164センチ
翌年の春に、と、言ってもまだ春浅い頃に、フィルさんが久しぶりに晩御飯に来た。
せっせと太らせたのに、また痩せている。背ばかり大きくなって、肉が付いていないわ!!
女の子を一人連れてきた。
「あら?フィルさんが拾ったの?」
「ああ、、、ソフィーという。フールで拾った。しばらくこっちで暮らす。」
「・・・・・自分で拾ったやつは、自分で面倒見ろよ?」
めんどくさそうにレオが言う。
「・・・・・クーと年が近いから、、、言葉と、礼儀作法を教えてくれないか?あと、、、フールに行ける有能な家庭教師を一人探している。」
「あら、、、、家庭教師なら、、、私の先生が、、、異常に優秀だけど?
5か国語と経済学と社交、、、もちろん一般教養まで。」
「クーの?紹介してくれ。すぐ。」
「・・・・・んーーーーまあ、弟の教育も終わったみたいで、今は領地経営に力を入れているみたいだから、、、、、お父様に聞いてみないと、、、、多分、離さないわね。」
「・・・ハウル領か、、、、、うん、、、、」
4人で晩御飯を食べた。
ソフィーと呼ばれた子は、がりがり。借りてきたみたいなぶかぶかなワンピースを着ている。
12歳くらい?うちの弟と同じ年位かしら?
ご飯は食べているが、、、、ほとんど話さない。
フェデイも最初はそうだったなあ、、、、おどおどして、、、、そうよね、、、急に違う環境に連れてこられたら、、戸惑うわよね、、、、
『ソフィー?これからよろしくね?私はクロエ。クーって呼んでね?』
*****
それから、ソフィーは毎朝ブラウ商会に送り届けられ、午前中は勉強し、午後はパオラさんを手伝いがてら、刺しゅうやお裁縫を習ったりしている。
布地を選んで、今、自分でワンピースを縫っている。
夕方、フィルさんがよこす馬車で私と家に帰り、一緒に晩御飯を作って、帰ってきたレオとフィルさんと4人でご飯を食べる。
時々は、御者さんに付き添ってもらって市場によってお買い物もする。
市場に並ぶ商品の多さに、ソフィーが驚いていた。
『これでも少し、流通は減っているのよ?今まで通りにはいかないからね。
何か食べたいものはある?』
『・・・・・クッキーを、、、、作ってみたいんですけど、、、、』
あら。
『・・・え、、、と、、、フィル様が、朝ごはんを召し上がらないので、、、』
あら。フィルさん、ちゃんと食べなさい、と、あれほど言っているのに。
『じゃあ、材料を買っていきましょう?何を入れたい?バランスよくねえ、、、あんまり好き嫌いはないみたいだから、、、、バター、ハチミツ?木の実と、ドライフルーツと、、、、』
晩御飯を作り終えて、時間があったので、オーブンを温めて、クッキー作りを始める。材料を混ぜて、スプーンで置いていく、一番簡単な焼き方から。
ソフィーは真剣だ。かわいい。
『・・・・・あの、、、、、クロエ様は、、、その、、、、』
クッキーをオーブンに入れて、お茶にする。
「??」
『・・・・・フィル様と、、お付き合いなさっているんですか?お、、お似合いですよね、、、、』
『え??』
『・・・クロエ様の料理を楽しみにされていらっしゃるようですし、、、その、、、』
・・・・は?考えたこともなかったわ、、、、
「あのね、、、」
と、言いかけた時に、レオとフィルが揃って帰ってきた。
慌てて、スープの鍋を温めなおす。フライパンで、用意していた鶏肉を焼き始める。
クッキーも焼きあがったので、オーブンから出して冷ましておく。
あらかじめ作っておいたサラダを、ソフィーちゃんが並べる。
「ああ、今日はチキン?うまそうだね?」
フィルさんが台所を覗き込む。
「チキンピカタよ。ふわふわよ。ふふっ。ご近所の方に、卵を沢山いただいたの。鶏を飼っているんですって。うちも飼おうかしら?」
「朝、うるさいよ?寝坊できないからいや。」
「まあ!レオ。」
明日、久しぶりに休みなので、隣の宿舎から、赤ワインを一本持ってきたらしく、二人で飲み始めている。チキンなら、白でも良かったなあ、なんて言っている。
「そうそう、フィルさん、朝ごはんちゃんと食べなさいよ。ソフィーちゃんが心配しているわよ。まったく。」
「・・・・ああ、、、実家で食事はとらないようにしてるんだ、、、」
「え?、、、、今頃、反抗期??」
「まあ、、、クロエ、、、いいから、、、ご飯にしよう。」
4人で食卓に向かう。
ピカタは上手に焼けた。お好みで、温めたトマトソース。あっさりめがお好みなら塩コショウのみ。レモンも添えた。
スープは、春キャベツとジャガイモとベーコン。丸いパン。春野菜のサラダ。
後片付けは、男二人がやってくれているので、ソフィーちゃんとクッキーの味見をする。
「うん、うん、いいんじゃない?美味しい。」
「はい。美味しいです。」
「フィルさんも喜ぶんじゃない?あの人、甘いものも好きよ?レオの分、2枚くらい貰ってもいい?」
「はい!もちろんです。・・・・兄妹、仲がよろしいんですね?」
「え???」
「え?」
「なになに?クッキー焼いたの?」
手を濡らしながら、皿洗いを終えたレオが来たので、口にクッキーを詰め込む。
「あ、、うまい、、」
タオルで手を拭きながら、レオが言う。
私たち、、、何が足りないのかしら?兄妹に見えるのね?まあ、、、ちょっと前までは、親子と間違われていたから、、、、ちょっとは進歩したのかしら??
