155センチ
夏の間に少し背が伸びた。
夏の休暇がなかったかのように、あっという間に日常が戻ってきた。
毎朝、レオと一緒に、商会に行く。お昼ご飯を持って。
レオの着替えを手伝って、フェデイに今はフール語を教えている。
午後は早めに帰って、市場による。
ブリア商会は地方にも店を構えているので、その会計報告の確認なんかも、仕事になった。金庫番のイーサンさんに教わりながら、フェデイと作業している。
あの、お姉さんは、ミラさんという名で、22歳。今はパオラさんの下でしごかれている。午前中2時間くらい、フェデイと一緒に机を並べている。化粧を落としたら、、、、意外とさっぱりした顔かたちだった。
「あたしさ、、、農家の三女だったからさ、、、いつも畑仕事の手伝いさせられて、いやでいやで、、、、でね、家出して、都会に来たわけよ。そしたらさあ、、、変な男に引っかかって、このざまよ。今さら、読み書き覚えてもねえ、、、、」
と、言っていたが、フェデイが丁寧にブリア語の読み書きを教えている。
「あんた、小さいのにすごいねえ!」
なんて言いながら、勉強している。結構仲良しだ。
時々、マッテオが心配して?様子を見に来る、、、、、
リーさんは、休み明けにラーシ領に出掛けた。片手鍋を持って。
何か楽しいことでも見つけたのか、いまだに帰ってこない。
レオは相変わらず忙しそうだ。
でも、、、もうチビ助、とは呼ばなくなった。うふふっ
いつもより多めに仕入れを指示していたキャラバンもだんだん帰ってくるらしい。
春に、出発して、ブリアからイリア。船でフール。フールを縦断して北回りで栄国にはいり、市で出店。帰りは栄国産の絹の織物を買い込んで、フールではまた、陶器とちょっとわからない芸術作品とか、、、乳製品やベーコンなんかは、別便で送る。
イリアでまた、宝飾品や、裸石なんかを買い込んで、帰郷。の予定なのだが、今年、フールでの買い付けが多く、時間がかかってしまったらしい。
「クロエ、キャラバンが帰ってくると、隣の宿舎が騒がしくなるから、、、、勝手口ちゃんとカギ閉めろよ?開けて、って言われても、開けちゃだめだからな。」
「・・・・子ヤギでもあるまいし、、、、」
「あんまり、ふらふらするなよ?市場も、ノアと一緒の時だけにしろ。な?」
「・・・・・お父さんですか、、、、」
*****
何事もなかったかのように、クロエが一緒に出勤する。
みんなが、、、、もっと驚くかと思ったのに、、、割と普通だ。お帰りーとか、お土産ありがとう、とか、ちょっと背が伸びたんじゃない、なんて話しかけている。
ま、、、、いいかな。
「・・・良かったですね、当主。」
パオラが、書類を片づけている俺にお茶を出して、言う。
「ほらね?やっぱり、帰ってきてくれたでしょ?クロエ様。」
「・・・・ああ。」
「で?で?ちゃんとプロポーズしたんですか?そこ、大事ですよ?」
「・・・あと、、、、2年。」
「・・・・ああ、、、16まで?でも、約束はしといたほうがいいですよ?これからクロエ様は綺麗になりますよ?多分、、、当主が思うよりも。その時に、横から若くていい男に攫われてしまいますよ?うふふっ」
「・・・・・」
「当主、賭けに負けてよかったですね。俺たち勝ちましたねえ。10万ガルド下さい。」
「まあ、帰ってくると思ってました。しかも、いきなり愛称呼び?なにかあったんですか?ん?」
「そうそう、いきなり、レオ、だもんな。びっくりした。当主は、くくっ、、クロエとか呼んでるし。」
そう、帰ってきてからというもの、クロエは俺に対して丁寧な言葉遣いをやめた。
どちらかというと、、、自分の弟に話すみたいな?
でも、まあ、そのほうがいい。
10万ガルドは払った。リーが帰ってきたら、みんなで飲みに行くらしい。
キャラバン隊も帰ってきた。
倉庫に荷物が入りきらずに、2階の客間を一つまた、倉庫にした。
客注品は、店に届ける。王都に、貴族用の店を1軒、下町に庶民用の店を1軒構えている。それぞれ店主を置いて、経営は任せている。地方にある店も同じような運営方法だ。
自信がついたら、独立すればいい。店を買い取って独立した奴は何人もいる。
店主はみんな一緒に働いてきた奴ら。所帯を持ったり、自分独自の営業を掛けている奴もいる。奥さんとカフェを始めた奴とかね、、、
《《武器と人》》以外は何を扱ってもいい、というのが。俺の師匠から続く教えだ。
たまーーに、俺かマッテオがふらりと訪ねたりするが、経営は良好なようだ。
キャラバン隊のリアム隊長が帰ってきたので、しばらく休ませたら、後のことを任せて、クロエと地方支店巡りにでも行くかな、、、、
リアムは俺の3つ上だが、俺が先に弟子入りしていたので。
もちろん、独立したり、自分で事業を起こす実力は持っているんだが、ちまちま貴族の御機嫌を伺うより、旅に出ていたほうが好きみたいだ。
仕入れも間違いない。価格交渉も。
俺が師匠から独立して、フールからブリアに出てくるときに、ついてきてくれた。
「お帰り、リアム。
いい知らせと、残念な知らせ、どっちから聞きたい?」
マッテオが、荷物の片づけにひと段落してお茶を飲むリアムに絡んでいる。
「あ?」
「まずねえ、、、なんと!師匠がブリアのハウル領に滞在しているよ。」
ぶはっ、、と、音を立てて、お茶を吐き出す。
「・・・・まじかあ、、、、静かだなあ、とは思っていたけど、、、フールで無駄に絡まれないし、、、」
「それからねえ、、、なんと!当主が嫁を貰いました!!」
「えええ????だ、、、誰?まさか、、、パオラ??」
「おやおや、、、パオラは大丈夫だよ?心配するな。」
「・・・・・」
マッテオがいたずらっ子みたいに笑う。リアムは、、、、パオラに長いこと惚れているんだけど、、、、
「クロエ、っていう子。すぐ会えるよ。ここで働いているから。いい子なんだ。」
「・・・嫁じゃないから、、、、」
「またまたあ。そんなこと言うと、叱られますよ?当主。」
「・・・・・」
「・・・叱られる?レオが?」
リアムがわかりやすく困惑の顔つきになったとき、、、
「まあ、まだこんなところにいたの?レオ?カールさんがさっきから探していますよ?早くお着替えしないと!」
部屋に駆け込んだクロエが、リアムに気が付いて、礼をする。
「まあ、失礼しました。隊長のリアム様ですね?初めまして。レオナルドに嫁してまいりました、クロエと申します。クーとお呼びくださいね。」
と、にっこり笑った。
「当主はこれから公爵家に納品に出掛けますので、少しお借りしますね。ごゆっくり。・・・・・はい、レオ、急いで、着替え着換え!!」
レオが小さい娘に引きずられるように連れていかれる。
あんぐりと口を開けて、その光景を眺めていたリアムが、、、
「え???あの子?まだ子供じゃないか??まじか??当主、、、、そんな趣味だったんだ、、、、」
「ぷぷっつ、、、なかなかお似合いなんだよ。そのうちわかるさ。」
「・・・・へええ、、、、レオのことだから、、おっぱい大きな綺麗どころが好きなのかと思っていたんだけどね、、、、可愛い系が好きだったのかあ、、、、」
廊下を引きずられていくレオを、みんなが生暖かい目で見ている。
その光景に、、、、また笑ってしまった。