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  作者: 宮嶋 健吾
4/5

穴 4

 エレベーターは下降を続けていた。速度がゆっくりなのか、それともとてつもなく深い所まで下降しているのか、次第に足元の感覚も薄れていき下降しているのかさえわからなくなってきた。男は何も喋らないので、この狭い空間に圧迫されて息苦しく、酸素が薄くなってきたのか意識が遠のいていくようだった。頭に浮かんだのは、数日前カンナと喫茶店に行った時の記憶だった。その喫茶店は昔ながらの純喫茶で、中に入ると子気味のいい鈴の音がした。クラシックがかかっていてマスターが珈琲を淹れていた。カンナは奥の窓際の席に座っていた。

「あなたはいつも突然ね」

「前もって約束するのが苦手なんだよ」いつもナポリタンを頼むのだが、これ以上問い詰められないようにメニューを眺める振りをした。

 カンナが注文したハンバーグのプレートを店員がゆっくりと机の上に置いた。ハンバーグは湯気が立っていて、鉄板の上でソースが音を立てていた。カンナはフォークとナイフを使って丁寧に切り分けて口の中に入れた。私が注文したナポリタンは中々出てこなかった。

「あなたは運命について考えたことある?」

「運命?いや、ないよ」

「私は誰かにこれがあなたの運命よって言われた場合、心の中でくそくらえって思うの。でもそうは思うけど何食わぬ顔で、確かに。そうかもね。って言うの」

「そのくそくらえってのはどうにかしてくれよ」

「それは言ったわけじゃなくて私が思っただけよ」

「思うだけにしてももっと違う表現にしたらどうかな」

「あなたは私が出かける時、どっちの洋服がいい?って聞くと大抵私が着たいと思っていた方の洋服を指さしてくれた。心の中でやっぱりそうだよね。って思っても私は違う方の洋服を選んで着ていくの」

「どうして?」

「どうしてって、ただそうしたくなるのよ」

 外に出ると雲は重たくどんよりとしていて、梅雨の時期の到来を告げるようだった。帰り道は同じ方向だったから駅まで一緒に歩いたけど、カンナは別の用事があると言ってデパートの方に歩いていった。そうして人混みに紛れて見えなくなってしまった。そこまで思い出した時地面が揺れてエレベーターは到着の合図を告げた。

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