152センチ
今日は午後から、王城のセレモニーホールのカーテンの入札がある。
決まれば大きい。
うちの商会は、、、今一歩のところで御用達、まで行かないんだが、公爵家が後押ししてくれるので、参加権は取った。物には自信があるから。舐められないようなきちんとした装いで向かいたい。
カールが用意した見積書を再確認する。サンプルも見直す。
このサンプルは、あの胡散臭い男も誉めてくれていた。悪い気はしない。
そうしている間に、クロエが俺の髪に櫛を入れる。鼻歌を歌っている、、、
椅子に座っている俺と、同じくらいの目線だ。
書類をしまって、来ている手紙を開封して読む。
大体は、、、資金援助しろ、だの、新製品が出来たので見に来てくれだの、、、、
「え?」
何通目かの手紙に、驚く。フールにいる師匠から。
【お前に頼まれていた牛と豚は出発させたから、あと、2週間。飼育担当者は2名。ブリア語が使える。
フールの軍部の動きが不審。秘密裏に武器を集めている商人がいるから、お前のとこも気をつけろ。金物加工から目を離すな。いよいよ危なくなったら、ブリアにみんなで引っ越すから。よろしく。30人くらいかな。今回は避暑を兼ねて、様子見がてら、少し遅れてブリアに入る。】
「あら、ではだんだんつきますね?」
お前、、、フール語読めたの?肩越しに声がする。
「30名くらいでしたら、うちの領主館にお住まいになればよろしのでは?無駄に広いですから。落ち着くまで、いくら滞在していただいても。レオ様の、大事な方なのでしょう?」
・・・・いい考えかも。どうせ、あの人のことだから、商売はどこでも動かすだろうし。でも、俺のテリトリーに入り込むのは勘弁してほしい。
しかし、、、、軍部がきな臭いとか、、、師匠が言うなら、近々何かしら起きるの確定だな。ブリアに飛び火しないことを祈ろう。金物、、、か、、、ラーシ領を押さえておくか、、、鍋でも大量に発注する??ま、師匠と話してからでいいか、、、、ラーシで、鍋、と、メモをしておく。
フールの国王は、平和主義なおとなしい方だったから、、、国もまあまあ、、よく治まっていたし、、
「じゃあ、クロエ、お願いしたい。経費は心配ないからな。ハウル侯爵には、、、」
「私が書簡を送っておきますわ。レオ様はお忙しいんでしょ?」
こともなげにそう言うと、はーい、いい男が完成しましたあ、、と、、、俺の肩をポンポンっと叩いた。
*****
【お父様へ
皆さまお元気でお過ごしでしょうか?
春に頼んでいた子牛や子豚が、あと10日ほどで到着の予定です。
飼育指導の方が2名来てくださいます。帰り荷で、小麦を買い付ける予定だそうですので、荷馬車を入れ替えて差し上げてください。匂いが抜けないでしょうから。
後ほど、旦那様の親代わりの師匠様も様子を見にいらっしゃるそうです。
お付きの方も含め、総勢30名ほどになるかと。
避暑を兼ねて、長期の御滞在になるようですので、領主館の用意をお願いいたします。滞在中の経費については、ご心配なく。
だんだんと暑くなってまいりましたね。
お体御大事に。
旦那様が、師匠様にご挨拶に伺いたいとおっしゃっておりましたので、私もご同行できればいいなと、、、、
それでは、先生やミカエルにもよろしくお伝えくださいませ。
クロエ】
*****
6月末には無事に、師匠たちの商隊がハウル領に入った。
追って、師匠たち御一同もハウル領に入った。
そのままただ滞在するわけにもいかないので、畜舎の建設や、柵の修理や、、、、色々手伝うことにしたようだ。事務管理は、あちらにもエキスパートが揃っているので、うちから出さなくてもよくなった。
小麦を買い付ける班は、東部のユーハン領に向かった。心配していた荷台は、ハウル家のものと入れ替えてくれたようだ。
そのうち、顔を出しに行こうと思う。
*****
王城に詰めていたカールが、帰ってきた。
「当主、王城のカーテンの受注、取れました。秋の舞踏会まで間に合わせるように、と。」
「・・・10月末か?間に合うか?」
「はい。急がせます。」
「頼む。手配は任せた。」
「はい。それで、、、、」
「ん?」
「公爵家夫人が、、、、」
「ああ、、、、お礼に伺うか、、いつだ?」
「今日の、夕方からのサロンに来てほしいそうです。いかがいたしますか?」
「・・・・行くしか、ないんだろう?サロンは何人呼ばれているんだ?」
「侯爵家以上の奥方、今回は10名ほど。深紅のバラを手配いたしました。金目のものは、他の方に誤解を与えてしまいそうなので、、、フールの30年物のワインを、何本か。」
「まあ、妥当な線かな。お前も、正装しろ。少し遅れて行こう。」
「・・・・・」
サロンとか言っても、ご婦人方の噂話の井戸端会議、みたいなもんだ。
俺みたいな平民がのこのこ行けるところではないんだが、、、まあ、、しょうがないか、、
クロエに言って、支度を用意してもらう。こいつも、程よく、を、よく知っている。13の小娘だけどね。
「・・・そういうわけだから、今日の夜は遅いから、ちゃんと鍵かけろ。リーに気をつけろ。晩飯を渡したら、勝手口も閉めろよ??寝ていていいからな?」
「はいはい」
「なんなら、、パオラを連れていくか?」
「大丈夫ですよ!子供じゃないんですから。」
・・・子供じゃないか、、、
夕方、馬車に乗り込むと、カールの場所に、、、リーが正装して乗り込んできた。
ナニヤッテルノ???
