まだ150センチ
その日の夕方、いつものように自宅のドアを開けると、、、、
「・・・・なんだ?どうしたんだ??このベット???」
ベットが一つ増えていた。しかも、ぴったりくっついている。
「ご近所のハンスさんが、お嫁に行ってしまった娘さんのベットが余っているから、と、譲って下さって、、、、皆さんで運んでくださいました。皆さん、親切ですよね?うふふっ、レオ様からもお礼を言って下さいね?これで、レオ様の腰も大丈夫ですね!」
え???入れたの?うちに?ジジイたち???
しかも、、、こんな、、、並べて置くなよな???
何事もなかったかのように、晩御飯になる。
気が付くと、椅子も一つ増えている、、、、
「椅子も一つ、使っていないのがあるから、と、頂きましたの。うふふっ」
うふふっ、、、じゃねえだろう???
住む気、満々じゃねえか??
クロエは片付けが終わると、さっさと風呂に入って、着替えて寝てしまった。
今日から、ベットが戻ってきた。心底喜べないのは、手を伸ばせば届くあたりに、ぷくぷく金髪の小娘が寝息を立てているからか、、、、うーーーん
次の日、パオラに布切れをもらって、ベットの間に仕切りを作った。隙間も開けた。
「まあ!!!素敵な布地ですわねえ、、、」
気に入ってもらえて何より、、、
いつの間にか、間仕切りの布地に合わせて、ベットカバーやら、クッションや、カーテンがどんどん新しくなっていく。パオラにあまり布をもらってきてこつこつ作っているらしい、、、、、住む気満々?
*****
いつものように家に帰る。
玄関先で、もう、夕食のいい匂いがする。
「・・・ただいまあ、、、」
ホント、いつものように帰っただけなんだけど、、、、、見知らぬ男が、飯を食っていた。・・・・・・・誰?
チビ助の姿が見えない、、、、え、、、?
「おまえ、、、、、誰?」
「あら、、お帰りなさい!」
台所にいたらしいチビ助が、走って出迎えてくれる。
「ご飯が出来ていますよ?」
「・・・・・この人、、、、誰?」
「ああ!!紹介しますね、リーさんです。今日、市場で拾いました。」
おまえ、、、、見るからに怪しそうなこんな男、拾ってくるなよな?
「お金を盗まれてしまったらしく、お腹を空かせて倒れておりましたの。先ほどから、ご飯を食べ続けていますね、、、、よかった!元気になって!!」
おまえ、、、、危機管理とかいう言葉知ってるか?俺の五感全部で、こいつは怪しいと言っているぞ?????
リーさん、お水飲みますか、とか、言ってる、おまえ!!!おい!!
「・・・・・それで、リーさんはお金もなく困っているようなので、旦那様が何とかしてくださいますわ、と、言っていたところですの。座って下さい。ご飯だしますよ?」
は???
俺、こんな胡散臭い奴に貸す金はないけど??
黒髪を後ろに縛って、白のブラウスに、黒のスラックス。靴は、かなりいいものだ。盗まれなくて良かったな。チビ助に笑いかけているけど、、、、
渋々、その男と向かい合って、ご飯を食べる。
本当に、腹が減っていたんだろう、、、黙々と食べている。
俺も、負けずと食べる。鍋ごと食われそうだ。
食後、出してくれた紅茶を飲む。
変な男も、腹をさすりながら、飲み始める。20代半ばぐらいか?
「ダンナサン、ダイジョウブデス、ボクハクニモトニ、キレイナ ヨメガイマス。」
俺の視線に、その男が話し出した。
「アナタノ ヨメモ カワイイ イイヒト。フフ」
栄国なまりのわざとらしいブリア語。こいつ、、、、わざと?