いや、、、、根本的に、、、違うわ!
足りないのは、、、、、ときめき??
ほっぺにキスとかしている、この男が悪いに違いない、、、、、
じと目でレオをにらんでいると、レオがおびえる。
もう、私たち、熟年夫婦みたいじゃない?なんて、、、、他の人には見えないのね、、、、
*****
しばらくして、ソフィーちゃんのワンピースが出来上がった。
せっかく綺麗に着飾ったので、ダンスの練習をすることにした。
ダンス用のシューズを、パオラさんが揃えてくれていた。
「ダンスは初めて?」
「・・・いえ、、、基礎は、、少し、、、、公の場には出たことがありませんが、、、」
執務室にいたレオと、カールさんを呼び、ダンスの練習を始める。
カールさんは、、、、仕草も上品、とびぬけてダンスも上手だ。何者だろう??
私とレオ。カールさんとソフィーちゃんで、ご挨拶から、ダンスの練習。
物凄く意外だったけど、イーサンさんがバイオリンを演奏してくれた。
レオは、、、、こう見えて、中々上手。私も背が伸びたので、踊りやすくなった。
カールさんとソフィーちゃんのダンスは、、、、完璧じゃないの??
少し、、、どころじゃないわね??カールさんのリードも上手なんだろうけど。
身長差を感じさせないほどの一体感!!!
ソフィーちゃんは、初めて見た頃よりも随分ふっくらして、年相応の可愛らしさが出た。髪も、ぼさぼさでつやがなかったけど、今は、金髪がきらきらと波打っている。
薄いブルーの瞳、、、、
カールさんの銀髪にアイスブルーの瞳、、、、なんだか二人共、とても素敵!!!
ダンスについては、残念!教えることがないわ!!
「お嬢さん、ちゃんと俺のことも見てね。」
耳元で、レオがいたずらっぽく笑う。くすぐったい。思わず笑ってしまう。
「レオも素敵よ。」
「・・・ありがとう、、、」
うふふっ
一曲終わるころ、早めに迎えに来たフィルさんが、壁にもたれて眺めているのに気が付いた。あら、、、
さりげなく、ソフィーちゃんにダンスを申し込んでいるみたい。
びっくりしたソフィーちゃんが、真っ赤だわ。
フィルさんとソフィーちゃんのダンスは、、、、なんというか、、綺麗だった。
二人共、何とも言えない品があるのが不思議ね、、、、二人共、普段着なのに、、、
「クロエ、、、、よそ見ばかりしないで、、、」
レオ、、、まさかの焼きもち??だったら、、嬉しいんだけど!
「・・・さっきから、俺の足踏んでるよ?」
あら、、、、
*****
実家のハウル領にいる家庭教師の先生が、王家からの委託を受けて、フールに仕事に行くことになったのは、初夏のころ。
父は心底嫌がったが、領地の管理は、レオの師匠とミカエルが担うことになった。
出された条件が良すぎたらしい。
父は、、、、母が亡くなってからずっとやもめ暮らしだったが、、、先生を好きになった。ただ、、、結婚するには大きな障害があった。先生は、孤児だったから。
アカデミアも卒業し、経歴もあった。私たち姉弟も尊敬し、なついていた。母がいなくても寂しくなかったのは、先生のおかげだ。でも、、、、さすがに侯爵家に嫁ぐには、、、、、
そこで、交換条件として、一度、伯爵家の養女として迎えられ、そのあとすぐ、侯爵家に嫁ぐ。王家直々に動いてくれたので、なんとも早い展開だったらしい。その代わり、、、、4月から10月までの半年間、フールに派遣される。5年間。
ギャラも破格だ。とりあえず、今年は6月から出かける。結婚式は、帰ってきてから行うらしい。
いつか贈った木彫りのクマは、、、本当に親子になった。
すごく嬉しい。
私は平民なので、式には参列できないけど、お祝いは贈ろうと思う。今から楽しみだ。
レオとその話をしていると、なんだか、微妙な顔をした。
なんかまた、、、変なこと考えていない?