「カールが、腹がいたいというので、代わったんだヨ。サロン?いいねえ」
カール、、、、行きたくないのは、俺もだ、、、覚えてろ、、、
「大丈夫!うまくやるよ!クーに晩飯は要らないと言ってきたカラ。お前、俺とクーが一緒にいるの心配なんだろ?フフフ、、、カールの支度が、サイズピッタリで良かったな。久しぶりにいい酒が飲めるナ!」
いや、お前、宿泊所に置いてある酒、飲んでるでしょ?いいやつだよ、あれ。
それに、、、クーとか、、、なんなの?
まあ、、、いいか、、、あの人たち、退屈してるから、リーみたいないい男は歓迎されるだろう。長い黒髪を後ろに緩く縛っている。色気もある。俺にとっては胡散臭いだけだけど、、、エキゾチック?ミステリアス?、、、カールは、、、いつもご婦人方にかわいがられているし、、、
開催時間から、ほんの少し遅れて行くのがコツ。深紅のバラは、かなりの本数が、上品にラッピングされている。一歩遅れて、ワインを持ったリーが続く。
*****
眠れませんわ、、、、
レオはまた、あのバラの香りの人といるのかしら?
匂いが移るくらい近くに。
大人の人なんだろうなあ、、、当然、、、
私も早く大きくなって、、、、レオの隣に立ってもおかしくないように、、、
帰ってきたときに、真っ暗な部屋では嫌でしょうから、ランプを小さくつけておきますね。
明日の朝は、また御寝坊ですね?
なんだか、、頭に来たので、レオのベットに潜り込みます。
洗いたての枕カバーですが、レオの匂いがします。
早く帰ってこないかな、、、、、
*****
「あら、レオナルド、いらっしゃい。」
出迎えてくれた公爵夫人は、肩を出したブルーのドレス。胸がこぼれそうで危ない。
「まあ、素敵なバラ、、、、ありがとう。」
「いえ、公爵夫人の前では、くすんでしまいますね、、、」
「ふふっ、今日はまた、、、変わった毛並みの従者を連れてきたのね?」
「・・・ええ、リーと言います。お見知りおきを。」
控えていたリーが、公爵夫人に綺麗な礼をする。こいつ、、、なにもの?
リーが持ってきたワインとシャンパンを、執事に渡す。
銘柄を見て、眼をむいている。ああ、いい感じだね。
あちこち挨拶に連れまわされてから、ソファーに座る。
先ほどのワインが饗される。
「あら、いい年のワインね。さすがだわ。」
「お褒め頂き、恐縮です。此度は、お世話になりました。」
リーは、ご婦人方と歓談中だ。楽しそうで何より。
夫人のあふれそうな胸が、手に取ったグラスごと近づく。
「将軍がね、ルビー商会を押しているらしくて、このサロンにも呼ぶように、旦那様にお願いしたらしいわよ。」
「・・・・・」
「今回はお断りしましたが、、、、、本気みたいね、、、何かしら?」
「・・・・・」
「あまり、、、良い趣味の商会ではないでしょ?なんだか、、、将軍らしくもないし、、、気になって、、、、」
「・・・・・」
「あなたも、気を付けたほうがよくってよ。あの人も爵位持ちだから、、、」
「・・・・・」
表情を崩さず、ニコニコして聞く。はたから見たら、世間話しているようにしか見えないだろう。実際、他のご婦人方は、リーを囲んで、にぎやかにやっている。
「そう、、、、そう言えば、面白いことを聞いたわ。」
夫人が声のトーンを替える。聞こえてもいい話になるようだ。
「レオナルド、、、あなた、ついに結婚したんですって??」
ワインをのどに詰まらせそうだ、、、ごほり、と、息を吐く。
「貴方を狙っている人は多かったのよ?愛人にしてもいい、パトロンになってもいい、ってね?」
「・・・・・・」
「しかも、奥方はまだ、幼児だって噂よ?ホントなの?幼児はまずいわよね??」
やめてください、、、夫人、、、、
「あなた、、、だめよ、幼児相手に《《おいた》》は、、、」
「違います、、、都合があって、知人から預かっているだけです。本当です。紛らわしい言い方はおやめください、、、、」
「あら、、、そうなの?」
「はい、、、」
気が付くと、ピンクのドレスのご婦人の腰に手をまわしたリーが、にやにやしながら俺を見ている。お前、、、、笑いごとか、、、
まあ、やっぱり、なんて、声が聞こえる。勘弁してほしい、、、
公爵夫人が扇子越しに楽しそうに笑っている。