「サケヲノンデ ネテイタラ ナンニモ ナクナッタ。ブリアハ チアンガイイト キイテイタノニ。」
「わかったから、、、、普通に話せ。栄国語のほうがいいか?」
「ああ、どっちでもいいヨ。」
「まあ!!!旦那様!栄国語も話せるのですね!凄いですわ!」
・・・いや、、、おまえ、、、そこじゃないから、、、、
この男を、この家に泊めるわけにもいかないので、従業員用の宿舎の隣の屋敷に泊めることにする。まあ、盗まれて困る物はないし、、、、風呂と着換えは、明日考えよう、、、、
「クロエ?」
「はい?何ですか、レオ様?と、いうか、、隣のお屋敷は、空き家ではなかったんですのね?」
風呂から上がり、髪を拭いていたチビ助に言う。ここは、しっかり。
「ああ、元々は俺の住居用に建てたんだけどな。従業員が次々に越してきて、キャラバンで出ている奴らが帰ってくると、、、、、じゃなくて、、、、あのな?いい人ばっかりじゃないだろう?あいつが、俺のいない間、お前を襲ったりしたら、どうするつもりだ???」
「・・・・まあ!!レオ!私のこと心配してくださっているのね?うれしいわ!」
にこにこ笑うとこ?ここ?
違うから、、、あ、、違わないけど、、、そこじゃない、、、
どうも、行き倒れた奴を市場で見つけて、近所のジジババと運び込んだらしい。
俺が帰る直前まで、ジジババが、食うもんを運んだりしてくれていたみたいだ。
それにしても、、、、
胡散臭いものを、拾ってくるな!!!
栄国人で、ブリア語ぺらぺらの時点で、十分怪しい、、、結構、いい男だし、、、
仕方がないので、次の日は奴を事務棟に連れて行って、風呂に入れ、着替えを用意させた。うちの商会では、働かないものは食べれないので、、、こいつがいる間は、栄国語を従業員に習わせることにした。
・・・・・クロエも、興味津々で、参加していた。
かえって、人目があって安心だ。
胡散臭い男は、栄国語を教えるのは上手い。みっけもんかもな。
栄国での絹の仕入れに、どうしても必要な言語だから、、、
まあ、そのうち帰るだろうと思っていたんだが、胡散臭い男、リーは、まだいる。
給与も払っているので、栄国への旅費ぐらいはギリギリたまっただろう?早く帰れ。
栄国語を教えたり、最近は、パオラの布地の選定なんかを手伝っている。目は確かなようだ。時々、王都をふらふらしているようだ。
「いい街だねえ」
なんて言ってる。怪しい、、、、
いつまでいるんだろう?
クロエと3時になると一緒に帰ろうとするので、、、、危なくない?
嫁がいるとか言っていたけど、、、よくよく聞いたら、まだ幼いらしい。
他人のことは言えないデショ?って、言ってたけど、俺、まだ、嫁いないし。もらう気もないし。クロエは嫁に来たと言っているけど、誰も本気にしていないし、、、
【お父様へ
皆さま、お元気でお過ごしでしょうか?
私は少し背が伸びました。
旦那様はまだ、私のことをチビ助、としか呼んでくれませんが。
旦那様は長身ですので、185センチくらい?母様も165センチくらいはあったようなので、それぐらいに伸びれば、並んでも、親子だとは言われなくなるかしら?
近所の方たちは、私のことを、旦那様の隠し子だと思っていらっしゃるようで、、、
違うんですけどね?
家庭教師の先生は厳しかったですけど、いつか役に立つものですね。
料理も習っておいて良かったです。
近所の方もよくして下さり、市場もにぎやかで楽しいし、旦那様の職場の皆さんも親切でいい人ばかりです。
やはり、、、お父様や先生がおっしゃっていた通り、とても良い方です。このような方に嫁げて、私は幸運だったなあ、と、思います。
今は、、、まだ、、お嫁さん認定していただけませんが。
毎日、新しい色々なことが経験できるのは、本当に楽しいです。最近は栄国語も習い始めました。
元気にやっております。ご心配なさらず。
ミカエルにも、よろしくお伝えくださいませ。
6月のお天気のいい日に
クロエ
封筒に手紙を入れて、外の物干しに揺れるシーツを眺める。
レオは昨日はお付き合いでお酒を飲んで、遅くに帰ってきて、まだ、起きそうにありません。
リーさんは朝からお出かけしています。
いいお天気です。遅い朝ご飯を食べたら、一緒に市場に行きたいなあ、、、
レオのことだから、めんどくさがりますね、、、ふふっ