

「父上、皿一枚のこと。命までとらずとも」

「何をいう。このままではご先祖様に申し訳がたたんわ」

「そうですか。では、残りの皿を見せてもらえませんか」

他の使用人が残りの皿を若様に渡しました。

「どうするつもりだ」

父の当主は訝しみました。

「こうするのですよ」

若様は何を思ったのか残りの皿を地面に叩きつけて、全部割ってしまったのです。

それこそ当主も他の使用人も止める間もない出来事でした。

「誤って一枚の皿を割ったこの者と、わざと9枚の皿を割った私と、どちらが罪が重うございますか」

「それでも、この者を斬るというなら、代わりに私を成敗してください。私の命一つで10人の命が救われるなら安いものです」

「もう、よいわ」

当主は奥に引っ込んでしまいました。

あとに残された、使用人たちに若様がいいました。

「お前たち、悪いがこの割った皿の残骸を片付けてくれるかな」

この若様の行動に使用人は、皆、感服しました。中でも命を救われた女中は感謝の言葉もありませんでした。そして、それは小さな恋心となりました。

ですが、若様には相思相愛の許嫁がいました。また、身分違いということもあり、女中はその恋を胸に秘めたままでした。


その話は評判となり、いつしかその屋敷は皿屋敷と呼ばれるようになりました。


もうすぐ、若様の婚礼という日、突然、その許嫁が亡くなってしまったのです。健康でどこも悪くなかったのに、突然、苦しみだしたかと思うとこときれてしまったのです。若様の悲しみは並大抵ではありませんでしたが、武家の跡継ぎということもあり、独り身でいることは許されぬと新たな縁談がおこりましたが、その相手も亡くなってしまったのです。それからもおこる縁談の相手が次々と亡くなってしまうので、とうとう、若様には縁談がおこらなくなってしまいました。若様はかっての許嫁の恨みなのだろうかとも思いました。


やがて、父も亡くなり、その跡をついだ若様も今は立派な壮年となりました。妻を娶ることはあきらめ、親戚筋から養子を迎えその後継ぎとしました。その彼に終生、寄り添い、彼の世話をしたのは、かって、命を救われた女中でした。彼女に恋心を抱くことはありませんでしたが、世話をしてくれとことに感謝していました。


年を取り、臨終となりました。


かの女中に世話をしてくれたことに感謝した言葉を残し、息を引き取りました。


女中もおもいました。

「愛されることはなくともそばにいられて幸せだったと」


その時です。その女中の前に現れたのはかっての許嫁、縁談の相手たちでした。

「私達はもっと、生きたかった。なぜ、私達を取り殺したの」

「そ、、そんな、、私は何も・・何もしていない、、」

「私達は死に間際、確かにあなたの姿をみたのよ。でも、あの方に私達のあさましい姿は見せたくなかった。でも、あの方が亡くなった、いま、私達はあなたに恨みを晴らせてもらうわ」

屋敷には女たちの悲鳴ともなんともいえない声が響きました。


翌朝、かの女中は若様、いえ、もう、老人となり、死者となった隣で、冷たくなっていました。


おわり

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